繋いだこの手はそのままに −116
『明日機動装甲に搭乗してみてください』
 タウトライバにそのように言われたので、ロガを伴って再び機動装甲格納庫へと向かった。
「これが機動装甲です」
 本日は割合格納庫は近かった。昨日は遠かったなあ……思い出すな、シュスターク!
「うわぁぁぁ」
 ある程度離れた場所から全体を見た後、近付いてゆくとその大きさにロガが驚き声を上げた。
「ほぉー」
 そして余も声を上げた。
 見事なものだ! 白い余の機体ブランベルジェンカIVよ。
「陛下まで后殿下と一緒に驚かなくても」
「済まぬな。だが、自分の機動装甲を初めてみたので」
「え?」
「余は今回が初めての会戦なので、その、な!」
 ロガはにっこりと笑い、
「凄いです。私初めてで何も解らないのに、ナイトオリバルド様はお仕事までしてるから、てっきり何度か来たことあるんだと思ってました」
 そう言ってきた。
 初陣と話掛けた記憶があるのだが……ああ! そうか! 戦争に縁のない生活をしておれば 《初陣》 などという言葉の意味など解らんな。
 余が箒を知らぬように、ロガが初陣を知らぬのは当然だろう。
「そうか、初めてなのだ。初めて同士、頑張ろうな」
 何を頑張るのか解らんが……今の言い方だと、まるで夜まで初めて……余は! 余は! 夜は初めてではないぞ!
 まあ、この二年間は全く……二十四歳皇帝、後継者無しとして正しい姿なのだろうか?
 余がそんな思考の迷宮、まあ他者ならば容易に抜けられるだろう迷宮に入り込んでいる脇で、説明が始まった。
 エーダリロクは自分で機動装甲を設計して、ついに新タイプを作り出した程だ。
 いや、本当に天才だ。
 同じ体な筈なのに、何がこう……やはり人格なのだろうなあ。
 機動装甲は頭部に操縦席があったのだが、エーダリロクの開発した機体は腹部辺りに存在する。
 機動装甲の全機能を効率的に、そして感度良く操作する為には腹部辺りの操縦席の方が良いのだそうだ。
 まあ……なんか開発なんとか……を提出されていたが、解らなかった。
 今のところ昔からある頭部操縦席型と、新型の腹部操縦席型の比率は7:3ほど。3の中にはビーレウスト、カルニスタミアやザウディンダルの機体も入っておる。
 エーダリロクは開発者だが頭部操縦席型に搭乗している。
 頭部操縦席型の限界値を探り、全てを腹部操縦席型に移行させることはできないか? それとも両方を開発してゆくべきかを検討しているのだとか。
 ちなみに余とガルディゼロは頭部操縦席型。
 だが若い者達にはエーダリロクの開発したタイプの方が好まれているとか。余の甥のエルティルザも、エーダリロクが作成した機体を貰って大喜びしたそうだ。
 余が前線に出る前に叙爵したが、今頃は楽しみながら機体を整備しておるだろうなあ。
 さてと、エーダリロクの説明を……
「機動装甲は、元はフィーブレイムス・バッサンドロイドというラヅリーグレムラッシャード駆動のデバイドグレーダウム基盤がシャーバンクレーゼットハーデンバーム回路をクラダービセイルセボイドスがサビレフムド」

