帝国夕凪ぎ 藍后微笑む[09]
「ダグリオライゼはどうなってるかなあ」
 マルティルディは単身 ”徒歩” で、拷問が行われている間へと向かっていた。
「ん? なんだ、あれは」
 別方向から聞こえてくる多数の足音に、首を傾げ ”それ” と遭遇した。
「それは何? イダ」
 ロヴィニア王の背後にいる ”それ” の幾つかにマルティルディは見覚えがある。そして、大体のことも予想がついた。
「拷問道具だ、マルティルディ」
 自分の考えた通りに使われる事に満足を覚え、イダを鞭で指しながら、
「拷問道具として完成させるためには、僕の同意も必要だよね」
 少しばかり口元を歪める。
「もちろんだ。二王にも足を運ぶように連絡を入れておいた。そろそろ到着するころだろう」
 イダとマルティルディは二人並び、サウダライトが罵声を浴びながら三角木馬に乗っている部屋へと向かった。

※ ※ ※ ※ ※


 同じ体験をした者にしか解らないのが苦しみ。よって三角木馬に乗った者にしか、サウダライトの苦しみは解らない。
「…………」
 別に解らなくても良いであろうが。
「やっているようだな」
「姉上!」
「姉上」
 到着したロヴィニア王と、
「来たか、マルティルディ」
 ケシュマリスタ王太子のマルティルディ。
「そう言えば先ほど追い返したのじゃが、貴様の家臣が ”マルティルディ殿下からの懲罰があ” と叫んでいた。あれは何じゃ?」
「それ? 聞きたい? ルグリラド。聞きたいのかい?」
「要らぬわ!」
 次々と部屋に ”自分を拷問するために” 集まってくる人々に、治療されているサウダライトは青くなったが、どうする事もできない。
 彼に出来る事は、ただ耐えるのみ。《おっさんだ! おっさん! おっさん!》 と転びながら駆け寄ってくるグラディウスの事を考えながら、この苦難の時間をやり過ごすしかなかった。
 そんなサウダライトの目の前で、ロヴィニア王はマルティルディに契約書を見せる。
「サインして ”くれる” であろう? マルティルディ。貴様は反対しないであろう?」
 キーレンクレイカイムの数十倍は胡散臭い、そして明かに謀っている表情で、契約書にサインを求める。
「ふーん。良いよ。ほら、サイン用の万年筆持って来なよ。言われなけりゃ解らないのかい? キーレンクレイカイム。気の利かない男だね、イデールマイスラと同じくらいに」
 小馬鹿にしたように言われるが、イデールマイスラ程気位の高くはないキーレンクレイカイムは、姉王に言われて用意していた ”マルティルディにサインして貰う為の万年筆が収められている箱” を開き、直接触れないように布で包み、目の前まで近付き膝を折って掲げる。
「申し訳ございませんでした」
「本当にね」
 万年筆を取り上げて歩き出すマルティルディの向かう先である机。キーレンクレイカイムは急いで立ち上がり足早に近寄り、椅子を引き待つ。
「動きが優雅じゃないね。顔の問題かな」
「美貌でケシュマリスタに勝てる者はいない」
 言って再び膝をつく。
 契約書にマルティルディがサインし、キーレンクレイカイムがそれを持ってロヴィニア王の元へと戻る。イダ王の周囲に陣取っていた正妃達は、契約書の中身を見てから拷問道具を見回して互いの顔を見ながら頷き合った。
「何用だ、ロヴィニア王」
 そこに到着したのは、
「来たか、テルロバールノル王」
 先ほど娘の ”拷問じゃ! 拷問じゃ!” にある種の悲しさを覚えたテルロバールノル王。ロヴィニア王は挨拶もそこそこに、テルロバールノル王の眼前に、マルティルディから ”同意” のサインを貰ったばかりの契約書をつき出し、
「お前もサインしてくれ」
 同意を求める。
 テルロバールノル王は契約書を奪い取り、じっくりと書面を読み、
「こんな物に同意できるものか!」
 ロヴィニア王の予想通りに、拒否の声を上げた。
 拒否の原因は契約書の内容の 《大前提》 である 《グラディウス・オベラの産んだ第一皇子にして皇太子》 の 《皇太子》 部分。
 グラディウスはサウダライトの第一子を身籠もった訳だが、
「まだ皇太子と認めたわけではないぞ!」
 容易に皇太子の座に就けるものではない。
 王女が正妃であり、生母ならば表だって異議を申し立てることは出来ないが、グラディウスはただの平民で、突出した能力を持っているわけでもない。
 書類上では 《準正配偶者候補》 だが、正妃が既に三人存在している。
「ルグリラド、今すぐお前が身籠もれ! それを皇太子にしてやる! そんな平民……」
 その為、かなりの障害があるのだが、
「殺したのか? デルシ=デベルシュ」
「いいや。お前の父王を殺してはいないよ。少し首を絞めて意識を失わせただけだ」
 追求する前にテルロバールノル王は、デルシ=デベルシュにより首を絞められて意識を失い、床に捨てられた。
「まあ良い。待っておれ、兄を呼んでくる」
 そして代理署名として兄である王太子を呼ぶために、ルグリラドは一度部屋から出て行った。
 テルロバールノル王が同意を拒んだ契約書の内容は 《拷問道具》 とも密接に関係する。
 部屋にずらりと並んだ 《前ロヴィニア王の庶子姫達》 その数は優に三百を超えている。

