繋いだこの手はそのままに −49
 さて、本日は花と昼食を持って参った!
 花はロガに良く似ていると思う向日葵を籐で編んだ篭に飾って。
 ふ〜む喜んでくれるであろうか? それよりも、余の事を忘れて……いや! 余でもあるまいし! 覚えていてくれるはずだ!
「ナイトオリバルド様!」
「おお、ロガ! 久しぶりだな」
「今日の鬘は一段と凄いですね」
 持って来た花よりも余の鬘のほうに注意が向いたようだ。
「久しぶりに来るので、ロガに気付いて欲しくて、兄の誕生日の贈り物から失敬してきた」
「お兄さん……これ被るんですか?」
「どうであろうな? だが、これだと目立って良かろう! 久しぶりなのでロガに直ぐに見つけてもらえるようにこれにした。レインボーアフロの鬘」
 ラティランクレンラセオがデウデシオンの贈り物として用意したものだ。
 レインボーアフロなる言葉は知らなかったが、思わず気に入って問うたらザセリアバが笑いながら教えてくれた。何でも、パーティーグッズなのだそうだ。
「ナイトオリバルド様は背が高いから直ぐに解りますよ」
「あ? そうか。それとロガ、これを受け取ってはくれぬか?」
 余の事を前と変わらず笑顔で迎えてくれるロガに幸せを感じつつ、花を差し出した。
「貰っていいんですか!」
「無論。余……ではなく我輩の自宅の庭に生えている花を我輩が飾ったものだ……我輩は素人なので、その……大した物ではないが部屋にでも飾ってくれないか?」
 とても小さいのだ。
 余の手の平に乗る程度の籐で編んだ篭。最初見たときは小さすぎるのではないか? と感じたのだが、あまり大きいとロガの家に置けないし、動かす事もできないのでこの程度が丁度いいと。
 そのあと、小さめな向日葵を探しに父達と共に再び花園に向かい、選んできた。
 気に入ってもらえればいいのだが……余の手からそれを受け取って、
「ありがとうございます! 凄い綺麗です!」
 笑ってくれた。
 ……本当に、丁度良かったようだ。余が持っている分には小さいが、ロガが持つとそれなりの大きさがある。
 余とその周囲のイメージで作るところだった! ありがとうデウデシオン! ロガに丁度いい花器を用意してくれて。それで、デキアクローテムスが言ったのだが、花を渡しながら愛を囁くと効果的だと。デキアクローテムスに “効果的であったのか?” そう尋ねてみたが “愛を囁く前に終わってました” 半泣きになってしまった。全く理解できぬが……済まぬな。
 何が効果的なのかは知らぬが、花を渡してその後愛を囁くということで。
「ロガ……あのな。実は我輩……愛……」
「どうしたんですか? ナイトオリバルド様。突然声が小さくなって。あまりよく聞こえないんですけど」
 おや? 意味がないようだ。それとも違うのであろうか? 囁いておるのだが……身長差が50cm以上もあるのだ声を潜めてしまえば届かぬであろうな。まあ、聞こえぬのならば仕方ないし、もう一度戻って[愛を囁く]ということを確りと学んでこよう。
 普通の喋り方に戻して、
「ロガに贈ろうと考えた所、黄色の向日葵が一番似合うと思ってな。そ、その太陽のようなイメージが。なんと申すか……そ、そうだなロガは余の太陽……ん〜うまく言えないが、この向日葵のように太陽の方角を向いている姿が……す、すまん……今度考えてくる」
 普通の喋り方でも、滅茶苦茶である。
 色々考えてきたつもりだったのだが、上手く言葉にならぬな。
「待ってますから」
「そ、そうか……おや? それはどうした?」
 よく観ると、ロガはトレイの上に何かを置いておった。それに余が気付いたところで、顔を赤らめて、
「あの、昨日警察のカルさんが来て」
 語りだした。
「カルさん?」
「ナイトオリバルド様の知り合いだって」
 カル? カル? カァール? そんな知り合いおらぬような、カル?
「……カル……カル……あの〜我輩と掴み合ってた栗毛の体格がよく、顔も凛々しい声の低い男か?」
「はい!」
 カルニスタミアのことか。正解してよかった! 知り合いの名前すら解らないと思われたら悲しい。
「確かに知り合いだ」
「それで、今日は来るから……菓子でも作ったらどうだ? って小麦粉と卵とバターと砂糖、それにボウルとかを置いていってくれたんです。私、難しいの作れないから……混ぜて作れるカップケーキを作ろうとしたんですけど……いつも通り失敗しちゃって」
 そのトレイの上に乗っている、黒い物体はカップケーキなる菓子なのか。
 見たことないな。
「ロガは菓子を作るのが苦手か」
「あ、あんまり作らないし……それにいっつも失敗しちゃうから、材料勿体ないって言われて」
「だが我輩のために作ってくれたのだろう? 食べても良いか?」
「あの……美味しくないと思います」
「食べてみねば解らぬ」
 余はトレイから一個手に取り、噛み付いた。

− 中が焼けておらなかったらしい

 帝星の戻ってきたら、大騒ぎだ。
 余がロガの失敗したカップケーキを食べた事が大問題らしい。
「仕方なかろうが! 中が焼けていないとは解らなかったのだから!」
 ジャムかなにかかと思い食べておったのだが、帝星についた辺りから妙に胃の辺りが……。何故表面が良く焼けていたのに、中はドロドロだったのだろう?
「陛下ぁ〜」
「落ち着けデキアクローテムス! そしてセボリーロスト! 花は合格点だったようだ」
 だが、失敗したといっていたのだから、その言葉には間違いなかった。失敗作を無理を言って食べた余が悪いだけであって……
「陛下の感性はすばらしいものです。思うがままに花を挿すだけで、芸術品が出来上がりますよ……陛下! 生焼けの小麦粉は危険です!」
「そ、そう泣くな」
 消化を促す薬を持った医者達が右往左往するわ、父達が足元に集まって泣くわ叫ぶわ、
「陛下! 生焼けの小麦粉は澱粉がっ! 澱粉がっ! でんぷんがぁぁぁ!」
 落ち着け! 落ち着くんだ! 皆の者!
「落ち着け、オリヴィアストル」
 父達の頭を撫でて、とにかく興奮を収めてやらねば。
「陛下、これをお飲み下さい」
「解った、医者。……さあ、薬も飲んだから、もう大丈夫だ!」
 泣きやんでくれ! 父達よ!
「本当に落ち着け貴様等! 陛下の体調がますます悪化するわ!」
 そんな事をしているうちに、
「デウデシオン」
 デウデシオンが来た。デウデシオンは父達をかき分けて余の傍まで来た。
「陛下、良くぞご無事で」
「いや、まあ……」
 無事もなにも、ロガの所に行って帰ってきただけなのだが。
「それにしても、良く食べられましたな。変な味なさいませんでしたか?」
「ん? それなあ……ロガが作ってくれたと思ったらなんとも」
「美味しくはなかったのでしょう?」
 確かに美味しくはなかったのだが、食べないという選択肢はなかった。
「そうなのだろうが、食べられた。不思議だな」
「……タウトライバ辺りに言わせれば、愛なのでしょう。このデウデシオンには解りかねますが!」
「そ、そうだな。それ程力を入れんでも……な、デウデシオン」

 薬も飲んだし、眠って回復をはかるとするか。……でも、また作ってくれたら食べたいな。


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