PASTORAL −191
カウタマロリオオレトがエバカインに報告していなかった事を知り、青くなったのはこの人。
「嗚呼! 兄上! 申し訳ございません」
カルミラーゼン親王大公。
問いただした際に、カウタマロリオオレトの報告を信用してしまった事が発端。
カルミラーゼンは殆ど失態のない男だが、エバカインのこととなると失態の多い男であった。後に人類史の最高支配者と呼ばれるようになる皇帝を完全なる変態とし、冷酷にして仕事は完遂する男に熱い大失態させてしまう脅威の男・エバカイン。
そういった意味では皇帝の傍においておかなければ危険な男なのであろう。
「お前の責任ではない。それほど気を落とすな」
ただ、兄である皇帝は弟であるカルミラーゼンの失態を許していた。
むしろ “面白い” とすら思ってしまったほど。皇帝の度量の広さというか、適当さというか。ただこの位の器の大きさが無ければ、全人類統一国家の頂点に皇帝として君臨するのは不可能であろう。
「いいえ、全くもう……あのバカに慣れてしまっていた私の失態です。ここで腹を切って、自前の腸で二重跳びをして侘びを!」
腰からナイフを取り出し、諸肌を脱ぎ始めた。
その手首を確りと握りしめ、
「要らぬ。内臓は大事にしろ。お前にはこれからクリミトリアルトとの間に子を儲けるという責務を背負っておるのだ。内臓跳びで要らぬダメージを負って良い身ではない。最早お前はただの親王大公ではない。国王となる身だ、自重することも覚えよ」
諭してるのか、何なのか? そもそも内臓縄跳びは自重で済む問題なのか? なんにしても、皇帝は非常に微妙で曖昧な言葉でカルミラーゼンの行動を制した。
この先「ケシュマリスタ王」に即位し、王妃と共に子孫繁栄させねばならぬ男が、腹掻っ捌いて腸で二重跳びなどをしては一大事。
その前に、取り出した内臓で二重跳びが出来るのか否か? それは皇帝しか知らぬところであろう。
「申し訳御座いませんでした!」
ナイフを戻したのを確認し、皇帝は手首の拘束を外す。
それを受けて、カルミラーゼンは膝を突いて頭を下げる。
「後は、エバカインの代わりに儀礼をこなせ」
「御意」
皇帝の言葉を受け、失態を取り戻す為にカルミラーゼンは指示されなくても代わりにやろうとしていたエバカインと他のお妃達の顔合わせの代理へと向かった。
その後姿を見送った後、
「クリミトリアルトよ」
皇帝は妃として夫の失態を共に侘びにきていたクリミトリアルトに声をかけた。
「はい、陛下」
カルミラーゼンは最初の妃ではなく、二人目の妃クリミトリアルトを「王妃」に選んだ。
それは、現時点ではほぼ壊滅的な状態となっているケシュマリスタ族を増やす為に、多産で名高いロヴィニア王女を「王妃」にすることにした。王は一人しか配偶者を得る事ができないので、最初の妃バタニアルハスとは離婚となった。
皇帝の命令による離婚の為、バタニアルハスにはそれ相応の別の大公が夫として与えられた。
「少々、逸脱する事もあるが基本は冷酷な男だ。情細やかな夫婦生活などにはならぬだろうが、浮気などはせぬ男だ。その点だけで、他の欠点に目を瞑れ。そして、王と王妃としてケシュマリスタを統治せよ」
「御意」
「だが、どうしても我慢ならぬことがあらば余に告げよ。全てを聞き入れてやるとは言わぬが、カルミラーゼンに非があるのであらば余が叱責する、兄としてな」
「ありがたきお言葉。それを心の支えにして王妃としての責務を果たして参ります。そしてもう一つ望みがあります」
「何だ、申してみよ」
「このクリミトリアルトに落ち度がありましたら、叱責いただきたい。欠点を指摘し、注意してくれる者はいませんので」
「解った」
そんなカルミラーゼン親王大公視点によるエバカインの初夜検分
お兄ちゃんは嬉しくてたまらないよ、エバカイン!
エバカインをケシュマリスタ属に加えられないのは残念だが、その恨みは決して忘れない! そう、ゼンガルセンに対する恨み途切れないようにしてくれたんだね、エバカイン!
