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我が永遠の友・3
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 俺とビーレウストは何とか陛下の私室傍まで来る事が出来た。
「団長。陛下にご挨拶に来たんですが」
 俺達の顔を見たイグラスト公爵は驚いた顔をしたが、
「セゼナード公爵がわざわざ陛下に結婚の挨拶とは、驚いた」
 そりゃまあ、驚くだろうなあ、俺がそんな事したら。何時もの態度からして、驚くしかないだろうよ。でも団長、俺は何も言ってねえよ。結婚を許可していただきましてありがとうございます、なんて挨拶に来たわけじゃねえよ。
「だが、何故セゼナード公爵とイデスア公爵なのだ? 妃のメーバリベユ侯爵はどうした?」
 いや、だから俺は結婚に関してじゃなくて……いやいや、此処で団長を切り崩さなけりゃ陛下にはお会いできない。俺と、ビーレウストが二人で陛下に会わなけりゃ!
「はい。私の妃となったメーバリベユ侯爵は元は陛下のお妃候補として宮殿にも上がり、陛下にお目通りもいただいた貴族。その後、縁なく侯爵は宮殿を去りましたが、陛下はその時の四人のことを覚えておいででしょう」

 まー、あの方の事だから忘れ去ってる可能性もあるけどなー。

「皇族や王族の勝手で宮殿を去ることになった貴族を私が娶ったと知れば、押し付けられたのではないか? と悩まれたりするのではないかと思いまして。妃の素性は隠せませんが、これからゆっくりと陛下に私と侯爵の結婚は、決して陛下のお妃候補から外れた後の処置ではないことを語り、信じていただいてから私の妃となった侯爵を連れて参りたいと考えております」

 まー、本当はお妃候補をムリヤリ潰したからその後始末なんだけどなー。

「本日このように、正面通路から入ってこなかったのは、この事を侯爵に知られたくないことにあります。出来れば妃が知らぬうちに、陛下を説得いたしたく。私一人では無理かもしれませんが、デファイノス伯爵は陛下と幼少期から共に過ごしております。イグラスト公爵閣下には遠く及びませんが陛下のことはある程度存じております。私一人では言葉が足りなくとも、デファイノス伯爵も居れば何とか陛下に信じていただけると思うのです」

 まー、一番陛下のこと知ってんのはあの帝国宰相だけどなー。

「出来れば陛下と私の妃となった侯爵の対面は、何のわだかまりもなくなってから……そう思いまして、この場に連絡もなく二人で参りました」

うん、通された!

 部屋には起きたばかりとおぼしき陛下がソファーに腰をかけて、テーブルに飾られている花を指先でもてあそばれている。
 長い手足と、星の煌きの如き光沢を持つ、真直ぐな黒髪。眉は描かれたかのような均等さで、睫は髪ほど光沢はないがそれでも濡れた様な色合いを持たれて……なんつーか、よくもまあ此処まで化けたなザロナティオン! って言いてえ。
「おお、どうした? ビーレウストにエーダリロク」
 相変わらずのんびりとした喋り方だが、そのお声はまさに深い海のようであり、また俺達の身体を無意識に軽く支配なさる。
「えっと、先ずこの部屋に誰も入れないように命じてください!」
 俺に言われて、陛下はそうするように命じてくださった。
「どうした? 何か困った事でも起こったのか?」
 困った事ってか……
「実はですね、陛下。このセゼナード公爵エーダリロク、昨晩結婚させられました。陛下のお妃候補であったメーバリメユ侯爵ナサニエルパウダと。簡単に言いますと、王の実弟をくれてやると約束して結婚をぶっ潰したようです」
「……それは、まあ、そういった事もあるだろうなぁ」
 よっしゃ! 陛下のお優しいお心を軽く傷つけて、それから同情心を引き出して! 俺はやるぜ!

「解った、そういう事であらばビーレウスト共に帝君宮に住むが良い」

 陛下はあっさりと陥落してくださった。
 簡単に言えば「両者とも望んだ結婚じゃないんで、別居状態を続けて王に考え直してもらうと思うんです。あ、王とか侯爵とかが何か言っても、それは大体嘘だと思いますよ。だって潰した王と、潰されて弟王子を押し付けられた侯爵が本当のことを言うわけないですから~」ってのを、全く利害関係のないビーレウストが言ったから信用してくださった。
 本当は、コイツもすごっく関係あるんですが、さすがに俺の兄貴もビーレウストの甥も陛下に向かって「男に男の尻で初体験させようって事で合意してます」とは言えねえし、言ったら最後、帝国宰相になにされるか。
 あの二王だって自らの身の安全、と俺とビーレウストの「はじめて」を天秤にはかけねえからな。
「偶に訪ねても良いか?」
 俺達が帝君宮に住むって言ったら、陛下とっても嬉しそうで……
「もちろんで御座いますよ」
「あまり俺達に感化されないでくださいね」
 陛下の素行が悪くなったら、俺達は間違いなく殺られる。
「お前達に感化されたら、余は才能溢れる皇帝に生まれ変われるから、誰もが喜ぶであろう」
 違う違う、貴方様はそのままで良いんです、はい。
「カルニスタミアも側近に復帰する故、話し相手が出来て嬉しいな」
 へえ……復帰するんだ。
 カルニスは、ザウに手出した罪で側近の座を下ろされたんだけど復帰するのか……確かザウディンダルから離れたら戻すってことになってたような気がしたが? あの二人切れてねえよな。俺が視線を送るとビーレウストも頷く。

