、君
黄金。海に【02】
「南にある温かい島にある小さな村。とうちゃんとかあちゃん、にいちゃんとあてしでパイナップルを育ててたんだ」
「パイナップル知ってる。あの黄色で丸い輪っかのやつだろ」
「うん! それでね、ある日ね、夕方のオレンジ色の海からほぇほぇでぃ様がやってきたんだ。それでパイナップルをもっしゅ! ともいだんだ。あてしね……」

―― 勝手に食べちゃだめ! 大事に育ててるパイナップル!
―― あん? 誰に向かって言ってるとおもってんだ、この子供は
―― あてしのおうちのパイナップル!

「その人がほぇほぇでぃ様? 泥棒じゃん」
「泥棒じゃなかったみたいだよ。詳しいことは解らないけどさ。でもほぇほぇでぃ様は……」

―― 何泣いてるんだよ……ぶっ! 不細工だなあ
―― あてしの育てた……ぱ……ぱいにゃ……
―― まあ君の勇気に免じて許してやるよ

「その時初めてあてしほぇほぇでぃ様のお顔みたの。影でその時まで見えなかった」
「綺麗だったんだ」
「とっても綺麗。あのね、髪の毛がパイナップル色だったんだ」
「へえ。パイナップルみたいな頭かあ」
「ほぇほぇでぃ様、お金出してパイナップル買ってくれたの。だからあてし、パイナップル切って出した」

―― 味は普通。ってか切り方下手だなあ。不揃いだしさあ。この僕にこんな不揃いなの出したヤツは初めてだよ。皿も安物だしさあ
―― おいしい? おいしい?
―― まあ良いか。普通だけど……美味しいには美味しいよ。君、名前はなんて言うの?
―― あ、あてしの名前?
―― そうだよ
―― あてし、グラディウス!
―― ふーん
―― あの! あの、パイナップルしゃん
―― パイナップルしゃんて、僕のこと? なんて顔してんだよ、ザイオンレヴィ。後で覚えてろよ
―― あのね、パイナップルしゃんの名前はなんていうの!
―― 僕の名前はマルティルディだ
―― ほぇほぇでぃ様!
―― ……まあ、良いけどさ。君ってあんまり賢くなさそうだね
―― うん! あてし馬鹿!
―― ……やり辛いなあ。馬鹿は騙されやすいから、僕が守ってやろう

「そういってね、ほぇほぇでぃ様は自分の首からこれを外して、あてしにくれたの。困ったことがあったら、これを見せろって言って」
「へえ」
「あてしこれ大事に首から下げてたんだ。そしてね……三ヶ月くらい前に大津波があったの知ってる?」
「知らない。その頃、俺生まれてないかもしれないし」
「そっか。あてしの島が大津波に飲まれて、なくなっちゃったの。とうちゃんも、かあちゃんも、にいちゃんも……あてしだけ助かった。おうちもなくなっちゃった」
「あー……」
「親戚とかみんな村にいたから、遠くの親戚? が解らなくて、あてし一人で困った。そしたらね! 災害ボランティアっていうピラお兄さんが」

―― 大丈夫か。お兄さんがなんとかするから? ん? これどうしたの? この人が困った時に見せろって言った?
―― ほぇほぇでぃ様が! ほぇほぇでぃ様
―― ほぇほぇ? ともかく、この認識票の人は知り合いなんだね?
―― うん!

「一生懸命捜してくれた。でも中々見つからなかった」
「……」

―― よお、ピラデレイス
―― レンディア。どうした? お前、こういうの面倒だって嫌ってただろう
―― 何事も経験ってか、一回くらい経験してから面倒だって言おうと思ってね
―― なあ、レンディア。お前*****に知り合いいるか?
―― じょっ! 冗談! 居る訳ないだろ! なんだよ、突然!
―― この子の知り合い。身元引受人がこの人しかいないらしい
―― ……マルティルディ……連絡ついたのか?
―― 全然。ってか、下手に周囲にも言えないだろ? 知り合いだなんて知らせたら、この子がどんな目に遭うか
―― お前ほんとに……ああ! 連絡とるの諦めようぜ

「見つからないから、ピラお兄さんとレンディアお姉さんが、引き取ってくれるって言ってくれたの」
「良い人だね」
「とっても良い人。でもね、ほぇほぇでぃ様に連絡がついたの」

―― ピラデレイス! いま島に、海洋学専攻の学生が来てるんだが
―― 突然なんだよ
―― 俺の記憶じゃ十五施設室長の義理の息子だった筈だ
―― 第八と第十五って仲悪くないか?
―― この義理の息子、目つきは鋭くて氷の如き容姿だが性格悪くないらしい。一緒にいるサベルス氏にでも相談に乗ってもらおうぜ
―― そうだな。俺たちが頑張ってもどうしようもないしなあ。賭けてみるか。お前来るなよ、レンディア。下手したら、消される可能性もあるし。その場合はあの子頼むよ
―― やだよ。未婚でこんな大きな子持ちになるなんて

「その人が連絡つけてくれたのか」
「うん。ピラお兄さんとレンディアお姉さんが新しいお洋服買ってくれたの」

―― なにかあったら、気軽に連絡していいからな
―― 本当に気軽に連絡してくれよ
―― こんなに一杯買ってくれて、ありがとうございます! あり……ありがとうじゃいま……
―― 泣くなよ、グラディウス。こっちまで泣いちゃうじゃないか

「その連絡してくれた人って?」
「あのね」

「もしもし、そこのお二人さん。迷子かな?」

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