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「いいか、あの二足歩行の破壊する為に作られた機械、機動装甲は無視しろ。奴等がそれを出してくる時は、この要塞を落す時だ。
 この国を征服した後、軍を駐留させ防備させる為に必ずこの要塞が必要になる……ピンポイントで攻撃を仕掛けてくるだろうが、無視しろよ。戦艦じゃあ勝てないからな」
 みんな良く戦ってる……限界に近くはあるが。
「ダンドローバー閣下! 敵大型戦闘空母の前頭部分が開きます!」
「来たな」
「主砲のエネルギーの充填は完了しておりますが」
「やめておけ……まさかこの要塞が伝説の兵器に攻められるハメになるとはな。全艦隊に告ぐ、機動装甲は無視するんだ! いいな、隊列を乱すなよ!」
 伝説の兵器。
 かつて異星人達との戦いに勝利するために改良を重ねに重ねた、人間が作り上げた最高にして最悪、華麗にして優美なその機械。乗れるのは極僅か。いや、大昔のタイプなら誰でも搭乗可能だ。血が必要はない、まだ作業ロボットだった頃のものなら。今此処にあるのは、汎用作業用ロボットの名残などない、完全なる兵器。
「現れました」
 白地に赤でエヴェドリットの紋章が描かれた二体。
「右側はハイラム型、左側はナイトヒュスカ型に酷似しています」
 緊張したオペレーターの声に、思わず笑いがこみ上げて来た。
「酷似じゃない、そのものだろう」
 人類が、いや……過去の大帝国の血を引くものだけが搭乗できる兵器の中でも、特に選ばれた者しか搭乗する事が叶わない最高峰の二機が此方を見据えている。
「全員、要塞最内殻に退避しろ。あの機体はこの要塞の空調システムを狙ってくるはずだ」

 此処までか。ファドル……
『ちょっとお話があるんだが、お兄さん』
『何か用ですか?』
『好みなんですけど、お話しません?』
 凄い顔して逃げてったんだよな……さよなら! ファドル!

「機動装甲……来ます! はっ! 速いっ?」
 【速い】なんて速度じゃない、史上最速の兵器、史上最高の破壊力を持つ、死角のない殺戮の柩。
「さすが、この要塞の出力を凌ぐ機体なだけはある。避難は完了したか! 艦隊、隊列を乱すな!」
 艦隊を盾にしようかとも思ったが、奴等は踊っているかのように艦と艦の間をすり抜けてくる。直角に落ちたかと思えば平行に前進し、突然回転しては……「こちら側」全ての戦艦を無傷で抜けてきた。この先も進軍を続けるこの国は、艦隊をそのまま組み入れるつもりらしい。
 第一撃が司令室に届いたのは直ぐだった、その後二つの爆発音と振動が響き渡り、
「敵から回線が……」
「繋げ」
 降伏勧告が来た。あの三つの爆発音は四つあるうちの三つの空調システムを破壊したものだ。残るは一つ、それを破壊されれば俺達は死ぬ。
『降伏、するかい?』
 あの戴冠式の時と同じ喋り方をしている、ヘルメットで顔が見えない機動装甲のパイロットが軽く告げてきた。
「降伏しましょう。第一艦隊駐留港からどうぞ。迎えの者を遣わします」
『どーも。それじゃあ後でな、ダンドローバー公』
回線は切れた。俺は最後の指示を出す。
「リガルド、案内してきてくれ。それまでに準備を整えておく」
 リガルドは礼をして、あの二人を迎えに行った。
「全艦隊、帝星に帰還して陛下のご指示を仰げ。お前達はよくやった」
 艦隊総指揮を任せた男に全てを委任し、最後に
「要塞に残っている者、いいか……間違ってもジルニオン王と……恐らくベルライハ公だろう二人に手を出すな。いいな、銃器で狙って勝てる相手じゃない」
 要塞の配備についている者達に念を押す。
「それと、今の攻撃での人的被害は」
「今の所58名の死亡が確認されております」
「そうか」
 報告を受けた後、机から拳銃を取り出しエネルギー残量を確認する。自分が自害する日が来るとは思いもしなかったが……要塞主任の椅子の前に立ち、
「司令室の総員、退出せよ」
 全員の敬礼を受けて俺は頷いた。誰も居なくなった広い部屋で椅子に腰掛け、帝星の皇帝陛下直通のスイッチを入れる。最初はザラザラとしたノイズ音、そして
『ダンドローバーか』
 皇帝陛下が現れた。
「負けました」
 最初から勝てるとは思ってなかったがね。……あの二人を引き摺り出しただけでも、自分を賞賛しておこうか。
『思いのほか、良くやったな』
「お褒めに預かり光栄です。今あの二人が来ます」
 画面の向こう側には、皇帝陛下に皇后陛下、グラショウにアグスティン、アーロンにメセア……面倒を任せるが、頑張ってくれ。
 ……そして頑張ってくださいな、皇帝陛下。扉が開く音と、聞きなれた足音の後ろに聞きなれない二つの足音、ジルニオン王とベルライハ公。
「やるねえ、あんた」
 見た目は美神(ケシュマリスタ)、中身は戦神(エヴェドリット)と名高い王は警戒心すら持っていないかのように近付いてきた。
「軍事大国の国王にそういわれるとは、自惚れてもいいかな」
「ああ。いいセンスしてるぜ」
 だが、勝ちはできなかった。この男達はセンスなどではなく戦争そのものだろうからな。
「それはどうも」
「ほう? あっちが帝星のメンツか。あ? 何だ? アスカータの報告書と違うじゃねえか……まあいい、この要塞の主導権は貰う」
「断ります。まだ我が国は陥落してはいない。皇帝陛下よりお預かりしたこの席を侵略者に渡すわけにはいかない」
 拳銃を取り出す。残念だが、この至近距離からでもあの二人は避けることが可能だ。通常では考えられない反射神経と動体視力を持つ……貴方達の祖先がいなければ、確かに今の俺達はいないが、だが……
「いい度胸だ。俺はお前みたいな、度胸も才能もある男は嫌いじゃないぜ。どうだ? 軍門に下らねえか」
 全く噂通りでいらっしゃる事で。度量といい態度といい申し分がない男だ。
「ありがたい申し出だが、私は男が好きでしてね。貴方が全部良い男を持っていってしまうのは癪だから、此処で死なせてもらうよ」
 本当はこの男が全て持っていってしまっても構いはしない。誰を持っていっても、なあ……
「そうかい。どうしても死にたいってなら仕方ない。おい、最後にお話とかないのか?」
「後は任せたぞ、リガルド」
 陛下、直接この地位を貴方にお返しする事が出来ず申し訳ございませんでした。その罪は死んでお詫びいたします。
「はい、デイヴィット様」
 銃口を咥えて帝星の通信画面を観る、驚いた表情の皇后陛下の前にラディスラーオが身を乗り出した。まさか貴方がそんな事するとはね。
『ダンドローバー? 待って! 待って下さい!』
 皇帝陛下、いい冥途の土産をどうも。それでは先に逝ってお待ちしております、最後の姫君よ。

『デイヴィット!!』

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