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我が永遠の友・1
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 俺は勢いで家を飛び出した。
 いや、家に兄貴がいたら無理だったかも知れねえが、帝国宰相からの呼び出しに顔引きつらせて出て行った隙に、俺は家から出た。
 それで宮殿に逃げ込んだ。貴族街だとメーバリベユ侯爵が一緒に住むと言い出す可能性があるからな。
 宮殿広いし、俺王子だから結構宮殿でも居場所あんだよね……叔父貴の所に行けないのは残念だが。
 何せ家をあげて俺と侯爵を結婚させようとしてるから、叔父貴の宮には入れるようになったらしいんだわ侯爵。……まあ、書類上は俺の妻だから当然だけどよ。
「で、お前はどうよビーレウスト?」
「手前と同じく、王領から締め出された」
 帝星に勝手に逃走したら、兄貴怒ってなあ……
「俺は王領から締め出されたんじゃ無くて、王領の税収取り上げられただけだ」
「似たようなもんだろ」
 俺の兄貴は吝嗇だから、先ず第一に金を取り上げる。
 確かに効果的ではあるけれど、気にはならねえ。
「でも兄貴が取り上げられるのはロヴィニア領だけだからな。他王家から誕生祝に貰った領地からの税収と技術将校と帝国騎士と貴族手当てだけで、養っていけるから平気」
 お前達には苦労はさせないぜ、愛しい……俺の……誰から名前言えばいいかな?
「爬虫類達のエサには事欠かないみたいだな。それならまあいいんじゃねえの? 俺は王領から締め出されたが、金は自由に使える。住む所は……どうだ? 俺の兄貴の宮に一緒に住むか?」
「良いのか!」
 ビーレウストの兄貴の宮、先代皇帝に帝君として搾り取られた……じゃねえや! 仕えたアメ=アヒニアンの住んでいた場所だ。
「兄貴が陛下に “あれは奔放ですので、偶に家から追い出されることもあるかも知れません。もう両親もなく、誰も庇ってやれませんので、出来れば居場所だけは用意しておいてやりたいのです” そう頼んでくれていた。陛下はあの通りの方、懐の深さが尋常じゃねえからあっさりと “そうだな、帝君宮はビーレウストの第二の実家。余が帝后を迎えるまでは開放しておこう。帝后を迎えた後は、余の妾妃が住まわされる屋敷の一つを開放しよう” とまあ。あの方のお言葉を否定できるヤツは帝国にはいねえから、っても好んでこんな宮殿に住む気はねえから放置しておいたんだが……兄貴に感謝しておくか」
 俺もビーレウストも子供の頃に親父が死んで、代替わりした。
 この代替わりってのが曲者でなあ。長子相続が原則だが、殺して位が欲しいなあ……ってやつはゴロゴロ居る。要するに、血で血を洗う争いってヤツだ。代替わりして流血沙汰がなかったら、そりゃ大したもんだぜ。
 それでまあ、敵になりそうなのは片っ端から殺していくのが基本で、そういう場合は力のないのからバスバス切っていくわけだ。
 当時小さかった俺やビーレウストは、粛清対象になってた。それを救ってくれたのが、ビーレウストの場合は実兄の帝君アメ=アヒニアン。俺の場合は叔父貴の帝婿デキアクローテムス。陛下が「第二の実家」って言ってくださったのは、この事な。
 特にアメ=アヒニアンはビーレウストのことをとても可愛がってた。叔父貴は陛下という “実子” がいたけれど、帝君は子はなかったからそれこそビーレウストのことを実子のように可愛がっていた。
「アメ=アヒニアンには俺も世話になったからなあ。まさか死後まで世話になるとは……でもまあ……陛下、正妃どころか妾妃一人もいやしねえ状態……まあ、お邪魔するか」
 何にせよ、お邪魔いたします。
 それにしても、亡くなられた帝君だって、まさか陛下が二十歳となられた現在でも独身で、特定の愛人一人も持たないでいるなんて、考えもしなかっただろうよ。

