王子と侯爵・3
「勝手に夫の睾丸を毟らないで下さい」
[タマを守って!] と叫んだら、ナサニエルパウダが来た、全裸で。
良い体してるんじゃないか? 良くビーレウストが抱いてる女達に似てる雰囲気があるってことは、良い女なんだろう。そりゃまあ、陛下の隣に立っても見劣りしない女ってのが前提だからな。……さすがに陛下の隣に立てば見劣りするか。
あの方は、伝説の容姿としか言いようがねえからな。
「ほぉ、良い体じゃねえか」
「当然です。自信があるからこうして裸で此処に来たのですわ、イデスア公爵」
「デファイノス伯爵と呼べ」
イデスア公爵はビーレウストが「王の子」だった頃に名乗ってたが、今は「王の叔父」なんで伯爵名乗ってる。慣習だし、解りやすい。
「では、デファイノス伯爵殿下。とっとと終えてくださいませんか」
ナニを? ってか、男のケツ穴に突っ込んだの、そのままあんたの膣に突っ込んでいいもんなのか? 病気になったりするだろ? いや、それ以前に俺のブツが……
「何で俺がエーダリロクと。むしろ俺と結婚、いや俺相手に再婚しねえか? エーダリロクと俺じゃあ地位も立場も血筋も大差ねえからいいだろ」
「いいんじゃないか? メーバリベユ侯爵。ビーレウストのヤツが結婚口にするなんて珍しいよ。やっぱ、あんた良い女なんだよ! 良い女はやっぱ、女慣れしてる男と……」
「断ります。デファイノス伯爵と関係を持つなんて、嫌ですわ。好みなどではなく、背後に控えている厄介なかつてのライバルを刺激するなどしたくはございません」
あーガゼロダイスなあ。
ガゼロダイスは俺の三歳年上の巫覡(無性)……だったやつ。今は “王女” ってことになってる。なんたって陛下の初の相手を務めたんだから “女” じゃなけりゃマズイだろうよ。皇帝によって[性別]まで決められるんだから、皇帝の権力ってのは凄いもんだ。
ま、皇帝絡みで性別が[付いた]無性はまだ二人目だけどよ。
でもまあ、無性って両性具有と違って下手なんだわ。そりゃもう、下手であーりゃりゃりゃ……。初めて同士ならそれでも良いんじゃないのか? なんて思っても「陛下が自信を失われては困る」ってことで……ってもよ、陛下その時初めてじゃねえか? まあ、帝国としちゃあ陛下にそれ相応の自信を持っていただくために、相手の女……その時は無性だが、とにかく相手をつとめるヤツに、多大な要求を課したわけ。
「ライバルねえ。あんたとガゼロダイスじゃあ、比べ物にもなりゃしねえ。あんたの方が良い女だ」
「私の事を殺したいのですか、デファイノス伯爵殿下」
「まあ、殺してもいいくらいには嫌いじゃねえよ。リスカートーフォンの愛情表現が殺人だってのは、あんたも知ってるだろう」
「怖いお方ですわ」
ガゼロダイスに、陛下が「お気持ちよく、それでいて自信を持てるように」リードするように命じた。命じられたのは兄貴のロヴィニア王だがよ。兄貴としては従弟にあたる陛下と、陛下の実父である叔父に頼まれれば嫌とは言えないってか、言わねえよな。何せロヴィニアの権力の根源なんだから。
無性だったガゼロダイスに一時的に女陰を作って(陛下に合うように作られたヤツ)声の上げ方、腕の回し方、腰の振り方なんぞを教え込こむ……んだけどよ、無性ってアッチまるで駄目なんだよな。ガゼロダイスもそれで、恐ろしいほどダメだった……らしい。俺には良く解らねえから、なんとも言えねえが。
なんつーの、騎乗位? だったか? そんな体勢でことを進ませる話ってか、初夜のソレの段取りまでガチガチに決めてやったらしいんだが、その流れはガゼロダイスに教える。動きも全て。その為、陛下によく似た男を相手にして練習させるってことになった。
