「値段を考えたら、満足できるね」
「そうだな」
「料理の話ばかりしていても駄目だね。なにから話そうか?」
「娘ではないようだが?」
「グラディウスのことかね。あの子はねえ……」
ラインタイムに異空間を作り出している二人は、昼食を取りながら話合っていた。もちろん内容はグラディウスとザウディンダルのこと。
「……と言うわけで、預かっているのだよ」
隠している事ではないので、グラディウスの身の上をざっと説明した。
「預かりね。なるほど」
―― なぜマルティルディと?
引き取られるまでの経緯は解ったが、グラディウスがマルティルディと知り合った経緯までは語られなかった。
そこら辺はダグリオライゼが本能的に誤魔化した。下手にマルティルディのことを他者に話すのは、デウデシオンの離婚話に触れるのと同程度に危険である。
「ところで君のところにいる、ざうにゃんも」
「ザウディンダルだ」
「ざうにゃん駄目かね? 可愛いのに、ざうにゃん」
泣きながらの牛タン定食な夕食のあと、仲良くなった”ざうにゃん”の話を聞き、すっかりとダグリオライゼも”ざうにゃん”がすり込まれていたのだが、
「”もぎもぎ”が”ざうにゃん”言うのは良いが」
”ざうにゃん”の恋人は許さなかった。
「君はグラディウスのこともぎもぎ言うのに、私がざうにゃんは駄目なのかね」
「駄目だ」
デウデシオンは心の狭い男である。そのことを自分も大いに自覚している。ついでに嫉妬深いことも。目の前に居る男がエロ室長であることも知っている。
当人はむっつり室長だが、むっつりなので誰も触れない。
その後、二人を遊ばせる際の大雑把な取り決め、どの部屋に入ってはいけないか? などを話しあって店を後にした。
「今度は、私のほうからお誘いするよ。なに料理がいいかね?」
「そうだな」
しばらくの間、オフィス街のランチタイムにおやじ二人が向かい合う。
片方は普通にしていても憎しみが篭もっているような眼差しで、もう片方はいつも女性を視線で追っている状態で。
※ ※ ※
菓子だけでは物足りない気がしたので、土産になるかどうか解らないが、新しい掃除機を買った。
自動掃除機だ。
今まで使っていたのは、調子が悪くなることが多いからだ。
「ザウディンダル」
家に帰ると玄関には、見慣れない履き古されたスニーカーが。おそらくグラディウスの物だろう。
部屋の奥から、笑い声が聞こえてくる。
「帰ったぞ」
「お帰りデウデシオン!」
「おかえりなさい、デウデシオンさん」
「ただいま……」
思わず目を見張った。
二人が掃除機をかけていたからだ。掃除機をかけるのは驚くことではないのだが、ザウディンダルとグラディウスが掃除機のホースを左右から持ち、ふたり頬をくっつけて、タイミングを合わせて腕を動かしている。もちろん満面の笑みだ。
なんというか……可愛い。
「二人とも、土産のケーキだ。食べるといい」
「デウデシオンからのお土産! もぎもぎも食べていんだよね!」
「ああ」
「ありがと! デウデシオンさん!」
ケーキの入った箱を持ってリビングへと向かうザウディンダルと、掃除機を引っ張てゆくグラディウス。私はもう一つの土産の自動掃除機を、いつも通り歳暮などを積んでいる部屋に置いた。
もう暫く掃除機は、あれで良さそうだ。
※ ※ ※
グラディウスの体面上保護者、実際はエロイことしているおっさんが、
「ただいま、グラディウス。おうちに帰ろうか」
「おっさん! 今日も帰ってきてくれたの!」
デウデシオンの家に迎えにやってきた。
「良かったな、グラディウス」
「うん! またね、ざうにゃん! デウデシオンさん」
二人を見送ると、デウデシオンは料理を作りはじめた。
ザウディンダルはキッチンスツールに”ちょこん”と座り、デウデシオンが料理をしている姿を黙って見つめている。
デウデシオンは料理の手際は良く、かなり上手い。
「お前の口にあうといいな」
「美味しいよ、デウデシオン」
クリームソースのパスタをフォークに巻き、息を吹きかけて冷まして、膝の上に乗せているザウディンダルの口に入れてやる。
”おいしい、おいしい”言っているザウディンダルを見ながら至福の時に浸っていると、管理人室から来客の連絡がはいった。
「……通せ」
二名の来客のうち、一名は呼んでいないのだが、帰れと言った所で帰るような相手ではないので通すことにした。
「誰? お客さん?」
「弟が二人」
「この前来た人?」
「違う。私は結構弟妹が多いのでな」
「へえ」