 何を言っておるのだ? エーダリロク。

「カルニスタミア、エーダリロクの口封じて」
「解った」
 ガルディゼロの指示に従い、カルニスタミアはエーダリロクの口を封じて遠くへと引き摺ってゆく。
 《ここからが良いところなんだよ!》 等と叫んでいるエーダリロクの声が、硬質な格納庫に木霊すも、
「ザウディンダル、説明」
 残ったガルディゼロ、ザウディンダルの両名は気にせずに説明を再開した。
「解った。后殿下、このレビュラ公爵ザウディンダルが簡単に説明させていただきます。機動装甲は本来、作業用機械でした。人が生きてゆけない惑星で、鉱山資源などを採取したり、人が住めるように改良するために開発された機械です。それが暗黒時代、后殿下はご存知ないかもしれませんが、皇帝を名乗る者同士で大きな戦争があり、その際に武器として機動装甲の元である機械も用いられました。その後改良し、この形となったのです。改良する際に機能重視、要するに強くなることだけを目的としたので、操縦者が限定されてしまいました。そしてこの操縦者を 《帝国騎士》 と呼びます。もちろん陛下は帝国でも有数の 《帝国騎士》 の才を持っていらっしゃいます」
「そうなんですか」
 今の説明は余にも理解しやすかった。
 ありがとう! ザウディンダル!
「帝国騎士として最も強い人はオーランドリス伯爵って称号を受けることになっててキャッセル様、后殿下にはキャメルクラッチさんのほうが通りがいいかな? あの人が現帝国最強騎士。 “現” とは言ってもつい最近出来た称号だからまだ五代目だけどね」
 ガルディゼロが話を続ける。
「キャメルクラッチさん、強いんですね」
「うん、キャメルクラッチ様強いよ。まあ、強いっていっても色々形はあるんだけどね。ビーレウストはさ、僕よりも性能的には低いけど、射撃の腕は僕よりも良い。でも性能が低いってのは敵を倒す能力が総合的に低いってこと」
 機動装甲の強さは、純粋な人間には存在しない脊椎核数で決まる。
 脊椎核とは変異しなければ羽が生えてこない脊椎に埋まっているもので……ロガに説明するべきか、否か悩む我々の根幹。
 この脊椎核がなければ異星人と交戦可能な機動装甲は操縦できない。要するに人間には、異星人と戦う機動装甲の操縦は不可能。
 その脊椎核の数も個人によって異なる。
 エーダリロクは核自体が脊椎にあり、八個の羽因子を持つ。
 カルニスタミアも余もエーダリロクと同じで、十二個の羽因子が主核である脊椎核型。
 ガルディゼロとザウディンダルは十個。ガルディゼロは脊椎核型で、ザウディンダルは両性具有なので当然核は生殖器にある。
 ビーレウストも八個の羽因子を要しているのだが、核は脳内にある第三の目なので機動装甲使用戦のみ劣る。
 ちなみにキャッセルは脊椎核で羽因子が十四個、現時点で最強だ。同じく十四個有するのがラティランクレンラセオだが、核その物はこれもまた頭の中にあるので、それで若干劣る。
 現時点で中将艦隊にも勝る破壊能力を有する機動装甲、この操縦が出来る羽因子は諸刃で、偶数個であれば 《正常》 だが、奇数個では 《発狂》 する。
 羽因子の元は両性具有の姉弟、ロターヌ、エターナに起因するのだが、この二人は羽が十二枚付いていた。
 基礎となる二人が十二枚、偶数だったので奇数になると問題が発生してしまう。
 そんな事を考えていたら、既に説明は変わっていた。
「武器といえば、これが有名だね “エバタイユ砲”」
「扇状に拡散するエネルギー砲です。エバタイユ砲の元は、コレに似ているからです」
 ザウディンダルがカルニスタミアから扇を受け取り広げる。
「扇ですか?」
「はい。昔はこれその物の厚みのある、でも平面的なものでしたが、今は筒になっている形、円錐形が主です」
「エネルギーが薄くなって、ちょっと弱かったりもする。解るかな?」
「あ、あの水撒きのホースヘッド調節みたいなのでしょうか?」
「それ」
「あれで最も水が強くでるのは細くした時でしょ?」
「はい」
「あの細さにも似たエネルギー圧縮貫通性、要するどんな物体でも突き抜けられるよう特化した兵器が后殿下が観たキーサミナー銃。別名 《ザロナティオンの腕》 なんだよ」
 そうそうエバタイユ砲は、広範囲を無差別に攻撃するもので、キーサミナー銃は狙いを定めて狙撃するものだ。
 異星人の兵器は惑星の大きさを誇る巨大戦艦なので、狙いを定める必要はなく、撃って壊すのが主だそうだ。
 良く解らんのが実情だが……
 そんな余だが、カルニスタミアに手伝って貰い無事にブランベルジェンカIVの操縦席に乗る事が出来た。
「ほぉ、こういう物なのかあ」
 軍に籍を置いて二十一年、皇帝在位二十一年、初めての経験だ。
 搭乗する際の特殊な服を着用してはいないが、この体の位置をこう……うぅ……一人では離脱困難。
 カルニスタミアが体がめり込む椅子から余を引きはがして、
「これにはコツがありまして、少し体を捻るようにすると」
 目の前で試してくれた。
 本当に簡単に外れたな!
「この椅子が体を離さないのは、衝撃を吸収する目的と、この操縦席が破損した場合体が宇宙空間に流出しない為です。この操縦席とバラザーダル液によって宇宙空間で破損しても生存できる可能性が高くなるのです」
「ほぉー」
「へ、陛下……」
「いや、凄いなあと思って」
 余はその後、カルニスタミアに背負われて操縦席を後にした。
 300M程度だから飛び降りても平気だと思うのだが、カルニスタミアに 《万が一のことが》 と言われたので。
 無事にロガの元に戻ってくると、ガルディゼロとザウディンダルがロガに、余がいかに優れた帝国騎士の能力を持っているかを語っておった。
「だが、帝国騎士の才能はあるが、実際は何一つしたこともない。才能的にはカルニスタミアと同等と言われているが、実際の戦闘となるとカルニスタミアの足下にもおよ……」
 ガルディゼロとザウディンダルの視線が冷たい上に、ロガが困惑して……しまった! これは先だって言われた 《陛下を持ち上げようとしているんです》 に違いない!
 前回その場にいなかったカルニスタミアも……カルニスタミア、今精神感応を開通させたら、困惑が大量に流れ込んでくるのだろうなあ。
 済まぬ!
 だから余は、あえてここで高圧的にナルシズムに溢れた、無駄に自信満々になろうではないか!
「そ、そうだ、ロガ。余はカルニスタミアよりも年上だが戦闘回数は比べものにならない程に少なく、射撃の腕はビーレウストには敵わず、技術部門ではエーダリロクが高みにおり、情報整理という分野では、いずれザウディンダルに越され、話術という部分ではガルディゼロに遠く及ばないが、凄いのだ」

