飛び掛った意識なんて、直ぐに戻ってきた。
ゼンガルセン王子の顔にかかってる白濁している液。いや、そんなぼかし方は必要ないか! 王子の顔にモロにかかった俺の精液!!
お兄様、一体何をお考えなのですかぁぁぁ! あっ……お兄様、まだイってらっしゃらない。お、俺が下で動けばいいのか……
「チッ……」
ゼンガルセン王子が人を殺す目になった! 何時もだけど! 何時もだけど……舌なめずりしてお兄様に顔を近づけてくる。俺は仰向けになりながら、お兄様を受け入れたまま自分の精液を顔にかけちゃった王子を見上げる……この状況は一体?
「どうだ、ゼンガルセン」
お兄様は何事もなかったかのように、俺の中を行き来する。
「何がだ?」
話しかけているほうも、気にしない……ちょっとは気にしてぇぇぇ!
「あっ……」
こんな声上げてる場合じゃないって!
「エバカインの味だ。味など変えずとも、十分に美味であろう」
ひぃぃ! お兄様、そんな事をいわれる為に王子の顔に?
「ちっ! ただのザーメンだろうが」
言われたゼンガルセン王子は顎のあたりにこびり付いた俺の精液を、手の甲で拭って舌先で味わって……味なんて確認しないでも良いですって、ゼンガルセン王子。
「ほう? 他者のを味わった事あるのか? そなた」
「ありはしな……ちょっ! クロトハウセ、首をっ!」
突然ベッドにもう一人分の重量が。
見上げるしかできない俺の目に飛び込んできたのは、背後からゼンガルセン王子の首を “きめて” いるクロトハウセ。
ゼンガルセン王子の顎のラインに青筋立ってる……ほ、本気で締めてるよ、クロトハウセ!
「兄上! 兄上! 例え銀河帝国皇帝であってもやってはいけない事がございます! ロガ兄上の高貴な精液をゼンガルセンなどに掛けて、味あわさせてやるなど! このクロトハウセ許せません! 兄上! ゼンガルセンからロガ兄上の麗しい芳醇なる精液を吸い取ってくださいませぇぇ!!」
えーと……
お兄様にゆすぶられていて、俺は思考が……今だけは何も考えさせないでください。
「首、折れるわ! この馬鹿力!」
「解った、そのままでいるのだぞクロトハウセ。では吸い出すぞ、ゼンガルセン」
「待て! この馬鹿兄弟ぃぃ!!」
あ、お兄様のが中に……そして眼前では、首に青筋が立っているお兄様とゼンガルセン王子の噛み付くような、吸出し? を見上げるハメに……これ、3Pって言うのかなあ……なんか、身体が動かないよ……
「これはグロテスクですねえ」
ルライデの声が聞こえる。
「グロテスクには慣れている私でも、目を背けたくなるグロテスクさだよ」
カルミラーゼン兄上の声も聞こえる。
「カルミラーゼン兄上殿がそう言われるのですから、相当なグロテスクさですよねえ」
そして眼前ではまだ吸い上げてらっしゃる……
「エバカイン。こっちにおいで」
動けない俺をカルミラーゼン兄上とルライデが兄上から引き抜いて、ベッドから降ろしてくれた。ベッドの上では未だにお兄様とゼンガルセン王子の[口付けと言う名の戦い]……どう見ても両者共、噛み付いているようにしか……
俺にはどうにも出来ないようなので、お兄様を受け入れていたところを締めて、身体を洗ってこよう。
みんなの前でそこからお兄様の、それこそ高貴な精液を漏らしているのは都合が悪いので。
「かわいそうに、近くで見たから縮み上がってしまって」
「怖いですものねえ」
カルミラーゼン兄上とルライデが、グシャグシャになっていたマリアヴェールを直してくれている。
「ひゃあ!」
何かが俺の! 咄嗟に拳を構えたが、何だ? え? 股間の前に……何故、俺のそこを吸われているのですか! ケシュマリスタ王!
「何をしているのだ、カウタ」
ああ、吃驚して少し中身が出てしまった……恥ずかしいなあ……
カルミラーゼン兄上がケシュマリスタ王を引き剥がされると、
「みんなが一生懸命に舐めたり飲んでるから、美味しいのかと思って。少し残ってたから飲んでみた!」
「へ?」
えっと……ええ? 残ってましたか?