お前は本当にいい子だよ! 兄は絶対にゼンガルセンに対する恨みは忘れないよ! お前を取られたこの恨み ハ ラ サ ズ ニ ハ イ ラ レ ヌ ワ!
それにしてもマリアヴェールを握って、桜色に染まっている頬を隠す姿など、可愛らしくて仕方ない。
お前は本当にお兄ちゃんの自慢の息子だ! 兄の息子というのはおかしいかも知れないが、それが私の真実の気持ちだ。
はあ……王になるのはケシュマリスタに生まれたものとしての使命であり、王の座に魅力を感じないわけではない。むしろ、王となり政治をとるのは楽しみだが……だが! お前と兄上を宮殿に残して去ってゆくのは寂しくもあり、不安でもある。
兄上を受け入れる時の、その押し殺した可愛らしい声!
そんな可愛らしいエバカインが、この先一人で帝后や皇妃と渡り合わなければならないのかと思うと、不安でたまらない。
嗚呼、出来る事なら一生宮殿にいてエバカインを守ってやりたいのだが、それも王とならねばならぬこの身では叶わぬこと。しーくしくしく、お前がお前が、あの―――――達にいじめられるかと思うと、お兄ちゃんは! お兄ちゃんは!
ぶっ殺してぇ……
とにかく、心配性的恨み節であった。
****************
ルライデに「はい! クロトハウセ兄さん!」と贈り物にされた下級貴族の医師・キャセリア。
人権とか人格とかそういったモノは階級の前に霧散すること、キャセリアは良く知っている。最早諦めて、黙ってベッドの上で “年下趣味の親王大公殿下なら、直ぐに飽きてしまうでしょう。もしかしたら、身体を見ただけで興味を失うかもしれないし” という一縷の望みをかけて黙っていた。
キャセリアは知らない。
クロトハウセは本来年上嗜好なのを。年上嗜好というか、カウタマロリオオレト嗜好なのを。
それでなくても仲の良い兄弟。大事な弟からの贈り物、それも敬愛し神聖視している兄上の知り合いとなれば、放置するはずも無く準備万端、やる気満々でキャセリアの傍に来た。
“やはり、やられるのか……”
そんな諦めを持って、だが上体を起こして挨拶をしようとした(ルライデに教えられた)キャセリアの視界に、とんでもないものが飛び込んでくる。
「……それは……」
自分は全裸、そして親王大公も全裸。その全裸の親王大公のソレ。
「ん? どうかしたのか、医者」
「そ、それは」
クロトハウセの身体の大きさから『相当大きい』ことは予想していたのだが、医学的見地と数々の診療をこなしてきた医師が『そりゃありえねえよ! 詐欺だよ! 自信のねえ男二人くらいに分けてやれよ!』と内心叫びたくなる程の「平常時サイズ」
「問題はない」
ムクムクと起き上がってくるそれに、キャセリアは恐怖を覚えて、
「問題です! 問題です! 由々しき問題です! それを受け入れるのは!」
最後の抵抗を試みた。
抵抗と言っても、ベッドから飛び降りて逃げようとするだけだが。その何処にも逃げ場のない逃走は、即座に阻止されてしまう。
全裸のクロトハウセによって。そのクロトハウセは、さらりと恐ろしい事を言ってのける。
「平気だ。お前よりも繊細なロガ兄上は、私よりも2.15倍の質量体積を誇られる皇帝陛下を受け入れてらっしゃるのだ、お前なら平気だろう。さあ、足開け」
全く相手を気遣わないその態度。
これぞ皇子といった風情で、ベッドにキャセリアを寝かせて身体を乗せる。クロトハウセにマウントポジションを取られたら、あのゼンガルセンでも逃げるのは困難。当然、キャセリアは動く事もできない。
「ちょ! ……親王大公殿下の2.15倍?」
触れてくる肌についつい『さすが皇族。お肌つやつやでスベスベで、尚且ついい香りでいらっしゃる』とか思ってしまったりもしたが、焦るには焦っている。そして、真実を聞き愕然とする。
「そう、私の2.15倍であらせられる」
キャセリアは銀河の絶対君主のお顔を思い浮かべた。
正直そう言われれば “それもアリかな?” と思ってしまえる、その迫力を思い出しついつい呆けているところに、クロトハウセの掛け声が。
「銀河帝国!!」
ご成婚式典で、あちらこちらで言われている単語についついキャセリアは反応してしまった。
「万歳!」