…………

 な、なんだ! この空白は!
 余が何か間違いを言ったのか? 《凄い》 は間違いと言えば間違いのような気もするが、何かお前達の気分を害することを言ってしまったのか! 三人よ!
「はあ……」
 ガルディゼロが深い溜息をつき、
「桁違いじゃ」
 カルニスタミアも首を振る。
「……いいえ、陛下は本当に偉大であります」
 ザウディンダルが、余から視線を外してそのように。
「陛下、今の発言は全く無意味ですよ」
 猿ぐつわを外しながら戻ってきたエーダリロクが言ってきた。
「何か例を間違っていたのか!」
「いいえ、少なくとも俺たちは褒められました。でも褒める為に陛下がご自分でご自分を落としてます。最後の自慢は無意味」
「やはり余は話術が!」
 余、不甲斐ない事この上なし!

**********

 シュスタークが頭を抱えて転がっている傍で、
「ナイトオリバルド様らしい」
 ロガは微笑んでいた。
「確かにそうなんだけどねえ」
「ナイトオリバルド様って、本当に凄い御方なんですよね」
「君が解ってくれているなら良いや」
 格納庫の中を高速で転がり逃走を続けているシュスタークに向けるロガの視線は優しい。
「ナイトオリバルド様が一番格好良いと思いますよ」
「それなら良いや。ちなみに二番目は誰だい?」
「キュラさんです。何時も良くして頂いて」
「僕、君のこと大好き。これからも大好きでいさせてもらって良い?」
「はい」


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