「デイヴィット。カミラが殿方を誘わなければならないとは、どういう意味だ?」
カミラ、皇后が隣の家に戻った直後襟首をつかまれて詰寄られてる。もう少し色っぽく詰寄られたいもんだが、そうも言ってられないか。
「あ……ちょっとなあ」
意外な所から意外な効果があったな。
やっぱり同年代とか、女友達とかが良い効果を出すんだろう……俺には思いつかない角度だ。
「両親が早くに亡くなった際に付けられた後見人が相手だって!」
そりゃ何だ?
「誰がそんな事を?」
「カミラ本人だ! 学内で話していたらしい。その手の噂は即座に流れる!」
そういう事。なる程ねえ……それは、それで良い様な。確かにその位しか説明できないな、あの二人の関係は。
「後見人と後見を受けている未成年者の関係は法律違反だ!」
「そうだったな……」
あ、そういう事ね。ちょっと外れてるけれど、この場合はそのままにしておくべきか。
実際はもう結婚している二人だからなぁ……
「そう言うなって。別にそういう関係じゃなくて、なんとも言えない難しい関係だから」
適当説得して、散々怒られて、ベッドの中で仲直りして、夜も更けた。
隣で寝ているファドルを見ながら、今後というか少しは近寄ってくださりそうな皇后陛下の態度、それを皇帝側が受け取らなければ意味がない。だが、あの皇帝だそう簡単にはいかないだろうし。
あちら側の協力者か。
でもな、皇帝はグラショウ以外は殆ど嫌っているというか信用していない。グラショウだって何処まで信用されているか解かったもんじゃないし、猜疑心の強さはこの国一であるから。生まれってか、その自分の出自の云々と状況から言ってもそうなるんだろうが。
で、グラショウに協力を依頼できるか? となるとこれは無理に近い。
あの猜疑心と警戒心の強い皇帝が、それなりに信頼している相手だ。こちら側の思惑なんぞ、全く理解してくれない可能性の方が高い。
「どうしたモンかねえ……?」
窓の外に何か良くない気配を感じて、壁に身体を貼り付ける。カーテンの隙間からのぞくと、人口月の明かりの下で三名……歩き方からいって地上部隊所属のヤツラが此方を見張っていた。
地上部隊ってのは、治安維持部隊の一つだ。グラショウ参事官直轄部隊で、思想犯なんかも捕らえる……。だが、グラショウ参事官が自分の判断だけでこの部隊を動かす事は先ずない、となると……
「弟大公の動きか、アーロンの出方を探って此処まで来たとなると……こちら側から手を打たないと危険だな」
ファドルが。
翌朝、俺は嫌がるファドルを市民大学に送って行った後、屋敷に戻って宮殿に上がる準備を整えた。
「マズイのが来る可能性がある、気をつけろリガルド」
「何でしょうか?」
「お前の御友達が動いた。動かしたのはかつての男爵様だ、気をつけろ」
「ばれたんですか?!」
「さあな? 行って来る!」
宮殿に到着して、即座に皇后の館を訪問する。後から付いてきた衛兵達が気になる……大体は見当つくが、
「皇后陛下、おはようございます。お話に参りました」
「よろしいですわよ、お入りなさい」
皇后は館にいる時は全身を覆うヴェールを被っているから、普通のヤツには姿は見えない。此処に来る前は普通の格好してたんだが、最近は注意してそうしているらしい。
俺が室内に足を踏みいれると案の定、衛兵の一人が口を開いた
「失礼ですが、皇后陛下。私も同席させていただきます」
結構な威圧的な喋り方だ……が
「帰りなさい」
皇后も負けちゃいない。
「陛下からの勅命であります」
「何を勘違いしてるのかしら。皇后に勅命を下せるのは皇帝陛下のみですが、それは皇帝陛下自ら皇后に対して命じられた時のみと決まっているでしょう。貴方達が私に対して皇帝陛下の勅命を語るなど、身分をわきまえて、立場を考え法典を鑑みなさい。ダンドローバー公、この者達を捕らえなさい」
ただの館にいるだけのお姫様と思ってたら、大間違いだ。二年前ならいざ知らず、今のこの人は結構な人だぞ。
「畏まりました。皇后陛下自らのご命令とあらば、ダンドローバーも逆らえませぬ」
皇后に口を効いた衛兵の腕を掴んで引き出し、グラショウの元へと向かう。
「という訳だ。まさか参事官ともあろう方がこの事態を知らなかったとは」
「……失礼した、ダンドローバー公。信じてもらえるとは思いませんが、私はそのような事は命じてはいません。この者達の独断です」
でしょうな。アンタは皇后に対しては規律正しく接してるし、二人が仲良くなるように心を砕いてるから……よしっ! 賭けにでるか。
「お忙しいでしょうが、私と共に皇后陛下の元は出向きましょう。即座に謝罪なされば皇后陛下も許してくださるはずです。私も及ばずながら口添えさせていただきますよ」
俺の顔を凝視して、グラショウは頷いた。