 誓約書の内容は、グラディウスが産んだ皇子を皇太子として定める。そして前ロヴィニア王の庶子女性で、子供を身ごもれる者達を用意して、サウダライトに激突させることにした。
 この一度のチャンスで見事サウダライトの子で、尚かつ姫君を身籠もる事ができれば 《皇帝の庶子姫》 を、ロヴィニア王家代表として正妃にしてやることを、書面に起こし各王のサインを持って、確実な契約書としてから襲わせる算段である。
 もちろん産んだ彼女達の身分も確りと保証する。
 立会人である正妃達も、
「よおし、保証書は作った。サインくれるか? デルシ」
「良かろう、イレスルキュラン」
 さっさと書類を作り、署名してゆく。
「早く来るのじゃあ! アインザバドル王太子! さあ、サインしろ!」
 そして妹王女に連行されてきた兄王太子は、床に青い顔をして転がっている父王を見てから顔を上げ、デルシ=デベルシュの ”獰猛” と評しても足りない視線とぶつかり急いで視線を逸らすために再び頭を下げる。
 だが下げた先には、一本の細い線のような ”鞭” が。
「頭上げるなよ、アインザバドル。さあ、代理でサインするかい? しないのかい? しないなら、この鞭が君の顔に赤い横線を付けるだろうね。線だけだったら良いけど、間違って松果体まで到達したら……ま、イデールマイスラを帰してあげるから良いかな?」
 マルティルディの鞭が、今にも顔から頭を切り裂こうとしていた。アインザバドル王太子は松果体が核なので、傷つけられたら死に直結してしまう。
「フィラメンティアングス公爵……ペ、ペンを……」
 彼はそのまま手を伸ばし、キーレンクレイカイムから万年筆を受け取って、自らの掌を台にしながらも、美しい文字で代理ながらも同意した。
「あとは、エヴェドリット王だけだね」
 マルティルディはその契約書を奪い、同時に鞭も引く。
 失神した父王のような青い顔を冷や汗で飾りながら、アインザバドル王太子も床に崩れ落ちた。
 彼の手から転がった万年筆を拾い上げたキーレンクレイカイムは、しみじみと 《庶子姉妹》 を見て、
「ですが姉上。サウダライトは男嫌い。男に責められた方が苦痛を感じるかと」
 ”女は同時に最大三十人は抱ける” 男は笑う。
 だが、
「お前には解らんのだ」
 ロヴィニア王は否定した。
「何がですか?」
「お前の歓心を買うために猫を被っている女と、生存本能の全てを持ってぶつかってくる女の違いだ。三王の同意は得た、エヴェドリット王の同意は後でも良かろう。見ているが良い、キーレンクレイカイム。かかれ! 貴様等の未来は貴様等の膣で! 卵巣で! 子宮で! 掴め! さあ、サウダライトに乗れ! 奪え、搾り取れ、孕めぇ! 女の本気をなめるなよ!」