**********


 帝君宮、現在は代替わりしているし主が “不在” なので帝后宮と呼ばれているそこに入る為に、俺とビーレウストは匍匐前進している。
「此処は映らないよな」
「この区画は映らねえよ」
 帝君の残してくれた宮に入るには、一応その前に陛下にご挨拶に伺うのが礼儀だ。
 でも、正面から行って会えるような状態じゃないし、兄貴だって阻止するだろう。未だエヴェドリットの支配下にある帝后宮に俺が住むことを許可されてしまったら、ロヴィニアが前面的にバックアップしているとは言え、メーバリベユ侯爵は立ち入れない。
 帝后宮の仮の主・ビーレウストの許可がなけりゃ入って来れないんだよ。後宮の正配偶者の宮に、主の許可なく『訪問』できるのは皇帝と王しかいない。
 そんな理由で、帝星の監視映像撮影不能区画を匍匐前進で移動している。
 帝星ってか宮殿には何箇所も撮影不能な区画が存在する。大体そこら辺りは避難経路に繋がる箇所で外部から探られることを警戒して不能になるように、帝星側から妨害波を送っている。
 で、俺らの匍匐前進は陛下に最初にご挨拶する為に、陛下の私室へと息を潜めて近寄っている途中。
「止まれ、エーダリロク」
 そんな匍匐前進していると、前方から声が……したらしい。
 ビーレウストは耳がいいからなあ。
 指差された方をみると、そこにはケシュマリスタ系男が二人。
「おや? あれは陰険ケシュマリスタ王と癇癪テルロバールノル王だな」
 ぱっと見た目は兄貴と同じだけど、着てる物の色が違うし、テルロバールノル王の方が少し身体が小柄に見える。身体ってか骨格の違い? ってのか。
「仲良く二人きり? 精神感応能力のトレーニングでもすんのか?」
 ビーレウストが周囲の気配を拾ったらしいが……二人っきりってバカ?
 王が二人きりってアホじゃねえ?
 王なんて取り巻きと警備を大量に連れて歩いて、初めて王だろうが。それにしても、
「あのケシュマリスタ王の意識を読むのか? 拷問だよな。それだけはカレティア王に同情するぜ」
 俺は本当に、それだけは同情する。
 何か陰険なんだよ、あのラティランは。
 勝手に略したら怒るけど、ラティランクレンラセオって名前長いから何時も略してるなあ。大体俺は、自分の家の爵位だって面倒だからヴェル公呼ばわりだぜ! 叱られるけれどな!
「確かになあ。なまじ皇帝眼を持って生まれてくると、周りが必死になって個体変異させようとするからな」
 俺は皇帝眼を持ってるが、個体変異はしていない。
 死んだ親父や兄貴は年も近いし性別も同じだし、片親も近いので俺が陛下の[我が永遠の友]になればと送り込んだが、大失敗な。
 当然、皇帝眼を持っているビーレウストも送り込まれたが……ま、ビーレウストはなあ。俺とビーレウストでも精神感応は開通する条件が揃ってたが、結局俺達は開通しなかったなあ。だから友達になれたんだろうけどよ。
 ビーレウストは同属の従兄と結局個体変異したらしいが、仲は良くねえな。
 個体変異したところで何があるってわけでもねえ。良い関係を築くには精神感応なんて邪魔だ。ラティランとカレティアだって、仲良くはねえ。
「通常なら、男半分に女半分だからそれほど居ないが、今は男ばかりだから気持ち悪いほど個体変異がいるが……げっ!」
 精神感応の練習し始めてくれたほうがマシだった。
 ラティランがカレティアの顔を張って、腹にパンチ入れて足かけて転がした。カレティアは四王の中じゃ一番弱い。元が俺達ロヴィニアと同じ、完全な人間だからなあ。そう思いながらみてたら、ラティランはうつ伏せに倒れているカレティアの上着をまくり、ズボンを脱がして……
「おいおい、やったら失明じゃねえか……?」
 個体変異って性行為禁止だろうが。いや、禁止はされてねえけど視覚が断絶されちまう。
