繋いだこの手はそのままに −58
 カルニスタミアとビーレウストが居ない人工惑星で最も強いのは、
「墓場に何の用があるんだよ、エーダリロク」
 セゼナード公爵エーダリロク。
 ロヴィニアの指先が器用な技術屋の王子は、気まぐれな両性具有ザウディンダルと共に街中を歩いて見回っていた。
「地盤調査と定期巡回に決まってるじゃねえか。それと、俺達の専用通路を何処の墓の下に置くかとか。直接見て、触って確かめないと駄目な事もあるのさ」
 ザウディンダルとエーダリロクはあまり接点がない。
 エーダリロクはザウディンダルに対し、性的な興味を抱く事もない爬虫類大好き既婚だが童貞王子。変わり者らしく、ロヴィニア王家では珍しく政治関係には興味を持たないでエネルギー技術開発関連に進み、その才能を遺憾なく発揮している天才。その変わった部分も、他人の迷惑になることは殆どない。迷惑を被っているのは妻となったメーバリベユ侯爵とロヴィニア王と親友のビーレウストくらいのもの。
 カルニスタミアとは違い、実兄との関係が破綻していないエーダリロクはその才能だけは実兄も認め、ロヴィニア国軍の元帥をも任されていた。
 『結婚さえしっかりとすれば、領地に戻ってくることを許してやるというのに』と実兄に言われている、皇帝の従兄にあたる男。
 どれほど努力しても日陰にしか存在できないザウディンダルとは対照的な表に出ることが相応しい王子、それがエーダリロク。
 ちなみに実兄との関係が “ザウディンダルのせいで” 破綻しているといわれているカルニスタミアは、エーダリロクよりもはるかに軍事的才能があるのだがテルロバールノル国軍においては少将の座しか与えられていない。
 才能がないのならば、テルロバールノル王よりも劣るのならば誰も何も思わないが、カルニスタミアはカレンティンシス王よりもはるかにそれらの才能が上で、過去に何度もその才能を部下達に見せているので、非常に部下達はやり辛かった。
 王の命令と王子の命令が対立した場合、どちらを聞いたらいいのか? 王子の命令の方が王の命令よりも理に適っているほうが多いのだが、王の命令を無視するわけにもいかない。なによりも王子は少将なので……彼等は何時も折衷案を模索している有様であった。
 テルロバールノル国軍の方では、カルニスタミアには是非とも国軍総帥におさまって欲しいと思っているのだが、実兄は『レビュラ公爵と別れない限りそれはない! 国軍総帥にも元帥になることもない!』と名言していた。
 カルニスタミアはカルニスタミアで『王に言われる筋合いはない。国軍総帥の座も国軍元帥の座も欲しいとも思わん。勝手に自分の軍を疲弊させるがいい。国を継がぬ儂には関係ないことだ』歩み寄る姿勢すらない。
 だが、歩み寄りはしていないが二人の関係は不完全ながらも切れた。
 皇帝に “別れてやってくれ” と言われたザウディンダルではなく、カルニスタミアの方から一方的に別れを切り出され、ザウディンダルもそれを受け入れる。
 カルニスタミアの背を押したのは、帝国宰相が皇帝の誕生式典の際に告げた言葉。それに対するカルニスタミア最後の嫌がらせ。どれほど尽くそうが傍にいようが、超えられなかった帝国宰相の意志にそむく。
 だがそれは、帝国宰相に対するものであって実兄に歩み寄るものではない。
「…………」
「奴隷嫌いなのか?」
「別に奴隷は……別に」
「陛下があの奴隷の娘と結婚したら、帝国宰相益々二人に懸かりっきりになるだろうな。それが嫌なんだろ」
 エーダリロクが笑いながら言うと、ザウディンダルは顔を真っ赤にして首を振る。
「そんなことはねえ!」
 実際、ロガが妃になれば帝国宰相にかかる負担は今の倍以上。それを最も知っているのは誰でもない帝国宰相本人。だがそれでもロガを妃に迎えると言い切った。
 そうなれば今でもさほど構ってもらえないザウディンダルは、益々捨て置かれるのは誰の目にも明らか。
「本当にか?」
「……す、少しはある」
 人差し指と親指で “少しだけ” を表しているザウディンダルに、エーダリロクは水を向けた。
「少しか……ま、いいけど。それと他に何かあんのか?」
「別に」
「お前の父親のことか?」
「別に……気にならないって言えば嘘になるけど」
「お前、血筋だけなら俺と同等クラスだぜ」
 足を止めてエーダリロクは[嗤笑]を浮かべてザウディンダルに真実をぶつける。
「……どういう意味だ?」
 帝国宰相が隠していた真実を。
「お前の親父は僭主だってさ」
「なっ!」
「俺やビーレウストは後宮で先代皇帝の夫だった人と過ごした期間が長いから、その関係で知った。カルニスやキュラは知らないだろうな、あいつら後宮育ちじゃねえから」
 ビーレウストとエーダリロクは、幼い頃に王が死にその後必ず起こる内紛の火の粉が掛からぬようにと、皇帝の夫であった叔父や兄が引き取って後宮で育てていた。カルニスタミアもまだ幼いと言って良い頃に父王が死んだのだが、彼は兄カレンティンシスの命令でケシュマリスタ王の下へと身を寄せていたので、後宮とはあまり関係が深くない。
「…………せ、僭主……」
「テルロバールノル僭主の一つ、ハーベリエイクラーダ王女を祖にもつ系統だ」
「うっ……嘘だ……ろ」
「信じる信じないは好きにすりゃ良いが、俺達は皇婿のセボリーロストからそう聞いた。あの人は目の前でお前の父親がディブレシアに乗られているをの見てた。当然だろうなあ、あの人達は “妊娠に適した時期” を見計らって皇帝の寝室に向かってたわけだから、目の前でそれが行われてても不思議じゃねえよ」
「……」
「お前は両性具有じゃなけりゃ殺されてただろうよ」
「なんで……なんで、生まれてきたんだ?」
「それは解らねえ。でも先代皇帝、お前の母親は僭主を父に持つ両性具有を産むことを決めた。目的はなんであれ、先代皇帝はここにお前が存在することを許した……違うか?」
「その目的……知ってるか?」
「知らねえ。それだけは誰も知らねえらしい……帝国宰相にでも聞いてみりゃどうだ? あの男が知らなかったら、誰も知らないだろうからさ」
「…………ああ、後で戻って聞いてみる。エーダリロク……」
「どうした?」
「教えてくれて、ありがとう」
「感謝されるようなことじゃねえよ。とっとと行っていいぜ。見回りは後俺だけで十分だから。お前は報告書でも持って上がれよ」
 ザウディンダルの後姿を先ほどと同じ嗤笑を浮かべながら見送った。その嗤いはザウディンダルに向けたものではなく、それ以外の者に向けたものでもある。


