Open Menu
我が永遠の友・2
戻る目次進む
 人間の女の生殖器には全く興味のねえエーダリロクは、カレティアの股の間を見て首を捻る。こいつ、本気で気付いてねえ!
「あれが女の生殖器だ」
 同い年の男に指差しながらヴァギアだって教える俺の身にもなれ。っても、ペニスもついてるから解らない……訳ねえよ! 男なら解るだろ、本能で。
「ええ! あれが! 始めて見た!」
 二十一歳の王子なんだがなあ、エーダリロク。手前、頭はすこぶる良いんだが、なんつーか天才って常識ねえ! の典型だよな。
「俺はあんまり女の身体に詳しくないんだが、女ってあんな身体なの? 俺には両性具有に見えるけど。女ってチンコついてても女なのか?」
 ロヴィニア王。結婚させる前に実弟の性教育どうにかしろや。
「今、三十の王女がいたら皇后本決まりだ。それに女にゃペニスは付いちゃいねえよ。メーバリベユ侯爵がそうだったろうが」
 良い身体した女だったけどよ。
 向こうは俺が侯爵を押し倒して、それを見て興奮してつられて「夫」が混ざってくることを期待したらしい。その手段を選ばない捨て身な態度、中々やるじゃねえか。ただ、エーダリロクにはそれは効かねえだろうな。
「……どゆこと? でも、ラティランと精神感応が使えるわけだから男ではあるんだよな」
「そうだろうな。カレティアはザウディスよりもランクが幾つか下のアグディスティス・エタナエルらしいぜ」
「観て解んのか?!」
「尿道が見当たらねえから、尿道は俺達と同じペニスに存在してるみてえだ。ザウディスは尿道口は女と同じだから、排尿時に誤魔化しがきかねえが、カレティアはそこが誤魔化せて、ラティランと精神感応が開通してるから、誰も女部分があるとは疑わねえんだろう。っても、特徴的な両性具有のヴァギ……何出しやがった? ラティラン」
 ラティランが丸いってか、奇妙な形のガラスっぽいのを取り出した。
「なんだ、あの形は」
「あれ? アレはわかるぜ。電球の形だ。でもフィラメントは入ってないから電球とは呼べないかもしれねえな。電球ってさ、地球世紀の頃の光源の一つで、電池っていう」
 さすがトップクラスのエネルギー技術将校、だが、それ以上はいい!
「まあ、落ち着け。解った、じゃあアレがガラスで出来ててもおかしくはねえし、形としてもおかしくねえんだな」
 そこらへんから取った飾り用の果物を散々中に突っ込んだ後……その形なら、入るだろうなあ。
「一般に普及していた頃の標準だっ! うあ……電球形の使い方じゃないぞ!」
 ラティランの野郎、栗やら葡萄を突っ込んで弄んだ仕上げとばかりに、そのガラスを突っ込んだ。あのムリヤリ突っ込んでる時の音からすると、細かくは砕けねえタイプだが、ラティランが “入ってる” 真上に足を置いて踏みつける。
 必死に腹筋やらなにやらで抵抗してるが、ラティランが上からかける圧力の方が強い。
「あんな事したら、割れるに決まってるじゃねえか」
「ガラスが大きく割れて細かいガラス屑が出来ない様のヤツらしい。わざわざ作らせやがったのかどうかは知らねえが。どうやら開放はしてやるらしいな」
 踏み割って、血が出てるのをみて薄笑み浮かべてラティランは去っていった。
 あの割れた音からすると、五つくらいに割れて膣内に刺さったらしいが……匍匐前進開始したいから、早く居なくなって欲しいもんだ。
 それにしても、両性具有はあの辺り全体的に「核」だろ? なんでわざわざ傷つけて遊んでんだ? まあ……俺の知ったこっちゃねえが。
「すげー血出てるな」
「思いっきり切れてるからな」
 カレティアは自分で破片を全部引き抜いて、ハンカチを押し込んで立ち上がった。
「少なくとも、ザウよりは男らしいな」
「ザウディスは仕方ねえだろ。で、この事どうする? 陛下にご報告申し上げるか? エーダリロク」
 両性具有は皇帝にも王にもなれない。それがテルロバールノル王の座についているとなれば……
「今は報告しなくてもいいんじゃねえの? 折角だから、これから証拠集めてカレティアを恐喝する」
「恐喝ねえ」
 さすが恐喝・強請がお家芸なロヴィニアだ。
 そんなロヴィニア気質が確かにあるのに、何故手前は女に対してロヴィニア気質じゃねえんだよ。
「俺とお前はこの先もこうやって、監視映像に捕捉されない部分を匍匐前進するだろうから、何度も遭遇する可能性が高い。だから、このありとあらゆる撮影妨害波を超えて証拠を撮れる機械を作る。そしてあの二人の今のようなのを映像に収めてから “結婚しなくてもいいように” 協力させる」
「そりゃ良いかもな……それにしても、驚きだ。さて、陛下のお部屋まで行ってご挨拶申し上げようぜ」
「おう! あ、なあビーレウスト。俺達確か会議に出席するように通達されてなかったか? 帝国騎士の」
「んなの構ってられるか!」

