「ちょっと出かけてくる。大人しくしていろ、ザウディンダル」
俺を拾ってくれた人はデウデシオンという。
デウデシオンに拾われる前は覚えていないな。寒いよ、寒いよと思いながら、必死に誰かを捜して、デウデシオンがいた。
デウデシオンは不機嫌そうな表情ばかりしているけれど、優しい。
「おまえ、掃除機好きなのか? 変わった猫だな」
「みぃ〜 みぃ〜(デウデシオンも好きだよ)」
「片付けないから、好きなだけ遊べ」
話が通じないのがちょっと……いやかなり悲しい。
人間だったら良かったのになあ。
デウデシオンは近所の”こんびに”に買い物だって。早く帰ってこないかなあ。
玄関で待っていたけれども、寂しくなってきたので部屋に戻った。大きな窓に”月だ。月。日々形が変わって見えるものだ”デウデシオンが月と教えてくれた、青白くて丸いものが浮かんでいた……
「みぃ〜(あれ? 人?)」
ベランダに人の手が? 誰だろう。
現れた人物は、月を背負っていて顔がよく見えなかった。そして窓を開けて、
「えーとだな、余は月の死者……ではなく月の使者シュスタークだ」
またベランダの手すりに戻って立って、声を上げた。
「……」
なんか、変わっている人みたいだ。
「この姿は仮の姿なので……それはともかく、お前の望みは聞いた! 人になりたいのであろう?」
「みぃ?(そんな事、言ったっけ?)」
「話が通じないで悲しんでおったであろう? 話が通じるためには、人間にならねばならない。その望みを叶えてしんぜよう!」
そう言いながら、月の使者シュスタークは手すりの上で”くるん”と回った。ところで……
「うぉああああああ!」
足を滑らせて落下していった……!
どうしよう! と思って、ベランダに近付こうとしたら転んだ。
「あれ? 手がデウデシオンと同じ」
本当に人間に……って! 月の使者シュスターク!
「ぶぉけ天然がああああ!」
大声が響いて、窓の外を大きな鳥が急降下していった。そして……
「驚かせて済まなかったな」
「いいや……」
月の使者シュスタークを抱えて飛んでいる人がいた。鳥かと思ったんだけど、羽の生えてる人間らしい。
「苦労をかけるな、ラードルストルバイア」
「うるせえ。戻るぞ」
「まて、ラードルストルバイア! 説明が」
「説明しねえで変身……それも半端じゃねえか! おい、隠れてろ。なんて酷いことに。シャロセルテに一度解いて貰わねえと……」
二人は月に消えていった。
「なんだったんだろう」
呆気に取られていたけれど、
「あ、玄関から音が!」
デウデシオンが帰ってきた! と急いで玄関へとむかった。
歩きづらいし動きづらいけど、必死に!
「しつこいと言っているのが解らんのか、タバイ」
「ですがね」
「お帰り! デウデシオン!」