 精神感応器官が性行為から齎される両者、どちらとも付かない感覚を振り分ける事ができなくなってオーバーフローを起こして、そこから連鎖的に引き起こされる特異な機能をもつ臓器の暴走を遮断するために「精神感応器官自体が機能完全停止」をかける。要するに自爆システムだが……って、目の前で兄貴に良く似た男二人、片方は地面に押し付けられながら足ばたつかせて、もう一人兄貴と似た男は片足で背中を踏みつけて、片足で尻の辺りを蹴ってる。
「…………なあ、これってもしかして」
 悲惨だなあ、カレンティンシス王……
「どっちが上か教えてやろう! 状態だな。上はもう決まってるみてえだが」
「ラティランは性格悪ぃからな。カレティア性格が湿っぽい小心者なだけで、まあ……あででで」
 ラティランが靴の踵を知りの割れ目に斜めな角度で下ろしたら、すげー苦しそうなカレティアの声が上がった。尻穴に踵がめり込んだんだろうなあ……イテテテ。
「あれ、カルは知らねえよな?」
 ビーレウストが呟く。
「知らねえだろうな。カルニスの性格からいけば、どれ程仲が悪くても、兄貴が犯されてりゃあ喧嘩の一つも売るだろうよ」
 あいつはアレで、本当の騎士様だからなあ。ザウディンダルさえいなけりゃねえ……両性具有は危険な玩具……らしい。俺は興味ねえけど。ザウって腰の辺りが魅力的らしいが、俺にはそうは見えねえなあ。俺にはカルティレコニットのほうが魅力的に見えるけどな、カルティレコニットは鰐だけど。
「どうする? 助けるか? エーダリロク」
「止めておこうぜ」
「ロヴィニアらしく、助けても一文の得にもならないから……か?」
「それはある。大体お前が助けようって言うのは、ラティランと殺り合えるっていうのが理由だろ? ビーレウスト」
 ラティランは強いし、ビーレウストは強いのと殺り合うのが趣味の一つだからな。
「そうだ」
「一文の得にもならないってのもあるが、コレは助けに出たら証拠隠滅で二王によってたかって俺達殺されるぜ」
「 “止めろ、止めろ” 言いながら泣いてるってのにか」
「見てみろよ。二人とも供がいねえじゃねえか。ってことは、コレはある種の合意だな」
「かなり強制的な合意だろうな。ラティランの事だから証拠映像やらなにやら用意して甚振ってんだろうが」
「その証拠映像だよ。此処で俺達が出て行ったら、証拠映像をばら撒かれない様にする為に頑張ってヤラレてるカレティアも、一緒になって俺達潰しに来るぜ。もう真当な判断力なんて働いちゃいねえはずだ。真当な神経が働くなら、最初にラティランに何か突っ込まれた時に申告すりゃあ良かったんだよ。それをやらなかった。多分 “言うこと聞かなければこれをばら撒く” みたないな事を言われて従ってんだろう。こうやって一度従うと、それを守るために他の打開策を自分で潰しにくる」
 望んでなさそうなのは解る。でも、逃げようとはしない所をみると、恐怖以外の何かがあるんだろう。
 カレティアだって王だ、黙ってやられてるような男でもない。そんなヤツだったら、王に即位した後の混乱で別のヤツに殺されてる。今此処で生きているってことは、それ相応の強さがあるはずだ。
 そんな事を考えていたら、ビーレウストが乾いた口笛を小さく吹いた。
「やつがヤラレテルところ、見てみろよエーダリロク」
「え~ 野郎が野郎に……それも兄貴に似てるのが……」
 っていうか、俺人間の行為を見ても別になんも……ってか、哺乳類の雄同士の交尾は見ても楽しくねえし。
「いいから見てみろ。お前が言った通り、俺達が出て行ったら間違いなく殺されるぜ。そして、何で申告しなかったのかも、供を遠ざけて遊ばれてるのかもわかる」
 そう言われて、確りと見てみた。


「…………あれ? カレティアって男だよな」


 何か、男にしちゃあ股にあるものの数、多くないか? 俺は生殖器と肛門の間に穴はなかったはずだ? カレティアのアソコにあるのはなんだ?


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