『今頃カルニスもビーレウストから聞いてる頃だろ……さて、帝国宰相サマはどうでるかね? それとカルニスもどうでるかねえ。己の系統の僭主は系統王家が刈らなきゃならない決まりがあるからなあ。さて? どうなるのかな?』


 ザウディンダルはエーダリロクの言葉を全て信じたわけではないが、その言葉に拒否できない部分があった。ザウディンダルは女王、当時の皇帝は女性。当然まだシュスタークは誕生しておらず、女王は生まれてきても処分されることが確実な対象。
 その女王である自分が生かされた理由、僭主であるという事が理由なのかどうなのか? ザウディンダルは真実を最も知っている可能性の高い兄・デウデシオンの元へと急いだ。
「兄貴!」
 ノックもせずに執務室の扉を開く。
「何だ、ザウディンダル」
 そんなことをするのは、ザウディンダル以外いないことを知っているデウデシオンは、書類から目を離さないで声をかける。
「話がある! その……ちょっと他人に聞かれたら困る話だから……人払いを……」
 弟の口調に『何か重要な事』があるのを感じ取ったデウデシオンは、仕事を一時中断し庭に面している窓から外へと出た。ザウディンダルはその後ろに従ってゆく。無言のままデウデシオンは進み、見渡しても木一本も見えない、刈り揃えられた芝生が広がる場所で立ち止まり振りかえった。
「それで何の用だ」
 デウデシオンの言葉が終わって、少しの間を空けてザウディンダルはつい先ほど知ったばかりの事柄の真偽を直線的に尋ねる。
「俺の父親がハーベリエイクラーダ王女系僭主だってのは本当か!」
「誰から聞いた?」
「何処でもいいだろ! 本当なのかよ!」
 デウデシオンがそれを教えなかったのは、ある一つの部分を教えたくなかった為。ザウディンダルに真実を教えた相手は、恐らく全ての真実を知っている。それを知らなければ、ザウディンダルが僭主の末裔であることは決して解らないからだ。
「本当だ。お前はテルロバールノル一派ハーベリエイクラーダ王女系僭主の末裔、エイクレスセーネストという男を父に持つ」
 その相手がザウディンダルに何処まで教えたのか、デウデシオンは無表情のまま『かま』をかけた。
「エイクレスセーネスト? そんなヤツ、リストに載ってなかった気がしたけど。クレメッシェルファイラしか載ってなかったような……」

