、君
黄金。海に【03】

 声を掛けられて振り返ったら……なんだろう、もぎもぎのおっさんに空気が似ている男の人が立ってた。
「あの……」
「そっちの子。その認識票みせてくれるかな?」
 黒髪だし垂れ目だから顔は似てないんだけど、なんだろうこの……何とも言えない空気。
「駄目! これは良い人にしか見せちゃ駄目って言われたの!」
「だったら見せちゃ駄目だ! もぎもぎ!」
 この人は無条件で良い人な感じはしない! 悪い人でもなさそうだけど、絶対良い人じゃない。
「警戒されたか。いやでもさ……」
 近付いてきたから逃げようとしたんだけど、もぎもぎが躓いて転んだ。
 先に走り出して距離があった俺は、もぎもぎの認識票に手をかけようとしている男の元へと引き返したけれども、間に合いそうにない。
「もぎもぎー!」
「ざうにゃん!」

 ……で、今俺ともぎもぎは交番にいる

「胡散臭いんです」
「初対面だから悪いとは思ったがね」
 男の名前はキーレンクレイカイムっていう、ちょっと偉い人らしい。
「エロ臭いんです」
「エロ好きなことは否定できないな」
 俺ともぎもぎを交番に連れてきてくれた人はお巡りさん。名前はヘスさん。
 ヘスさんは自転車で縄張り(違う言葉で言ってたけど、縄張りみたいなもんだよね)見回りしてたときに道で泣きそうになってる俺たちを見つけて、声を掛けようとやってきた。
「歩道橋で転んだ少女が拒否しているのに、近付いて触れようとしているんですから。変質者認定されても否定できないでしょう」
「そらぁまぁ……なあ」
 俺が戻るのとは反対方向の階段を自転車で登ってきて(通常のお巡りさん仕様)キーレンクレイカイムに激突して助けてくれた。
 スーツの背中にはタイヤ痕が。
 泣いている俺たちと、自転車に吹き飛ばされたキーレンクレイカイム。これは交番に連れていかなくてはならないと、連絡をいれてパトカーがやってきて交番に到着。
 そこでもぎもぎは泣き止んでヘスさんに認識票を見せた。
「これでもマルティルディの知り合いなのよ」
「御免なさい」
 もぎもぎはキーレンクレイカイムがほぇ様の知り合いだと聞いて謝った。でも、
「信じちゃ駄目ですよ。こういう大人は平気で嘘つきますから」
 ヘスが「要らない、要らない。信じちゃだめですよ」と言う。
「本当に知り合いだって」
「あれですよ。お母さんが怪我したから、病院に連れて行ってあげるレベルの嘘ですよ」
「私の身分照会しただろ!」
「グラディウスは知らないんですから、いきなり声をかけないでください。そのお顔で都会になれていない少女に声をかけるなんて、売り飛ばそうとしている以外に見えると思いで」
「まあ、いいが。だがしかし、お前面白い男だな」
 パトカー運転してきてくれたラウデさんが”止めろ、止めろ”って言ってるんだけど、ヘスさんやめない。

「今度正式にダグリオライゼに紹介してもらうから、その後に二人とも遊ぼうな」
「うん!」
「いいけど……」
「猫耳くん。そう変な顔するな。お前みたいなのが好きなのがいるから、是非とも遊んでやってくれ。さて、あとは交番にまかせて私はデートの約束があるから。じゃあな」
 背中にタイヤ痕つけたままキーレンクレイカイムさんは去っていった。
「その名刺を各々の保護者に見せると良いでしょう。それでグラディウスの保護者はダグリオライゼ室長なんだね」
「うん! そしてざうにゃんはお向かいさん!」
「あーやっぱり駄目だ。室長の個人データは公開されてないから、何処に住んでるのかまったく解らない」
 パソコンの画面を前に渋い顔をしてたラウデさんが頭を振った。
「個人連絡するしかないでしょうね」
「本庁から連絡してもらわないと繋がらないだろう」
 俺ともぎもぎは二人で椅子に座ってた。ちょっとお腹空いてきたけど、一生懸命捜してくれている二人になかなか言い出せない。
 がらがらがら……と引き戸が開く音。
「すみませんー。落とし物なんで……」
 そして隣のグラディウスが座っている椅子が倒れる音。

「エバたんお兄さん!」

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