PASTORAL −52
「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」
ふむ……生きているようです。
むっくりと身体を起こして
「どれ程意識を失っていましたか? そこの医師」
「はい、此処に運ばれてから二時間程です」
そうですか、体の関節をグリグリと動かして私は立ち上がりました。所で何故私は宇宙船の治療室ではなく、彼等に与えた医療設備船で治療されているのでしょうね?
「大公殿下の奥様が、此方で……持ってきた設備が確りと稼動するか確認しなさいと……」
なる程、姫らしいですね。確かに持ってきた私自身で調べる程、確実な事はありません。
そういえば……
「貴方は元は中央の医師だったそうですね、キャセリア」
「はい」
「何故中央の医師を辞めたのか、二百字・三分以内で語りなさい」
「は?」
「今のを二字としてカウントしても良いのですか?」
「ちょっと待ってください! あ、あの……」
中央の医師でありながらも何か不満な点でもあるのでしたら、それも改善しなくてはなりませんからね。
キャセリアは二分三十秒ほどでまとめて語り始めました。
「妻が上司の娘で、彼女と合わないのが苦痛で病院を辞めました。臆面もなく言えば、自分自身を愛してくれているなら、地位を捨てても付いてきてくれるのではないかと思ったのですが、そんな事もなく彼女とは離婚して私は一人で此処に来たのです」
112文字ですね、許可しましょう。内容は許可できませんが
「貴方、バカですか? むしろヴァカ?」
こういうヤツに限って、こういう事いうんですよ。どういうヤツかって?
「貴方、ご自分がソレほどいい男だと思ってらっしゃりやがるんですか? 私ですら皇子という地位と辺境相という地位がなければ、唯のちょっと顔が良く、人より頭が良いだけの人間になりさがるんですよ。貴方なんて、病院勤めしてなければ、ただの医師です。大体、貴方地位とか名誉を嫌う女性がステキとおもってらっしゃるようですが、我が姫は地位とか名誉を重んじる方ですよ、それだけでも失礼だと思いませんか。いいえ、失礼です。私が明言します、そんな事を考える人は我が姫に対して失礼です。姫は強い男性もお好みでいらっしゃいますが、なによりも皇帝という地位にある方が好きなのです。それは銀河帝国において当然でしょう! それに、貴方本当にその妻をご自分から愛していらっしゃいましたか? よくいるんですよね、自分から愛さないで相手が“自分の事を見ていない”とかほざく人。私の立場で解りやすく言いますと“私を王としか見ていない”とか言う人、ヴァカですねそんな事いう王様。王は王なんですよ、ええ? 兄上、我が兄上サフォント帝は正妃がサフォント帝を“皇帝”としか見ていなくても平気な方です。なぜなら、“皇帝”というのもサフォントの一部であり、ソレだけを愛しているとしてもサフォントを愛していないという事にはならないのですから。それにですね……」
以下長いので省略いたします
「まあ、私も言い過ぎました。そして貴方が其処まで言うなら、貴方の決意を見せていただきましょう」
パニック状態に陥っているキャセリア医師、貴方がそこまで言うのなら
「我が兄・クロトハウセの愛人になられなさい。貴方がクロトハウセを大公という立場以外で愛せたなら、私は貴方を認めましょう!」
「何でそんな……話……に。認めなくて……いいで、す」
「だって貴方、地位とか名誉とか気にしないで自分だけを愛して欲しいんでしょ。だから、相手に対しても同じ態度を取りなさい、いや取れる自信があるから貴方は妻と別れたのでしょう! さあ! 陛下の結婚式の際に連行させていただきますから、引継ぎを終えておきなさい。それでは!」
何か話の主体はずれてしまいましたが、まあ良いでしょう。
「姫! お待たせいたしました」
医療艇から駆けて、楽しそうにお話している姫に駆け寄ります。私の顔をチラリとみて、頬を赤くして膨らませて横を向いて
「何、四時間も寝てるのよ! 心配するところだったじゃないの! 川に落ちたくらいで気を失うし、全く! サフォント陛下の名を汚すわよ!」
普通あの落差と濁流だと気を失うと思うんですが……姫は気を失われていなかったようですし
「申し訳ございませんでした」
どうやったらその耐性が着くのかは、私には解りませんけれども努力はいたします。
「お話楽しかったですか?」
「楽しかったわ。そう、彼女と夫のランチャーニは陛下の結婚式に連れて行くから、帝星に戻る際にコッチを通ってね」
「はい。ロガ兄上様も喜ぶでしょう」
その際にキャセリア医師も連れて行きましょう! 待っててね兄さん! 愛人連れて帰るから! 連れて帰って来いって言われた記憶はないんですが!