 相手は全てを教えてはいなかったことを知り、内心安堵しつつ話を続ける。

「クレメッシェルファイラはかなり人間との混血が進み人間に近かった。その夫は人間で、二人の間に生まれた子も殆ど我々の血は流れていなかったが、念のために殺すことになり、ならばとディブレシアの閨へと送られた」
 それは嘘。
 クレメッシェルファイラは両性具有で、夫は実兄。
 子ども達も確かに彼等と同じ血が “濃く” 流れており

 それが災いした

 デウデシオンはザウディンダルの祖母にあたる女性型両性具有クレメッシェルファイラを母皇帝の命令で抱いた。
 クレメッシェルファイラはディブレシアと同い年の、若い≪女性≫であった。彼女と実兄の間に生まれた子は当時五歳と三歳。その三歳児こそエイクレスセーネスト、ザウディンダルの父になる。
 人間ならば確実に死ぬ成長促進剤を大量に投与されて、エイクレスセーネストは三歳の知能のまま成人となり、クレメッシェルファイラの目の前でディブレシアが何時ものように≪殺した≫
 彼がもしも生きていたとしたらデウデシオンよりも年下になる。
「そうか……なあ! 何で! 何でディブレシアは俺を産んだんだ? あの頃陛下はいらっしゃらないし、支配者は女の皇帝だから[女王]の俺は生まれても殺されるだけだろ? ディブレシアは何をしたかったんだ?」
 ディブレシアは何故わざわざエイクレスセーネストの子を身篭ったのか? それを産んだのか?
「…………解らん」
 確かにそれはデウデシオンとクレメッシェルファイラを追い詰めたが、それだけのための行為だったのか? デウデシオンにも解らなかった。
「本当に?」
「解らんよ……」
「何か知ってるって顔して……」
 足元の芝の上を風が駆け抜ける。
 サワサワと音がするその音を聞きながら、息を吐き出しつつ答える。
「枝葉は知ってはいる。だが、私が知っているのは一部であって、お前が望んでいる “お前をこの世に生み出した真の目的” は知らない。探ろうと思ったが……ディブレシアは口が堅く……もう一人、知っている男に目星はついていたがその男も十五年も前に死んでいる。確かめてはいないが、恐らく息子は何も聞かされてはいないだろう。それに知っていても答えはしまい」
 その息は、ザウディンダルが実父が強制的に成長させられた三歳児であることを知らないことに対する安堵が含まれていた。
「誰だよ、その男って」
「先代テルロバールノル王。知っているとしたら年齢からいってもカレンティンシスの方であろう。カルニスタミアは先代の王が死んだ頃は八歳、僭主や女王や皇帝の関係を完全に理解するのは難しい。そしてカレンティンシスと私が不仲なのはお前が最も良く知っているだろ、ザウディンダル」
「……あ、アイツが俺を目の仇にするのって、それも関係してるのか?」
「あまり関係はなさそうだが、そういう穿った見方もできるかもしれんな。その先代の王は、ほとんど両性具有の話をしなかったらしい、教えなくてはならない必要最低限のことしか息子達に教えなかった。そして、両性具有について何かを隠していたというところまでは掴んだが……」
「それが俺なのか?」
「解らん。それにしても、誰がお前の親のことを掴んだのだ?」
「それは……教えらんない……」
「まあいい。私が知っているのはこの程度だ。風が出てきた、戻るぞザウディンダル」
 広げたマントの中に肩を抱き寄せたザウディンダルをいれ、デウデシオンは執務室へと戻った。


『テルロバールノルに対し、警戒を強める必要があるな。それにしても、何か知っているのか? カレンティンシス。いや、あの男はこれがハーベリエイクラーダ王女系僭主と知れば、間違いなく殺しに来るはずだ。それとも知っていて殺さないのか? 何にしても、先代テルロバールノル王ウキリベリスタルめ、貴様は一体何を考えてあの巴旦杏の塔をシュスターク陛下用に、ザウディンダルを登録して解放したのだ! 貴様のせいで……』