陛下に体格が似ていて、歳も近いとなればビーレウストしかいない。カルはその頃、ガゼロダイスに話が流れてくる原因になったザウディンダルに入れあげてたから……っても、カルの方が陛下よりデカイから、そうでなくてもビーレウストだっただろうな。
「俺は絶対にやらせねえよ。ガゼロダイスと一緒になるなんざ、ゴメンだな」
「私はその事に関しては何も知りませんので」
で、ビーレウストはガゼロダイスの後ろを開発したんだそうだ。後ろで、感覚を掴ませたんだそうだ。
開発したっても「砂漠にコップの水を二、三杯撒いた程度だろう」って言ってたが。何開発なんだ? ビーレウスト。ってか、それが後ろの開発の正しい表現なのかどうかは知らないが、それでも陛下は無事終えられたから、作戦は成功したんだろう。
陛下も女嫌いにならなかったし(これ、最重要)
……でも、好んで “寄越せ” とは言われないんだよな。寝室に配置しておけば「解った」って言われるらしいけれども、なんだかもう……頑張れ、陛下! 陛下の御腰に銀河帝国のこれからがかかってます! ってかよ、陛下の子ならどんな女が産んだ子でも従う気にはなれるが、ケシュマリスタ王の息子は嫌だ。
「俺はガゼロダイスは嫌いだ。生理的に苦手だって何度も言ってるんだけどよ。何より、俺は理解力に乏しいヤツは嫌いでな」
「そうですか、ではそのようにお伝えしておきますわ。でも、此処ではそれは全く関係ありません。デファイノス伯爵殿下とルメータルヴァン巫女公爵殿下とのことなど、私の知った事ではございません。私はただ、ロヴィニア王の実弟を欲しているのみ。さあ、与えてください」
俺はメルータルヴァン巫女公爵ことガゼロダイスの実弟だが、実弟として親友に巫女は薦められねえ。
むしろ俺がやったら最後、ビーレウストがガゼロダイスと結婚するってなら、俺は全力を持って……あれ? 俺とビーレウストは絶対に回避できりゃ、どっちも結婚しなくていいんじゃねえのか?
「だがよ、メーバリベユ。どう考えたって、俺もあんたも権利や人格を無視された結婚を強制されてるんだぞ。ここは冷静になって」
ビーレウストがそんなこと言うなんて、珍しいな。
よっぽど結婚したくないんだな、ガゼロダイスと。俺もまあ……ガゼロダイスと結婚するくらいなら、兄貴と結婚した方がマシな気はする。気がするだけだが。
……でも兄貴もなあ……米粒一つ残さず食え! とか、米のとぎ汁はそのまま捨てるな! とか、とにかく煩いな……いいけどよ。
「冷静です。冷静だからこそ、こうやって申し立てているのですよ。今まで散々王族や皇族以外の者の権利やら人格を無視してきた方々が、まさかそのような低レベルなことを理由に結婚を破棄されようとしているなどとは言いませんよね? 人格無視? 結構ですわ。無視されても掴むものさえつかめればよろしいのです。それに、人格など陛下のお妃候補に選ばれた時に捨てております」
うわー! 返す言葉ねえー!
っても、黙ってる場合じゃねえな。
「確かにそうだろ。だが、それはあんたの人格であって、俺やビーレウストの人格じゃねえ。王族と貴族を同等に扱うなよ」
「勿論。ですが、これは各王がお決めになられたこと。自らを王族と認められるのでしたら、王の指示には従ってください」
ますます返す言葉がねぇぇぇ!!
仕方ねえ、いやむしろ人間の女相手に話が通じない事は想像の範囲内。
「そうか。じゃあ話し合いは決裂だ。いくぞ、ビーレウスト!」
「当然だ、エーダリロク!」
俺とビーレウストは立ち上がり、ナサニエルパウダの前から逃走した。
いや、殺すのは簡単だけどなー後々のこと考えると面倒で。だから、逃走。
「エーダリロク! 武器は!」
「任せろ!」
兄貴とエヴェドリット王は全ての武器を奪って、丸腰の俺達を武装包囲したと思ってんだろうが!
