至福のお食事タイム(デウデシオンは食べさせているだけですが)を邪魔する形になった二名。
「初めまして、ザウディンダルくん。私はデウデシオン兄の弟シャムシャント」
一人はシャムシャント。もう一人は、
「初めまして、ザウディンダルちゃん。私はデウデシオン兄の弟、アウロハニア」
大量の荷物を運ぶのを手伝ってくれたアウロハニア。
「いっぱい作ってきましたよ、お洋服」
シャムシャントはデザイナー兼コーディネーター。デウデシオンが呼んだ方である。
ザウディンダルの洋服は、尻尾があるため市販では無理があるので、デザイナーの弟に依頼したのだ。
「あとね、幾つかは購入してきました。ミスカネイア義理姉上お気に入りのブランドです」
箱から取り出して宙に舞わせたとき”ぴらぴらん”と効果音がしそうな洋服。
「な、なんだ……この……」
「ゴシック・アンド・ロリータ。いわゆるゴスロリってやつです! このブランド、すごい人気でなかなか手に入らないんですよ。着てみてくれるかな? ザウディンダルくん」
「ワンピースではないか」
「尻尾を隠すのには、ワンピースが最適ですよ」
弟の一言に”それはまあ……そうなんだが……”と、言い返すことを諦めた。そして”ミスカネイア、やはり……”と言う気持ちになったが、ピンクと白でフリルとリボンが大量についているワンピースを着たザウディンダルを前にして、全ての文句が吹っ飛んだ。
「似合うねえ。ミスカネイア義理姉上の言う通り、メイクしなくても全く問題ないね。これは凄い」
白い肌に藍目勝ちな目。そして毛ぶるように長い黒の睫。濡れたような黒髪に、猫耳。
「デウデシオン! 俺、似合ってる?」
まさに完璧である。
「ああ、とても似合っている……なんだ、お前等」
うっとりとした表情で答えているデウデシオンを見て、弟たちは引いた。むしろ引かざるを得なかった。
「まあいいや」
「ねえねえ、シャムシャント」
「なんだい? ザウディンダルくん」
「この洋服って、ジュラスのところのでしょ」
「知っているのか」
「うん! グラディウスも着てるよ。グラディウスの着ている服は全部ジュラスのところのだって聞いた」
ザウディンダルの言葉を聞き、デウデシオンは記憶を探り、
―― たしかに、そんな感じの服を着ていたな。フリル系が趣味か、イネス
なんとなく、無理矢理納得した。
無理矢理の部分は、グラディウスとゴスロリはあまり似合っていないという部分だが、他者の格好などデウデシオンの興味の範疇外。
「で、お前はなにをしに来たのだ、アウロハニア」
「これを持って参りました」
アウロハニアが差し出したのはリコーダー。
「……なんだ?」
「リコーダーです」
「それは解るが」
「音感を育てるために、どうぞ。ザウディンダルちゃん、ここから息を吹くと音がでるよ」
「へえ」
荷物を運ぶのを手伝った弟、アウロハニア。彼の職業は指揮者である。それもかなり世界的に有名な。
「ついでと言っては失礼ですが、デウデシオン兄さんの洋服も新調したいので、サイズを測らせてください」
「ああ」
「それにしても可愛い子ですね」
「とうぜんだ」
「(うわ、この人)……」
泥沼離婚した男に訪れた、猫耳猫尻尾少年で少女との日々。それは弟を引かせるのに充分なものだった。
採寸を終えたシャムシャントは、リコーダーの指使いを教えているアウロハニアに声をかけて帰ることにした。二人の時間を邪魔するのは良くないだろうと気をきかせて。
「それじゃあね、ザウディンダルくん」
「じゃあね、ザウディンダルちゃん」
二人はザウディンダルの頭を撫でて玄関へと向かった。
「デウデシオン兄さん。なにかあったら、いつでも言って下さい」
「そうですよ。今回のように早めに言ってもらえたら、私たちだって対処できるんです。泥沼化する前になんでも言って下さい」
デウデシオンの離婚騒動は、弟たちにも深い傷を残した。
「……」
デウデシオン自身、悪いとは思っている。だが悪いと思っている理由が弟たちを巻き込んだことであって、早めに助けを求めなかったことではない。
そこら辺が弟たちとデウデシオンの溝というか、考えの違いでもある。
「なにも出来ないとお思いですね! このシャムシャント! 洋服からガンダムのパイロットまで、なんでもコーディネートしますよ!」
「……」
「私だって! このアウロハニア! オーケストラの指揮から、旅行の添乗員! 果ては完全犯罪まで! なんでもコンダクターですよ!」
「頼むから帰ってくれ……」
弟たちがデウデシオンに向ける愛は、いつだって痛みが伴う。
※ ※ ※
ザウディンダルが眠った後、月明かりが差し込む部屋でリコーダーを掴んだデウデシオン。
「……」
彼がなにをしたのかは書かないが《変な魔法をかけてしまった相手の状況を確認、できたら会話して事態を打開……》という考えでやってきた、月の使者の背後を守る、翼の生えている保護使徒ラードルストルバイアがなにもせずに去ったあたりに、なにをしたのかが解るというものだ。
「やば……。一人の人間を変態にしちまった! シャロセルテにばれたら殺される。うわあ、家に帰れねえ」
変態にしてしまったのか? 元々変態だったのか? 定かではない。月明かりだって知らない。
そして家に帰ることができなくなった使徒ラードルストルバイア。彼の行く末はいかに……