 ザウディンダルが帝国宰相の所に「風呂の設置完了」の報告をわざわざ持って行き、そこで自分の出自を聞いている頃、
「ふ〜ん」
 キュラはエーダリロクに『ビーレウストがカルニスタミアを連れて行った』理由を尋ねていた。
 エーダリロクの方でも、キュラが不審に思わないはずがないと考えていたので、問われた際にあっさりと『ザウディンダルの父親はテルロバールノル系僭主ハーベリエイクラーダ王女の末裔』と答えた。
 それを聞き、キュラは軽く頷いて、
「全く関係ないんだけどさ、君とビーレウストって生き残った庶子の父親のこと知ってる?」
 自分の知らないことを尋ねてみた。
 尋ねられた方は、モニターを見ながらコンソールを叩き続けているが、その言葉を決して無視せずに、
「お前がそう聞いてくるってことはデウデシオンの父親、フォウレイト侯爵 リュシアニじゃねえ方のことか」
 聞き返す。
 ディブレシアの庶子達の父親は殆ど『自分が皇帝を身篭らせたこと』すら知らないままに死んでいるのだが、生き延びた者もいる。
 その一人がデウデシオンの父であるフォウレイト侯爵 リュシアニ。現在はダグルフェルド子爵 アイバリンゼンと名を変えて、息子であるデウデシオンに執事として仕えている。これは有名ではないが、知っている者は知っている事実であった。
 このリュシアニ、当時二十八歳で妻子がいた近衛兵。当時八歳のディブレシアと関係を持つことになったのだが、その頃はまだディブレシアが幼かったことと、周囲に人がいたためにすぐに行為を中断された為に生き延びる事ができた。
 ディブレシアが誘ったのは誰もが知っていたが、当然リュシアニの方が「淫行をはたらいた」という形を取らされ、その罪として牢に繋がれた。
 牢に繋がれはしたが、ディブレシアが身篭ったので生まれてくる『私生児』を養育する為にと生かされることとなる。だが皇太子が九歳で出産するとなれば外聞も悪いので、口を封じるためにもとリュシアニは死んだとフォウレイト侯爵家のほうには伝えられていた。
 その後、病弱であったリュシアニの妻は世間的に『夫の後を追う様に』死に、子であったカーンセヌムが侯爵家を継ぐ。父を早くに亡くし、家督争いで苦労した娘カーンセヌム、父であるリュシアニはそれを見守ることしか出来なかったが、事態の急変により娘と再会できることとなった。
 デウデシオンが、カーンセヌムをロガの小間使いとして帝星に連れてきてきたためだ。これによって、父と娘は三十七年ぶりに再会する事となる。
 姉の存在は早くから知っていたデウデシオンだが、何せ帝国宰相として敵を多く作る身であるために、できるだけ彼女の存在を表に出さないようにし、それと同時に彼女がどれほど困っていても手を貸すことはなかった。
 家督争いで財産の殆どを叔母夫婦に取られ、貧乏侯爵となりコンシエルジュとして生計を立てている彼女。手助けをすることは出来たが、決して手を貸さなかった。彼女が中央の政争に巻き込まれないようにする為の配慮。
 それでも父の事を考え、ハセティリアン公爵の妻にカーンセヌムの身辺の安全を一任し、偶には彼女の映像などを持ち帰らせていた。
 本当は姉を巻き込む事はしたくはなかったのだが、奴隷を正妃に迎えるとなったところで後宮の召使の人選がかなり厄介なこととなった。幸いロガの女官長にはエーダリロクの妻であり、かつて皇帝陛下のお后候補として選出されたメーバリベユ侯爵が名乗りを上げてくれた為に苦労せずに済んだが、ロガの身辺に付きっきりで働く者がどうしても必要であった。
 ロガの女官長ともなれば、後宮どころか貴族生活も知らないロガの代わりに全ての典礼に際し準備や挨拶を肩代わりする重要な立場。メーバリベユ侯爵はそれらの事は責任を持つが、ロガの傍に付きっきりでいるわけには行かないこともはっきりと帝国宰相に告げた。
 そしてロガの傍には出来るだけ、今まで中央とは関係のなかった、信頼のできる貴族女性が好ましと言ってきた。その条件にデウデシオンの姉・カーンセヌムがぴったりと一致したのだ。長年その動向を見守ってきてハセティリアン公爵の妻も、彼女は信頼できるとはっきりと言いきった。
 出来ることならば自分のような弟がいることを教えたくはなかったデウデシオンだが、そうも言ってはいられなくなり姉を連れてきて、現在「皇后の小間使い」としての教育をメーバリベユ侯爵に一任していた。
 そのリュシアニ以外にも『もう一人生き延びた男』がいることは誠しめやかに噂されていた。その生き延びた男の息子が誰なのか、誰も解らない……そう思われていたのだが、
「ひゅぅ! 知ってんだ。やっぱり後宮に長いこといると、その手の情報は手に入るもんなんだ。やっぱり皇帝の実父系列は強いなあ。ラティランが皇君オリヴィアストルに聞いても解らなかったのに」
「俺達は皇君から聞いたぜ……やるな、あの人も」
 皇帝に仕えていた夫達は、それらのことを知っていた。
 知っていたが、決して『王』に尋ねられても教えなかった。彼等がビーレウストやエーダリロクにそれらを教えたのは彼等なりの思惑。彼等は自分達以外の口からこれらの事が伝えられること期待していることをビーレウストやエーダリロクは知っていた。