*************
ふ〜んだ……まだ、意識失ってるのかしら? ルライデったら。
ちょっとひ弱過ぎない? ひ弱過ぎるわよね! 私のお父様……ま、リスカートーフォン出身だけど、もっと強いわよ。
別にね、強いだけの人が好きなんじゃないわよ。
私の初恋は当然陛下。
お目通りしたのは五歳の時、陛下は当時皇太子で十四歳、皇太子妃もいたけれど……お妃になりたかったの! 王族の憧れなんだから、陛下のお妃になるのは!
あの真赤な髪、水晶くらい簡単に噛み砕けるに違いない顎、機動装甲の外装を容易に陥没させられる拳、どれをとっても素敵でうっとりしちゃう! 私の周囲にはこんな素敵な男性いなかったし。
絶対にお妃になろうと思ったのは十二歳の頃。
陛下とゼンガルセンが模擬戦闘しているお姿を観て……私、強いだけの人が好きなんじゃないからね!
ゼンガルセンったら、陛下の両手を切り落とすようなマネしたのよ! でもね、陛下は取り乱すわけでもなく口で剣をくわえてゼンガルセンの片足切り落として、腹掻っ捌いてらっしゃった……その神々しいお姿と言ったら。その時私、この方に一生付いていこうと心に決めたのよ!(ゼンガルセンは内臓はみだしていました)
それで我儘言って皇后に……なれなかったんだけど。
お母様もお父様も『ルライデ大公なら婿に貰ってあげるから、帰っておいで』って……クロトハウセ大公の方が強くて良かったなあ……最初そう思った。
だってさ、私結婚したら毎朝100本試合とかするの楽しみにしてたのに。クロトハウセ大公なら、勝負になるけどあのルライデじゃあ……。カルミラーゼン大公も口から毒霧吐いて、寸鉄隠し持って、電気鞭振り回すような人だから、少しは勝負になるだろうけど、よりによってルライデ大公よ?
どれだけ殴っても笑って後付いてきて……三人の中で顔が陛下に一番似てるのよね、ルライデって。陛下に似ているんだから、へらへら笑わないで欲しいのよ!
陛下のお顔を崩しているみたいで、許せないのよ! 陛下のお顔は笑顔じゃなくて、鬼気迫るお顔一番素敵なんだから! 近衛兵団で手合わせしていただいた時の表情といったら! あの鬼気迫る表情、神々しいとしか表現できないわ。
私、そのお顔に見とれて弾き飛ばされちゃったくらい。
ルライデも、あれでもうちょっと強かったら、許せたけど……お顔が陛下に似ている分、悔しいのよねえ。ま、打たれ強いのは認めるけど……それは認めてあげるわよ。
……強さ以外はどんな我儘言っても聞いてくれるし、お顔の陛下に似ているから好みだけど…………嫌いだったら、あの時助けなければ良かったんだから……好きなのかなあ
「お姫様、ありがとうございました」
「礼なんて必要ないわよ。当然の事をしたまでなんだから、貴方達も頑張って開拓しなさい」
「はい、頑張ります」
いい子よね(私より年上だけど)
それで話してたら
「姫! お待たせいたしました」
いつも通り笑いながらルライデが戻ってきたわ。
私とルライデは此処での仕事を終えて帰宅する事に。
「此処からならバステス館のある惑星よりも、貴方が仕事している惑星の方が近いから、そっちに先に向かってもいいわよ。そこで少し休養しようと考えてるし」
「宜しいのですか? 姫。何もありませんし屋敷も増築していませんよ」
「この私が一緒に行ってあげるって言ってるのに、文句でもあるの!」
「いいえ、嬉しい限りです。嬉しさついでにお願いしてもよろしいでしょうか?」
「何よ?」
耳元に口を近付けてきて、ポソリと
『姫と共寝したいのですが』
共寝? …………男女が一緒に寝ることよね。寝るっても、ただ寝るだけじゃなくて……あんな事やそんな事を……