- それに関しては後にしよう

 陛下はカルニスが側近の座を一時的に休んでいる理由を知らない。陛下には「機動装甲の試験搭乗」が頻繁なため、少しお時間を下さいとお願いを申し出て、それを許されていた。本当の理由は教えていないらしいし、それは当然だろうとも思う。
「良かったですな、陛下。俺達は何時も試験搭乗などで会っておりますが、陛下は本当に久しぶりですものな。カルも早く陛下にお会いしたいと、何時も言っておりましたよ」
 ビーレウストが当たり障りなく会話を続ける。
「そうか。早く会えるといいな」
「陛下にとってカルニスは我が永遠の友、特別な相手ですからね。それはカルニスにとっても同じですが」
 ザウディンダルと関係を持ったまま、皇帝陛下の下に戻ったらどうなる? 唯でさえこの人は「女」に興味のないタイプだってのに……それは俺も同じだが、俺が女に興味がないのと、陛下が女に興味のないのとでは全く違う。
 精神感応の結果、両性具有に興味持ったら如何するんだよ。カルからザウディンダルを取り上げる……いや、女王は元々皇帝陛下のものだから取り上げるとは言わないが、とにかくザウディンダルと関係持って、他の女に興味持たなくなったらどうするんだよ!
「そうそう、我が永遠の友といえば思い出すな……ビーレウスト、そなたとの初対面」
「まだ覚えてらっしゃいますか」
「あれは忘れられぬ。何せ、吹っ飛ばされたからな」
「いやー実家で “皇帝をみたら殴り飛ばせ” そう教育されてそれに従ったまでのこと。いや、今でも忘れません。あの時の陛下の驚いた顔といったら」
「ははは、本当に驚いたぞ」
 そりゃ驚くでしょうな。
 そして、エヴェドリット。お前等は何故、帝国に従ってるんだ? むしろ、何故従ってる素振りすら見せねえんだ?
 何処の世界に、皇帝みたら殴り飛ばせって息子に教育する属王がいるんだよ……まあ、エヴェドリットだけどな。いやぁ……陛下良かったですな、その時ビーレウストがまだ五歳くらいの子どもで隠語の意味が解らなくて。
 エヴェドリットの『皇帝をみたら殴り飛ばせ』は本当に殴り飛ばすのではなく『皇帝を殺して玉座を獲れ』と言う意味なんですよ。今のビーレウストは知ってますから、お気をつけ下さいね。気をつけたところでどうにかなるような相手ではありませんが。
 それにお前等、皇帝の座はいらないって従ったのに……まあ、従った理由が皇帝の位を狙って、隙あらば戦争を仕掛けるつもりで “配下” になったエヴェドリットですから、戦争を仕掛けるのは仕方ないっちゃあ仕方ないのかも知れませんね。
 シュスター・ベルレーのヤツ、何でそんな条件を飲んだのか? 全く持って不明でいやがります。
 ビーレウストは陛下の『我が永遠の友候補』で来て、それをかましたもんだから、二度と陛下のお傍に近寄らせるな! と大騒ぎになった。普通は騒ぎになるわ……でもガダウシア王は全く意に介さないどころか、ビーレウストのこと褒めて一番のお気に入りになったらしい。
 まあ、あの家柄だったらそうなるだろうよ!
 その後まもなくガダウシア王は死んで、母親である王妃も既にいなかったビーレウストは、兄の帝君が引き取ると名乗りを上げたが、その前例があるせいで、最初は拒否された。それでも帝君は諦めないで、頭下げて回って、ビーレウストは宮殿で暮らすことができるようになった。
「エーダリロク」
「何で御座いましょうか、陛下」

「時間があったら、ワニのショーを見せてくれ。あの時のようにな」

 ちなみに俺は初対面で陛下にワニのショー。口開いてるのに頭突っ込むのを見せて、陛下もやりたいとおっしゃったのでやらせた所、暫く宮殿出入り禁止くらった。


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