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王子と侯爵・2
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「王子っ! 王子……」
 気前良く喘ぐ女の声なんぞ、どうでも良い。逃げないように押さえた腰をに欲望を挿入繰り返し、。しまってきたそこに、そろそろ終わらせようかと考える余裕はある。
「あんっ! 王子!」
 肩にまわそうとした手を掴み、ベッドに押さえる。
「……」
 とっとと “終わらせるか”
 闖入者、いや訪問客か? 何にせよ、腰を打ち付けて終わらせる。体を離して直ぐに迎える準備をする。
「王子?」
「お前は出てくるなよ」
 女の肌に残した赤い痕を少しだけ眺め、俺は部屋を出た。
 “丁度良かった!” そう言った表情で、側近が近寄ってくる。
「ロヴィニア王が御出に」
「解っている」
 俺は耳もかなり良いんでな。
 女を抱いている時、襲われる可能性が高いからそれらの機能を最大限にしている。だから今回の、この足音にも気付いた。聞きなれている王の足音。
 緩く波打つ金髪に、皇帝眼。
 四王は同じ顔だが、この王は口元が他の王とは違う。陰険ならケシュマリスタ王、残酷ならエヴェドリット王、癇癪ならテルロバールノル王、この王は、
「何か御用でも? ヴェッティスィアーン公爵殿下」
 冷酷だ。
 ロヴィニア特有の冷酷さを口元に持っている。この顔で、その口元はアンバランスだが。
 その似合わない口元を持つ王は言った、冷酷な声で



「童貞か」



 そう尋ねてきた。
「……………………………………はい」
「間違いなく、童貞なのだな?」
「はい。身命に誓って童貞です。抜いたこともありません。信じてください、童貞です」
「邪魔をしたな」
 もう話はないと、背を向けて去っていった王を見送った後、俺は再び女を抱いた。

「ってのが昨晩、いや日付は変わってたか? ってことだ。それで宮殿に来てみりゃ、お前が結婚したって……おいおいおい、お前の兄貴は調べてなかったのか?」

 俺はエヴェドリットのデファイノス伯爵ビーレウスト=ビレネスト。
 昨晩、何時ものように女を抱いていたら、突然エーダリロクの兄貴・ロヴィニア王が強襲してきやがった。ヤツが尋ねてきた “童貞” 
 ロヴィニア王が童貞かどうかを、俺に問うったら唯一人
「ことに及ぶ前に、童貞だぁぁ! って叫んだら、兄貴の表情が硬直しちまった。メーバリベユ侯爵も同じ」
 セゼナード公爵エーダリロク。
 多産で有名なロヴィニア王家は、そりゃまあ早熟なのが多い。同性愛者も割合少なくて早熟で、王もコレに関しちゃあ鷹揚に構えている。ケシュマリスタやら、俺のエヴェドリット、そしてシュスター系統は壊滅的だがよ。
 ロヴィニアは放置しておいても男は遅くても十四前には、自力で童貞捨ててるし、女はもっと早くて十歳前後には処女じゃねえのもザラだ。……っても九歳で出産は珍しいけどな、36代皇帝ディブレシアみたいなのは。
 性に関しちゃ放埓なのがロヴィニア……な筈なんだが、今の陛下といいコイツといい……コイツと陛下並べたらマズイか。
 陛下は色情狂と名高かったディブレシアの絡みで、女を与えすぎないようにされてるんだから……っても、欲しいって言やあ幾らでもなあ。俺が皇帝だったらハーレムつくる……いや、いらねえ皇帝の座なんていらねえ。
 あんな四王と帝国宰相と何時も一緒の生活なんざ、人間のする生活じゃねえ。あんなのと生活してるんだ、性欲も減退するだろうよ。
 宇宙で最も劣悪な環境ってやつだ。
 陛下に少し放埓になってほしけりゃ、あの顔面神経痛軍団を遠くにやればいいだけじゃねえ?
 対するコイツは、
「爬虫類と戯れて、二十一になっても童貞って……ロヴィニアじゃあ珍しいんじゃね?」
 爬虫類に入れあげて、人間の女ってか哺乳類? に興味なし。いや、コイツと結婚するったら、大変だろう。だってよ、抜いたことはあるらしい。だが、その時使ったのが[爬虫類の雌]ってどうだ? だから俺は、抜いたことねえってロヴィニア王に言った。
 確かに爬虫類の雌にゃあ、ある。ヴァギナがな。あれ見て出来るあたり、すげー……本気で感心したな。
 趣味ってか嗜好ってのは解らねえもんだ。なんて言ってみても、エヴェドリットにゃ「内臓引きずり出してるだけでイケル」やつが普通に存在するわけだから、爬虫類のヴァギナではぁーはぁー言ってる方が、健全なのかも知れねえ。
 それこそ、五十歩百歩の域だがよ。
 ちなみに俺は内臓なら同意できる部分がある……まあそんなんだから、理解は出来なくても、否定さえしなけりゃ世の中は波風立たない事は知っている。
「兄貴に詰め寄られてついつい、爬虫類にしか勃ったことないのを言ったら、鬼のような形相になったな。何時ものことだけどな」
 人間の王子なんてのは人間の女と交尾して繁殖して価値があるわけだから、性向が通常じゃないと波風は津波の如くになる。特に今みたいに、人口減少から立ち直ってない御時勢には。
「はーん。でも、女、メーバリベユ侯爵 ナサニエルパウダ・マイゼンハイレ・バウルベーシュレイド は諦めただろう。あの女、爬虫類みてえな顔してねえしな。どちらかって言やあ、鳥みたいな感じだったよな。美人には間違いねえが」
 どんな爬虫類面の女でも、コイツの心は動かねえはずだ。むしろ動かした女がいたら、それはもう爬虫類に分類されるべきだ。
 あ、一人いたな。コイツが少し気になる相手が。っても、男だし既婚だからなあ、テルロバールノル王カレンティンシス。あの王は、俺の中で爬虫類に分類しておこう。
「女の顔なら大体覚えてるんだな、さすがだビーレウスト」
「女、少ねえからな。それに哺乳類の顔はな、お前みたいに爬虫類と魚類が顔で見分けられる男には敵わねえよ」
 無性の遺伝子が大反乱起こして、どうにもこうにも……
「少ねえってか、絶滅危惧種だろな “帝国の女” は」
「っとに無性の女性思考は性質が悪ぃな……で、俺は性質の悪い無性の弟、要するに手前に呼び出されて、何で手前と風呂に入るハメになってんだ?」
 花園にある乳白色の風呂に押し込められちまった。
「あ……ん、理由はなあ」
 酒は大量にあるが、給仕も体を洗う奴等も何もいねえ。これで疑わないやつがいるか……陛下は疑わなさそうだな。あの人は特別だけどよ。
「何だよ、エーダリロク」
「聞きたいか? ビーレウスト」
「言えよ。ロクなことじゃねえのは解ってる。素っ裸にされた上に、周囲を武装兵士で囲まれてんだからよ」
「単純明快に言えば、俺の童貞捨てる相手がお前に決定」