「もうっ! 恥ずかしい事言わないでよ!」
ちょっと力加減間違って、ルライデを吹っ飛ばしたらボキボキって言ってた。これだから体がひ弱な人は……でもまあ、こんなひ弱は男は私が守ってあげないと駄目かもね。
「ちょっと! ルライデ! 意識失ってるんじゃないわよ!」
地面に半分埋まったルライデを引っこ抜いて抱きかかえて、
「それじゃ、ちゃんと準備しておいておきなさいよ」
そうやって私は船に乗り込んだ。地上から船に向かって手を振る民達の笑顔を見つつ、殴られて意識を失っているのに薄ら笑いを浮かべているルライデを見比べつつ。
「早く目覚ましなさいよ! ルライデ!」
陛下のお妃になれなかったのは残念だったけど、陛下の弟君を一生懸命守らせていただくわ。だって、殴られて意識失いつつ笑ってる人なんて放置しておけないもの!
「早く起きなさい! ルライデ」
ペチペチ頬を殴って、起きたら……仕方ないから同衾……して……あげましょ……もう、恥ずかしいわね! ボギッィ!
「姫様! 大公殿下の頬骨が折れましたよ!」
ちょっと力が入り過ぎちゃった。
「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−ツンデレ王女と飛ぶ皇子(デレがない)」−終−
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銀河帝国第59代皇帝の御世
「リケさんはアルカルターヴァのエンパル星域出身ですよね」
後のシュステルト大公(皇君)はある男に尋ねた。
「そうだ。エンパル星域のルライデ星の出身」
「俺の同期に、そっち方面出身の男がいるんですけれど……あの辺りって“姫抱き”の意味が違いません? 普通は『お姫様のように抱える』だと思うんですけど、あの辺りから来た人は『お姫様が男を抱きかかえる』って意味で使うような」
そう言われたリケという男は頷いて
「デルドライダハネ王殿下とルライデ王婿殿下、あの二人がルライデ星に館を建てて休暇を楽しんでいたのが原因だ。休暇に来た王婿殿下はいっつも王殿下に抱きかかえられてたんで、それを見ていた村人達が何時の頃からか「姫抱き」ってこういうもんなんだろう、って勘違いしたんだってさ。その頃はまだ王殿下は王女だったそうだ。斯く言う俺も、姫抱きで今のアルカルターヴァ当主に助けられたクチだぜ」
「ニヴェローネス閣下にですか」
ニヴェローネスも女性である
用事で立去ったリケを見送った後、シュステルトは側近に尋ねた。
「アルカルターヴァはお強い姫君が多いんだね」
「デルドライダハネ王はかなりのお方だったはずです。公式記録でルライデ王婿殿下は、眼底骨折12回、頭部近辺骨折15回、肋骨全損、背骨骨折7回、骨盤骨折2回、両腕・両足あわせて49回の骨折という記録が残ってらっしゃいます。勿論骨折させた相手はデルドライダハネ王です」
無駄な知識が豊富な側近は、サラリと答えた。
「…………すごいですね。でも公式記録って?」
「ルライデ王婿殿下のほうが先に亡くなられたのですが、それに怒ったデルドライダハネ王が最後に一撃食らわせて」
『もう! 何で先に死んじゃうのよ! ルライデのバカァァ!!』
「……仲、良かったんですね」
宙に舞って床に叩きつけられた遺体は、死後骨折を幾つかしたようだが
「良かったようですよ。微笑を浮かべてたそうですから、ご遺体も」
まあ、飛ぶ皇子ですから。
Second season:第一幕に続く
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