PASTORAL −51
「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」
出発前に……祝宴となった。
俺は乗ってきた船の落下地点に酒を持っていって注いだ後、戻ってきたら……既に宴たけなわとなっていた。まあ、浮かれて喜んでる姿を観るのは悪くない。五人の逃亡者が気になるが、残念ながら追いかけて殺している時間がないのが心残りだ。
「あ、ありがとうございました……でいいでしょうか、皇子様」
「どういたしまして。でもまだ五人程いるから気をつけてくれ、カルミニュアル」
宴たけなわなんだけど、色っぽさが全く無いのは女気がないから……娘が殆どサダルカンに……。俺が押し入った際に何人かは生きてて、拘束を外して逃げるように指示を出してラウデやサンティリアスに任せた。その後俺は逃げてバラバラになったのを一人一人追ってたんだが。
二人が守りながら逃げる途中、女の子が一人村に帰る前に身体を洗いたいって言い出して……
「トコヤマと一緒に居るから大丈夫ですよ!」
サンティリアスは良いよ、って言ったんだがラウデは拒否した。結局怒ってサンティリアスが独断で、女の子達に身体を洗っておいでと自由にさせちゃったんだってさ。
「そうだね、ランチャーニも居るし」
狭い村だし、好きな男もいただろう、夫が居た人もいた。結果、助けた全員首括ってた……そうなる事は解かってたし、ラウデも解かってたんだが。ただ、サンティリアスも悪くは無い。あの状態で村に連れて帰ってくるのは、あまりだっただろう。
「え、ええ。まあ、あの人あの通りだから、付いていてあげないと」
この種の事件を解決した後の後味の悪さは、何時もの事だけどさ。ラウデとサンティリアスは、明日の準備があるからって祝宴には出ていない。
俺の方が若干、神経が図太いんだろうね。
「そうだね。結婚式は何時頃挙げるの?」
「そっ! そんな話は!」
「ドレス届けるから。着て幸せになってね」
貴方が幸せになってくれる事が、私達の幸せに繋がるから幸せになって欲しいのさ。
それで、酔ってドロドロになりかかってる村人達をトコヤマさんと(何故か“さん”付けしたくなる)遠巻きに見ていた。そのうち、トコヤマさんは一鳴きして去っていった。カルミニュアルが居るテントに向かったらしい。黙ってみていると、ランチャーニが此方の向かって歩いてきた。
「ありがとうございます」
「全然、何もしてませんよ。貴方のように、御自身の信念を曲げてるわけでもありませんし」
「……敵わないなあ」
別にそれ程難しい事でもありませんが。
破壊の化身でもある、機動装甲を嫌うランチャーニが、トコヤマ“さん”という戦闘系の羊を作成した。そのトコヤマ“さん”はカルミニュアルがテントに戻れば番犬のように戻ってゆく。破壊兵器、戦闘兵器を嫌っている男が、自分で守れないから信念を曲げてまで作った羊。
「貴方くらい強ければ、トコヤマさんをあんな事にしなかった……やっぱり人間ってダメですねえ」
「私はそれ程強くはありませんよ。トコヤマさんは貴方の事を好きだと思いますよ」
俺は追いまわされたけどさ……何故だ? トコヤマさん……。
「ありがとうございます」
「ドレスが届かなくても結婚してあげてくださいね」
無事帝星に戻って、陛下に言上して意見が通れば……そうじゃなけりゃ、俺と繋がってたってだけで殺されちゃうからなあ。
「無事に届くのを待ってます。殿下もご無事で」
「ありがとう」
幸せになってほしいと思うわけだ、結婚して。……俺は失敗したけどさ、結婚……いや、それは良いんだけど。
その後の俺はというと、
「申し訳ございません」
浮かれて酒を飲みすぎた村人達をテントの中にしまう手伝いをしていた。
全員をしまい終わった後、キャセリア医師に頭を下げられて。まあ、浮かれるのは今日だけだから仕方ない、まだ逃走した五人程のならず者がいるので、明日から自警団を組んで再びそれなりに緊張した生活をおくらなければならないから。
今日は俺が寝ずの番だ。
その位はしてもいい。
見慣れない星空を見上げて、早くここ一帯の星図が出来上がればいいなあ、そう考えながらホットミルクを飲んでた。……乳は羊だけどね(トコヤマさんから採れたのではない)
「ガラテアの皇子」
「キャセリアか。どうかしたのか?」
偉そうな喋り方だけど、身分知られてる俺が低姿勢なのも相手にとっちゃあ困る事らしいから。若輩ものだろうが、異母弟だろうが皇帝陛下の血縁だからさ。
「明日の午前中に出発できるそうです。それをお伝えに上がりました」
「どうも。キャセリアも寝たほうがいいだろ。見張りは俺一人で充分だよ、夜目も利くから」
シュスターヌとかは夜目が利くんだ。暗視ゴーグルなしでも、日中と同じように見えて動ける。これ程星空が綺麗だったら、全く問題なく敵を見つけられる。
「はい、ありがとうございます」
少し無言が続いた後、語りだしちゃったんだなキャセリアが。
キャセリアは病院の教授の一人娘と結婚したんだってさ、俺と同じで政略結婚ね。
気位の高い妻とソリが合わなかったらしい、そこら辺も俺と似ている。こういう境遇のヤツなんて、はいて捨てるほどいるだろうからさ。
それで、気位の高い妻との生活に疲れてある日病院を辞めて、辺境に行くと妻に告げたらしい。妻は烈火のごとく怒って、そんな所に行くなら離婚しろ! と言ったそうで……で離婚してこの開拓惑星群に来たんだってさ。
ラウデは帝星時代の知り合いで、その妻が別の男と再婚したってのを教えに来てくれたんだそうだ……別に教えて貰わなくても……必要ないような。俺だったら必要ないと思うけど、この人には必要だったんだろうな。
こんな状況で慰めるってか、キャセリアよりも人生失敗している俺が慰めの言葉を口にしても笑えるだけなので
「まあ、離婚して一人で来て良かったじゃないですか。サダルカン達が来た時に彼女がいたら、大変な事になってたでしょう」
奥さん、先見の明があったとかそういう類じゃないか?
教授の娘(平民だったらしいけど)が何もないこんな場所で、水汲んで薪割って革なめして……なんて生活できっこないと思う。
俺が普通の貴族から突然皇子になった以上に苦労するんじゃないかな? その後帝星の話……っても、二年前くらいしか知らないが、帝星の話をして翌日俺は村人に頭を下げて775星を後にした。
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