 先代皇帝の夫達は「彼」に対し、強い負い目を持っている


「本当に。それで、教えてくれるのかな?」
「言わないつもりなら、知らないって最初から言ってるさ」
「そうだね」
「庶子達の父親で生き残っているもう一人、それはデウデシオンだ」
 その名前が出た時、キュラは驚かなかった。デウデシオンが命令され、皇帝と深い関係にあったことはこれも割合有名であった。
 彼だけが庶子で『大公』を名乗っている理由だとされている。ディブレシアがその相手として気に入った息子に対し大公位を与えたとされている。だが、息子がいるとまでは知られていない。
「“息子” は誰だい?」
「バロシアン」
「……ああ、あの帝国宰相閣下の腰巾着。そういう事かい」
 長兄と末子。
 帝国宰相の秘書官を務める彼は、確かにデウデシオンに似ていた。
「ま、食わせ物の皇君が嘘ついてなけりゃ……の話だが。だが何でも、バロシアンのやつフォウレイト侯爵家の後継者に急遽決められた、侯爵家のすげえ遠縁の女。そいつと結婚するらしいぜ」
 モニターから目を離し、キュラのほうを向いて笑った顔は酷薄さを浮かべた『ロヴィニア』そのもの。人の秘密を暴き脅すことを得意とする白銀の冷酷、それは他人にとって残酷な真実を告げる時の自信に溢れたその表情。
「ディブレシアは一体何を考えていたんだろうね」
 裏を取る必要もないなと、キュラはその情報を全面的に信用した。下手に調べて、帝国宰相に消されては元も子もないということもあるのだが。
「解らねえ……ところでキュラ。お前は俺に何か情報をくれるか?」
「僕が提供できることならね。アルカルターヴァ公爵が[女王]だってこととか」
「そりゃ知ってる。お前のラティランも知ってるよな」
「さすがロヴィニア王家、情報網の素晴らしさには恐れ入る」
 キュラの最大の持ち札は、相手も持っていて意味をなさなかった。これ以外の情報は何があったかな? と記憶を手繰っているキュラに、
「カレンティンシスが王になった事とかはこの際どうでもいい。俺が知りたいのは、何であの皇帝宮の中庭の一角「夕べの園」の向こう側にそびえ立つ巴旦杏の塔が “今の陛下用に動いているのか?” ってことだ」
 エーダリロクは『知りたいこと』を口にする。
「へえ、さすがの君でも解らないのかい? エーダリロク」
「別に興味はねえ、だが……ビーレウストによると死んだ帝君アメ=アヒニアンが遺言状に『先代テルロバールノル王の企みだ』そう残してたってさ」
「……カレンティンシスが何かを知っているなら、ラティランはその情報を引きずりだしているはずだよ」
「その情報を知っているのはカルニスの方なんじゃないか? 俺はそう考えてる。その情報にカルニス自身が気付いてないだけであって」
「死者は語らないから厄介だねえ……でも……ザウディンダルの父親はテルロバールノル系の僭主だった訳だから、先代王が指揮して捕らえてきたわけだよね。今帝国にいる全ての両性具有は、大なり小なり先代テルロバールノル王ウキリベリスタルと関係があるってことになるね」


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