それが合図となり、キャセリアは効果音的には「どすっ!」という勢いで、それを受け入れた。直後、気を失ったのは医者として想定範囲内であっただろう。そういう事にしておいてあげよう。
そんな、勢いだけでついつい親王大公を受け入れてしまったキャセリア・アウディンゲル・アドータ・クルハヌリウム。だが、一年後に「大君主」となったカウタマロリオオレトがクロトハウセの元に来たことで、その「夜」の役目を終えることができた。
喜んでその役目を放棄したキャセリアだったが、クロトハウセとは縁が切れることはなかった。
キャセリアがエバカインと仲が良かったことと、大君主の主治医が亡くなった関係でカウタマロリオオレトの新しい主治医として任命されたのだ。元々、頭の良い医者だったので、色々な事を教えられ生涯宮殿で「王族」専用の医師として生きる事になった。
その他「国王」を辞したカウタマロリオオレトの新たな肩書きの一つ「開拓移民団医療基金理事長」
理事長の実質的な権限を与えられ開拓医療に携わることもでき、キャセリアとしては中々にやりがいのある人生となった。ちなみに学会で、別の男と再婚した妻と再会し、やり直したいと言われたが彼は無視して帰ってきた。
それは女が駄目になったわけではなく、“何となく。そして仕事が忙しいから”
大君主の主治医は、色々な意味で忙しかった。
クロトハウセ視点によるエバカインの初夜検分
「感動の涙と、神々しさのあまり前が見えません!!」
取り合えず、全く検分していなかった事だけは確かである。感動していたのは事実だろうが。
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キャセリアの人生を「終わりよければ全てよし!」に変えた、ルライデ視点によるエバカインの初夜検分
正直、男の人同士が性交する姿を見るのは初めてでございます!
このルライデ、しかと見届けて姫との夜の生活に活かさせていただこうと思う所存であります!
姫、待っててください!
えっと、それにしても陛下がロガ兄上のそこを扱いているのは、女性で言えば陰核。えーと、それを触りつつ……
「男と男」と「男と女」は根本的に違うのだが、それらに疎いルライデはかなり適当かつ、間違って覚えて帰っていった。
夫であるルライデがそんな事を考えているとは全く知らないデルドライダハネ王女は、式の最中に皇帝に謁見を求める。
「それが欲しいと申すか」
「はい」
デルドライダハネ王女は、サフォント帝にアムラゼイラ開拓惑星群を欲しいと申し出た。今の所、何の価値もないその惑星群を必ずや最高の「テルロバールノル王領」にしてみせると、力強く宣言する。
「では、その方面の開拓はリュキージュス公爵デルドライダハネ・エシュテーク=エシュテア・ルゾラオロティシアに一任しよう」
「ありがたき幸せ」
「それと、デルドライダハネよ」
「はい」
「ルライデのこと頼むぞ。盛大な王太子と “その婿” の結婚式に期待しておるぞ」
「はい! ありがとう御座います!」
こうしてルライデ親王大公は、次のテルロバールノル王の婿と定まり、王国で盛大な式を挙げた。
「姫! 姫!」
「どうかしたの?ルライデ」
玉座で久しぶりに母親であるサリエラサロ王と再会し、喧嘩をした事をデルドライダハネが謝って事態は解決をみる。
王女の父親である王婿は「いつの間にか謝れる、いい子になりました。親王大公殿下を夫に迎えて、王女も少し成長したのでしょう」と笑顔で感謝を述べた。
王女が誰よりも敬愛する皇帝より “いただいた” 弟親王大公は、笑顔で駆け寄ってきて、耳元でこう呟く。
「昨日、兄上と兄上の行為をつぶさに見て、確りと覚えましたので。さあ、姫! 今夜は後ろをっ!」
「ルライデのばかあぁぁ!」
この場合、ルライデをフォローできる人はあまりいないだろう。確かに王女の実父が言ったとおり、大人にはなっているが。
そんな成長著しい姫から頂いたパンチで空を舞いながら彼は思った。
『これが……K・O。即ち “これで” ・ “終わり” なんですね!』
もう二、三発くらい殴られても平気の様である。
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