*************

 儂は備え付けのベンチに腰をかけている。
「ザウディンダル、会議が始まるぞ」
「俺がいかなくたって、何の問題もねえよ。別に意見なんてねえし」
 太股に頭を乗せて寝体勢にはいっているザウディンダル。
「折角、愛しいお兄様にお会いできるってのに行かなくていいのか」
「……」
 顔背けやがった。全く……構いはせんがなあ。
「大体、ビーレウストもエーダリロクも出席しねえだろうが」
 何か知らんが、あいつらは朝から行方不明でいやがる。宮殿に入ったらしいが、そこから行方知れず。
 儂やザウディンダルのところにも[心当たりはないでしょうか?]尋ねて来たのが居たが「知らん」と帰してやった。知っていたとしても、同じように言って帰すが。
 それにしても、
「ビーレウストは知らねえが、エーダリロクは結婚したばかりだから許されるだろうよ」
 結婚なあ。
 まさかあの爬虫類大好きが陛下のお妃候補に上った侯爵と結婚するたあ、儂も思ってはおらなかったが……陛下のお妃に添える為の貴族を用意したのも、その結婚を潰したのも王側だから、一応責任を取った形になるんだろう。それで行けば儂にも回ってきそうだが……
「貴様、何をしている!」
「兄貴?」
 いつもより顔色の悪いような兄貴が、近付いてきやがった。何時も以上に顔色悪いようにも見えるが、
「今の時間は帝国騎士が出席する会議だろうが! 何をしているのだ!」
 怒りに震えてるだけだろよ。
「儂が出席しようが、しまいが帝国騎士ではない兄貴には関係ないだろう」
「貴様の膝に頭をおいている、薄汚い淫乱はな! だが、貴様はテルロバールノルの王子だ、王であるカレンティンシスの意見に逆らう権利などない! どうせその男を咥えこんで喘ぐためだけに存在してる庶子が ”行かない” などと言ったのに従ったのだろうが。大体、両性具有の庶子がテルロバールノルの正式な王子の膝に頭をおくなど! 許されることだと思っているのか! 勘違いも甚だしい」
 兄貴の剣幕にザウディンダルが起き上がって、儂から離れる。
「テルロバールノル王!」
「カルニスタミア。会議終了後、儂の執務室に来い」
 相変わらず、怒るなら儂だけを怒ればよいものを。
 ザウディンダルが傍にいれば、儂よりもザウディンダルの方を罵倒する。
「畏まりました。ですがこれだけは言いたい。会議の無断欠席も儂だけを責めれば良いこと。レビュラ公爵のことを罵倒する理由はない。このライハ公爵と共に居たからといって、レビュラ公爵が欠席に関係していると勝手に決め付け罵倒した事に対し」
「謝罪しろとでも言う気か? この王に、庶子の両性具有に頭を下げろと? 冗談ではない!」
「庶子であることも、両性具有であることも、レビュラ公爵の罪ではなかろう!」
「やかましいわ! 父親さえ定かではない庶子の両性具有と同じ場で同じ空気を吸うだけでも不快だ!」
 そう言い捨て踵を返した。
「ん? ……兄貴……ではない、テルロバールノル王」
「何だ」
「出血しているのか」
 血の匂いがする、それもかなり濃厚な。手首を掴んで引きとめたのだが、
「その両性具有に触れた手で、この儂に触れるな!」
 怒鳴られ、仕方なしに手首から手を離し頭を下げて見送った。これ程怒るのならば、誰か使いの者を寄越せば良い物を。
「儂と共にいたせいで、不快な思いをさせて悪かったなザウディンダル」
「別に……俺は会議には出ねえが、お前は出ろよ。……じゃあな」
「ああ、本当に悪かった!」
 駆け出していったザウディンダルを見送った後、会議に出る気にもなれずその場に座り込んだ。
 そのままどのくらい時間が経っただろうか、人の気配に目を開くと、
「カルニスタミア」
「キュラか」
 真面目に会議に出ていたキュラが、大まかな内容を説明してくれた。
「で、またカレンティンシス王が怒鳴り散らしていったんだ」
「そうだ……何故、ああもザウディンダルを責めるのだ。儂だけ責めればいいものを……血の匂いがして心配しても、怒るだけだ」
 そうは言っても急に兄貴に ”しおらしく” なられても困るが。
「血の、匂い? どこら辺から?」
「下腹部あたりだ。何をして怪我したものか」
 キュラは笑いを浮かべて、
「カレンティンシス王はヒステリーだからねえ。案外 “子宮” があるのかもね」
 言い終わった後、独特の高い声で笑い声をあげた。
「気味悪いこと言うな。兄貴には妻も子もいる」
「そうだねえ。女王だったら子も出来るかもしれないけれど、王にはなれないもんねえ。両性具有は王になっちゃあいけないもんね。おや? 何処に行くの?」
「お前が子宮があるかも知れないと言った相手に呼び出されている」
 儂はキュラに手を振られ、その場を後にした。


「さて……宇宙は君の望み通り、君の手に落ちるのかなあ? ラティランクレンラセオ。たとえ君が皇帝になったとしても、カレンティンシスは永遠に自由。君は彼を決して抱く事はできないからね。先代テルロバールノル王も良く考えたものだ」

戻る目次進む
▲top