「ニュレベンティレーとナナイシアンにさりげなく装備させておいた!」
ニュレベンティレーは蛇。ナナイシアンはリクガメ。両者にさりげなく、持たせておいた。
「……どうみてもさりげなくねえぇぇぇ!!」
「そうか?」
変かな? ニュレベンティレーに優しくシルクで縛り付けておいた、中距離型迫撃砲弾(口径560ミリメートル)と餌にカモフラージュして設置しておいた砲弾パック。間違って食べちまうとダメだから、
「砲弾全く隠れてねえだろうが! あれは、ニュレベンティレーが怖くて近寄れねえだけだろう!」
雪だるまの中に隠しておいた。ニュレベンティレー、雪嫌いだからな。
「ニュレベンティレーは大人しいぞ?」
薔薇園の中にある乳白色の露天風呂(大理石使用)に雪だるま。風情あるよな。
そう言やよ、俺って偶に「そういうところが、間違いなく陛下の従兄だ」って言われる事あるんだが、何か天然な所でもあんのかなあ?
「ま、まあいい! 手前に言ったのが間違いだった」
ビーレウストは武器を構えた。
俺はこれまたさりげなくナナイシアンの傍に隠しておいた(全くさりげなくねえよ・ビーレウスト談)対空砲を手に持った。
「なあ……エーダリロク……服は?」
「こうやってだな……服なんて用意しておくと怪しまれるからな。お前は女がいいと思って、一番美人なニュレベンティレーを。小柄だがな」
首に回してやると、上手い具合に急所が隠れた。これでいいだろう。
「確かに小柄だろうが、こりゃ4m越えてるだろうが!」
「あと美人は8m越えのラライヴィアしかいねえんだよ! お前、地肌に触れるなら女がいいと思ってだ……! 来た!」
(俺は人間の女以外認めねえ・ビーレウスト談)
俺達を囲んでいた武装兵士が乗り込んできた。スゲー消極的にな。
こんな俺でも近衛兵、ビーレウストは上から数えた方が早いってか、コイツが今一番「リスカートーフォン」要するに人殺しまくってるってことな。何せあのエヴェドリット王は……
「行くぞ! エーダリロク!」
俺はナナイシアン(253kg)を背負って走り出した。
「ニュレベンティレーを傷付けるなよ。繊細な乙女なんだから」
「解った解った! 対空砲構えろよ!」
「おう。ナナイシアン、危険な目にあわせて済まないなあ。ここから無事戻ったら必ず君の……」
「いいから撃てよ! これ以上低い位置で迎撃したら、面倒だっ……ザセリアバの野郎! 待て、撃つな! エーダリロク!」
まあ、なんつーの……リスカートーフォンって兵器の開発とかに重点を置く家柄なんだよな。確かに見たことない弾薬だった気はした。そんな気はした……そんなモンの使用許可出すなよ、兄貴。ここ、ロヴィニア領だろが……
「帝国宰相閣下! ロヴィニア領トーラ星で登録されていない兵器の使用が確認されました! 通常対空砲で迎撃した為、周囲に被害が。死者は確認されてはおりませんが、帝星の通信システムにも影響がでました。ただ今復旧作業を……そ、それと未確認情報ですが……全裸に蛇を纏った黒髪の皇帝眼の男と、同じく全裸で亀を背負った銀髪の皇帝眼の男が銃を持って走りまわっている姿を見たと言う者が……ただ、口が重くて……」
自分の住んでいる国の王子が全裸で亀背負って走っている姿は、あまり口外したくはないものだ。もう片方は、帝国に生きているものなら誰でも知っている「人殺し」の容貌を兼ね備えている上に、全裸で蛇となれば言うに言えない。それは三つ子の魂以上のもの。
王子の名誉とか国民としてとはなどではなく、下手なことを口にして殺されたらたまったのもではない。それが、人間の正直な気持ちだろう。
彼等から裏を取るのは大変だろうな……そう、デウデシオンに報告に上がったバロシアンだが、
「ロヴィニア王とエヴェドリット王を引っ張って来い! バロシアン! 即座に!」
「はい! 閣下!」
その日、トーラ星では空がビリジアンに染まった。
「当面の危機は回避されたみたいだな」
新兵器の主成分は酸化クロム(III)だったみたいだな。色から勝手に判断したんだが……後でデータもらおう、面白そうだ。
「早く服を置いてる場所にいくぞ。肌に触れるニュレベンティレーがシャリシャリしてて……」
「なぁーんか、イキそうになるだろ? ニュレベンティレーのお肌って」
「ならねえ、ならねえ」
王子二人がいつもの会話を繰り広げている所から、数キロ離れた所で、
「必ず貴方を手に入れて見せますから」
侯爵は己の名誉に誓った。
こうして王子と侯爵の攻防戦が始まる事となる
王子と侯爵-終