生きてりゃ死ぬ訳だからさ、そいつは別にいいんだが。俺にしちゃあ上等過ぎる舞台だ。
「三日間よく交戦なさいましたね、デイヴィット様」
「まあ、な。それにしても向こうの指揮官、若いなあアーロンと同い年くらいだろ? グリーブス」
こっちには地の利があるが、向こうさんはそんなのお構いないだ。勝ちに乗り始めた軍隊ほど厄介なものはない。
「敵の将校……はアウリア・レフィア少佐。年齢は確かな情報は入ってませんが、どうも元は中央軍に属していた模様です。中央の高級将校が逃げ去った後、一人残された中尉だったか少尉だったかで、北方から来たニーヴェルガ公爵、現在のジルニオン王と徹底抗戦したそうです。ジルニオン王というよりは、王が率いてきたブルナバール伯爵艦隊と互角な戦いをしたそうです。それで目をかけられたようですけれど」
本当に戦争の王様だな。……でもまあ、噂通りだそれ相応に戦えば、変な事はしないらしい。それにしても、この艦隊を指揮している少佐……普通少佐に艦隊の総指揮させないだろうが、あの王様が命じれば階級など無視って訳か。
「やれやれ。ブルナバール伯爵はこの進軍には?」
「随っていませんね。王の信頼が厚いそうで、王国で皇太子の警護にあたっている様子です」
「まだまだ隠し玉はあるわけだよな。今王国の南方前線を総督として守っているのがロゼンシビリアス卿だったか? ジルニオン王の戦闘の教師だったっていう」
「そのようですね。ジルニオン王も頭が上がらないそうですが。誰よりも頭が上がらない相手は、あのベルライハ大元帥のようですがね」
ついでと言っちゃ悪いが、故国を追われた王子様テルロバールノルのテクスタードまで引き連れて、仲良くみんなで戦争旅行とは……勝ち目がないのは解かってたが、此処まではっきりと解かるといっそ清々しい。戦争してるんだか侵略されてるんだか、遊ばれてるんだか……彼等に取ってみりゃあ遊んでるんだろうな。
そりゃ楽しいよな、ガウセオイド級(全長180,000 km,総質量2.433×1034)戦闘空母を「一人」で「一回の出撃」で80隻も沈めた男と同程度の単騎戦闘能力を持ってる人間が二人、いや三人で戦ってるんだ……楽しいに決まってる。
「国のトップ二人仲良く大侵攻って、他の国じゃああり得ないぞ……リガルド」
向こうの進軍回廊に、故国が存在していた事が不運だったと言うしかないが
「はい」
「最後まで付いてくるのか? 本気で」
何も俺の最後を看取った後に自害するなんて明言しなくてもいいだろ、リガルド。
俺みたいな迷惑な主がいなくなるんだから、好き勝手生きればいいものを。
「当然。何を今更聞き返されるのですか。散々貴方の我儘に付き合ったのですから、私も勝手にさせていただきます」
生き方上手って言われたが、最後はダメだったな。中々に嫌われなくて……
「解かった解かった……俺とお前とヴァルカ総督がいりゃあ、あっちに行っても皇后陛下に不自由をおかけする事はあるまい」
「私一人で充分ですけれど」
「そうだな」
皇后陛下、先に行ってお待ちしております。是非ともゆっくりとおいで下さい、このダンドローバーとリガルドは何時までも待っておりますので。
*
ジルニオンは螺鈿細工の煙管に変えて、レフィア少佐の戦いを見ていた。ジルニオンが叩けば直ぐなのだが、この先遠征軍を率いらせる予定のレフィア少佐を此処で叩き上げるつもりだった。相手がヴァルカ総督ほど有名ではなかったので、先の戦いよりは楽に勝てるのではないかと思っていたのだが。
「おいおい、アスカータ共和国ってのはザルの情報網しかなかったのか?」
要塞主任がしぶとい。
無名の貴族が此処までやるとは思わなかった。艦隊戦では穴もあるが要塞の護衛衛星を上手く使いこなし、全面攻撃をかけてくる。その上勝っても艦隊が突出してこない
「強いですね、ダンドローバー公デイヴィット。調べても貴族統括庁の長官としか出てきませんが、秘密警察も兼ねていたのではないでしょうかね?」
公爵よりも戦い慣れているハーフポート伯と、あのジュレウラを策略で三度退けた小皇帝・ラディスラーオが控えているとなると……さすがシュスターの末裔というべきか。
「それにしても初艦隊戦だろ。大したもんだ」
「感心ばかりしていても。中々に有能なようですが? どうします」
結果レフィア少佐は勝ててはいないが、負けてもいない。どうもこの少佐、守りに入ると無類の強さを発揮するようだ。防御陣形を作るタイミングが抜群に優れている。
「そうだな、ラディスラーオより若い分こっちの方が使い勝手良さそうだが」
ダンドローバー公デイヴィット三十二歳、独身。確かにラディスラーオよりは……どうだ? 意外と厄介かも知れない、この経歴だけで計り知れないところが。わざわざ背後関係の確認や、人物像を固めるよりからならば元々その気質が知れている小皇帝の方が御しやすくは無いか?
「年齢は関係ないだろ……だが、その分食わせも……何でもない」
「途中でやめるなよ」
「目の前に、食わせ者の国王がいたのをすっかり忘れていた」
私ならしてやられる可能性もある……実際ジルニオンにしてやられたわけだが……そのジルニオンならば負ける事もないだろう。
「俺を食うか」
「一口で致死量をはるかに超える。殺したいというのなら」
「俺は食うのが専門だからな」
「それ以上言うなぁ! ……出ますか?」
テーブルに煙管を置き立ちがる。
「行くぞ。狙いは……解かってるな? ベルライハ公」
「まあ、それ以外狙いようがありませんので、ジルニオン王」
「それにしてもお前と一緒に機動装甲宇宙戦に出るのは十四歳の時以来だな」
「言われてみれば……あの時は宇宙戦というよりは大気圏落下が目的だったが、懐かしく、嫌な思い出でだ」
「同じく」