 中腰になり空に正拳突きを放ちながら、イダはその封印を解きはなった。

 彼女達は嫌々来たわけではない。
 むしろチャンスに乗り気でやってきた。嫌がる者に無理強いはしなかった。なぜなら、嫌がっている様な者では、この有様に立ち尽くすことしかできないからだ。
 サウダライトは全裸の成熟した女性達に、
「精力剤は経口投与か……鼻か口から無理矢理流し込め」
 肉林で鼻から精力剤を流し込まれて噎せつつ、搾り取られていた。
 サウダライトの姿など全く確認できない、女性達の裸体と獣のような叫び声だけが室内に響き渡る。
「ほぅら、前立腺マッサージ用の器具だ。使え」
 適度な間隔でロヴィニア王が器具や薬を、その肉林に放り投げる。それらは、女達の中に消えて、その後憐れな「あ……あ゛……」というサウダライトの声が微かに聞こえて来るも、
「精子!」
「子種よ!」
「寄越しなさいよ!」
「そこ何時まで乗ってるのよ!」
「次は私だ!」
「睾丸引っ張って!」
 聞いてはならない声にかき消される。
 目の前で繰り広げられる、一人の男に群がる女達。
「でもさ、キーレンクレイカイムが言った通りに男に責めさせてもよかったんじゃないのかい? イダ」
「男でも良いが、男では ”成果” がはっきりとは解らない。ただ責めただけで、位をくれてやるのは私は嫌いだ。確りとした結果を持って私の前に表してこそ責めたと言える。結果が必要であるからこそ、女は全てをかなぐり捨てて挑む」
 その有様を見ながら、ロヴィニア王とマルティルディは言い合ってると、
「あれ? なんでイレスルキュランが?」
 いつの間にか全裸になったイレスルキュランが、肉林に混ざってサウダライトの陰茎を握り締め、睾丸をひっぱり伸ばしていた。
「何をしているのだ? イレスルキュラン!」
「姉上! 皇女が出来たら正妃にお願い! あっ! 滑って逃げた! まてチンコ! じゃなくて、サウダライト」
 それだけ言って、ぬるぬるで滑って逃げたチンコ……ではなく、サウダライトを追ってイレスルキュランは再び肉林の中へと突進していく。
「良かろう。皇女を期待して、ここで待っているぞ妹王女よ!」
 皇帝の子は異母・異父兄弟であれば何の障害もなく結婚することが出来る。過去に片親の違う兄弟姉妹のみで正配偶者の地位が埋まった事もあるくらいに、結婚は珍しくはなかった。
「イレスルキュランの子が正妃ねえ、いいけどね。ダグリオライゼ! ほら、必死に腰を動かせよ。回転が悪くて力負けして瀕死になってる女もいるよ。人殺しにはなりたくないだろう」
 サウダライト(のチンコ)争奪戦、力で負けて倒れたところで踏まれて大怪我をしている者も出ている状態。だが幸いなことに、女には優しいデルシ=デベルシュがいるので、助け出して治療を施すように指示をだしてやっているので、死には至っていない。
「それにしても、陰茎というのは中々に伸びるものなのじゃな」
 偶に見えるサウダライト(のチンコ)の形の変形ぶりに驚きを隠せないでいた。
「伸びるっちゃあ伸びる物だけどな」
 この眼前の有様を見ても、後で姉王に 《あれはあれで、面白そうだった。私は楽しめる自信がある》 と言い切ったキーレンクレイカイムが隣に座って答える。
「それにしても、この眼前の光景が ”乱交” という物なのか」
 ”蝶よ花よ” と育てられた王女は、乱交がどんな物か解らなかった。もちろん、普通に育っても解らない人の方が多い事柄ではあるが。
「いや、これを乱交って言ったら、普通に乱交している人に悪いって」
「普通の乱交とは、どんな物なのじゃ?」

 明確に答えられる人は滅多に存在しない

 答えられないという ”答え” をルグリラドは許さず、キーレンクレイカイムは必死に説明をするはめになる。その頃やっと立ち直ったアインザバドル王太子が、立ち上がり父王を揺すり起こした。
 テルロバールノル王は目が覚めたら、怒号が上がる肉林と、怪我した女の乳を揉む皇后と、
「乱交じゃ! 乱交とはなんぞや!」
 大事に育てた娘が、当人は知らぬとは言え、かつて夜這いをしようとしていた男キーレンクレイカイム相手に ”乱交! 乱交!” 叫ぶ姿を見て、必死に阻止した父王は ”また” 意識が遠退きかけた。
 だがテルロバールノル王は意識を完全に失う事ができないまま、騒乱は頂点に到達する。

「失礼いたします! ガルベージュス公爵《エリア》です」

 半死袋を担いだ帝国軍総司令長官にして近衛兵団団長がやってきた。”半死袋” の中には半死状態のエヴェドリット王が詰められているのは、言うまでもない。



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