「……………………エヴェドリット王ッ!!」



 そう来やがったか!
「話聞けよ。聞いた所で、何も変わりゃあしねえが。まあ、俺は童貞の上に爬虫類好きだった。でも兄貴はそんなこととは知らないで、陛下の所……正確にはデウデシオンのところだが、結婚に必要な書類を提出して、それは通った、要するに結婚したってことだな。正直俺は、メーバリベユ侯爵との初夜で大失態ってか、勃たない自信はある。恥かかせるってか、王族なんて初夜に勃たない時点で離婚は当たり前。離婚すりゃあいいんだが、兄貴が許さねえ。何せ俺が問題で離婚じゃあ、俺との結婚を取り持った兄貴がメーバリベユ侯爵に莫大な慰謝料支払わなきゃならねえから、吝嗇が存在意義の兄貴は絶対にそんな事認めねえ。それで兄貴は、さっさと人間相手に童貞捨ててこいって御命令を出しやがった。一回くらい人間とやれれば、人間の良さが解るってな。御命令はいいが、書類上は妻になってる女がいるだろう? その女が “女相手はいやです。でもセゼナード公爵になびくような男も困ります” ってなあ。だから帝国で女好きで、絶対なびかなさそうな人間の男。童貞の俺が多少雑に扱っても大丈夫そうな、痛みにも傷にも強い体躯の持ち主、イコールお前ってことらしい。俺だってびっくりだよ、お前が相手に決められてたなんて」
 周囲に兵士を配置しているのは、それか!
 配置兵の中にエヴェドリットが見えるのは、結託してる証だろうよ。通りで今朝、嬉しそうに俺に行けって命じてたよなあ、ザセリアバのやつ。てっきりガゼロダイスに関することだとばかり思ってたら、何だよ、この変則多段攻撃!
「ロヴィニア王だけじゃねえだろう? エヴェドリット王も絡んでるんだろうが」
 あの二人で面倒なのを。ま、俺も悪いんだろうけど、あの時はちゃんと仕事したんだがなあ。
 仕事なんてするもんじゃねえなぁ……本当によ。
「まあなあ、俺がお前をやった暁には、責任とってロヴィニア側が貰うってことで話がついたらしい。要するにお前を女婿にしてやるってことらしい、アレの」
「ガゼロダイスと一緒に暮らせってことだろ!」
 俺はエーダリロクの “上” にあたるガゼロダイスは嫌いでしか仕方ねえんだが。好きになれないじゃなくて、生理的に嫌いだっていってるのによ。
 あれ、体が楽しめるのだったら良いが、体自体悪いからな。性格はいうまでもなく悪い。性格が悪くて許されるのは、それ以外の箇所が良いヤツだけだ。
 ザウディスがどれ程我侭いってもカルが愛想尽かさないのは、ザウディスの体が良いからだ。俺も後ろだけならやったことあるが、ガゼロダイスなんざ比べ物にならねえくらい “良い”
 さすが人間を満足させる為だけに性器を発達させられた生き物だ。
 カルは初めてがアレだからな、並の女じゃ相手にならねえよなあ。せいぜい男のキュラくらいか? キュラは、男の良い所を全て知っている上にあの性格だからな。
「それでケリついたらしい、勝手になー」
 何にしても、コイツに掘られてガゼロダイスと結婚するくらいなら、俺は帝国に反逆を起こす。負けてもいい、むしろ死んでやる。
「俺の貞操の危機って訳か」
 あんなつまらねえヤツと一緒になったら、陛下の次くらいに劣悪な環境に囚われることになるじゃねえか。
「俺もな……だから、俺のタマを守って! ビーレウスト!」
「待て、守るのは手前のタマじゃなくてサオだろ? むしろ、タマ捨てたら離婚成立するんじゃねえの? 此処で潰してやろうか。幸い手前はタマが核じゃねえしよ」
「あーそれ良いかも……でも、痛いよなあ」
「まあ、内臓だから……」
 内臓……だよな。なんか手がウキウキしてきたぞ。
「何かノッてきてねえ?」
「ちょっと興味が……引っ張りすぎて内臓まで抜けたら、ワリイ。さてと、エーダリロク!」
「ぎぇぇぇぇ! やっぱり俺のタマを守ってぇぇ! 誰かぁ!」

 そのタマは睾丸なのか? 命なのか? 神のみぞ知るところである
 もっとも、彼等の神は天然の神であるのだが
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