私にキャリーを渡した獣医(爬虫類専門)は診察室へと戻り、入れ替わり先日会った女の獣医が出て来た。
再度私はソファーに座り、女も向かい側に座って受け付けに指示を出す。
紅茶と茶請けが運ばれてきて、パンフレットが並べられて、必要なものを次々と勧めてくる。やり手の女だ……と感じた。
勧めてくるが引くところは”さっ”と引いて、押しつけがましくなく、こちらを不安にするほどだ。
「パスパーダさん、ご家族は」
「必要あるのか?」
「ありますよ。この子は三時間おきにミルクを与える必要があるので。パスパーダさん、お仕事なさってますよね。日中面倒を見てくれる方がいない場合は、当病院の子猫保育園に預けることもできます。日払いでもいいですが、一ヶ月単位の方がお得ですよ。夜間保育もしていますけれども料金は割高でからお勧めはしません。それと長期休暇も夜間も、月単位や年単位で契約している方を優先しますから、一年契約を結ぶかたも多いですわ。こう言っては失礼ですが動物は寿命のこともあるので、一年単位ですけれどもね。そして間が明いたとしても合計で五年契約して下さった方には、ペット可のリゾートホテル二泊三日無料チケットを差し上げておりますの。もちろん戸籍上の家族全員ご招待。旅行に興味のない方には、その分の金額を積み立ててペットの医療費に回すことも可能ですの。特約はこちらに書いてますわよ。どこぞの悪徳商法とは違うので、規約なども大きな文字でかいているために、厚みはありますが」
「……」
専用ミルクとほ乳瓶、キャリーケースとベッド。あとはトイレと砂も買い、車に積み込んだ。
「では明日から。お名前は早めに決めてくださいね」
一人暮らしなので、日中保育も半年分で申し込んだ。
女は名刺を差し出し、それを受け取り車に乗り込む。
女の名はナサニエルパウダ。ペットクリニックの社長……獣医ではなかったようだ。そして封筒をよく見るとロヴィニア商会……あの強突張りで有名な……そうか。
「……」
鳴いていた子猫は疲れ切って眠ってしまった。
私は部屋へと連れて行き、シャワーを浴びる。
食事をしていると子猫が目を覚まして、空腹を訴えてきた……ように感じたので、ミルクを作り抱いて口に放り込む。
子猫がミルクを飲んでいる顔が……
「名前をどうしようか……解らないだろうが、私の名前はデウデシオンだ」
※ ※ ※
「みぃ〜 みぃ〜(デウデシオン、一緒に寝たいよ)」
「……」
「みぃ〜 みぃ〜(一緒に寝たいよ。寒いよ)」
「……」
「みぃ〜 みぃ〜(デウデシオン、デウデシオン)」
「お前のベッドはそっちだ!」
ベッドに昇ってこようと飛び付いては、落下して……ぷるぷると震えている。
「みぃ〜 みぃ〜(寂しいよ。一緒にいてよ)」
「……」
結局私は根負けして、
「潰れても知らんからな」
枕に乗せた。これで潰れても知らん。
「みぃ! みい!(暖かい! デウデシオンの香りがする)」
「早く寝ろ……」
名前はどうしたものか?