「で、味はどうだったのだ、カウタ?」
何故そのような事を聞かれるのですかお兄様! あっ! [口付けと言う名の戦い]は終わられましたか? それとも一時休戦ですか?
「トロピカァルジューシーフレンドリィーバァナナァー!」
えっと、それは……レモンだったりバナナだったり普通だったり……俺、身体から何出してんだろう? 何か不安になってきた。
「カウタ! お前は私のだけを咥えていれば良い!」
ゼンガルセン王子の拘束を解き、クロトハウセがベッドから降りてきて殿下の両肩を掴んでゆすりながら……す、好きなんだねえ。ごめん、何時もなら気付く筈なんだが、眼前で繰り広げられる壮絶なるアレに釘付けになってて。
「クロトハウセ兄さん、本音が出てますよ!」
ルライデに突っ込まれて、顔真っ赤にするクロトハウセ。……お、落ち着いてくれ。
「基! ばか者! カウタ! 貴様ロガ兄上のに……」
「クロトハウセよ。カウタを連れて来い。あれが吸った分も余が吸い出してやろうではないか」
お兄様! お兄様! さすがの俺でもお兄様がクロトハウセの事をからかっているのは解りますよ!
「陛下! それは……その……陛下にバカが感染しては一大事なので、このクロトハウセが!」
「ん? なに? ラス」
そう言ってクロトハウセはケシュマリスタ王を抱きしめて、深いキスをした。眼前で繰り広げられる、これは恋人同士のキス……なんだろう。俺……なんか、遠くに来たような気がするなあ。
「クロトハウセ兄さんも、好きなんだからもっと素直になればいいのに」
「中々素直になれない所もまたいいのだろう」
カルミラーゼン兄上とルライデの言葉など聞こえていないかのようなキス、そして兄上とシーツでお顔を拭かれているゼンガルセン王子のところへと戻って行って、
「陛下! 吸い出したと思われますので! どうぞ! この私の口から直接!」
さあっ! と口を突き出していた……う、う〜ん……み、見ない方が良いよね。
あの……ご兄弟だから親愛の情を表すキスくらいはするだろうけれども、何だろう……見ちゃ駄目のような。
「死ね! このっ! ホモ兄弟!」
そんな事を思っていたら、顔を拭かれて口の端から血を流しているゼンガルセン王子が、キスしてるお兄様とクロトハウセを殴りつけた。
「ホモって時点で兄弟なのは当然なのですから、わざわざ言う必要はないかと」
恐ろしい程に冷静だね、ルライデ。
「その通りだね、ルライデ。エバカインや、ここはおぞましく、恐ろしい空間だから私と一緒に戻ろうか。ルライデはカウタを連れて来なさい」
すっかりと冷えてしまったねえ、と言いながらいつの間にか畳まれていたお兄様が投げ捨てたマントを羽織らせてくださった。
「はい。では行きましょうか、カウタマロリオオレト殿下」
ルライデはベッドの上の乱闘を不思議そうに見ているケシュマリスタ王に声をかけて、手を引く。
「うん、ムー民大公!」
「は?」
誰ですか、それは?
思わず声を上げてしまった俺に、カルミラーゼン兄上が教えてくださる。
「ああ、カウタはね、人の名前を覚えるのが苦手でねえ」
正直俺も、王族や皇族の名前を覚えるのは苦手です。
歩きながら話そうとカルミラーゼン兄上に背中を押される俺と、ルライデに手を引かれる殿下。
「それでも陛下の事は、サフォント、レーザンファルティアーヌ・ダトゥリタオン・ナイトセイア、そしてムームーと三つも覚えているのです」
「む……むーむー? って?」
「ムームーとはカウタが幼少期に陛下に勝手に付けた呼び名でねえ。ほらこの通りルライデは顔が陛下に似ているから」
前髪をかき上げてその顔を見せてくれるルライデ……確かに似ている。
「あ、はあ……」
「陛下こと ムームーの実弟で顔が似ていることから文字削って[ムー]と呼ばれる事になったのですが、ムーだけだと怒った時のうなり声も[むぅ〜]なので、聞き分けが付かないこともあり、それにもう一つ言葉を足すようにカウタマロリオオレト殿下にお頼みしたのです」
殿下は怒った時「むぅ〜」と言うのか、覚えておこう。
背後のベッドからは、怒声が聞こえて来るが……
「他人が付けた呼び方では覚えられないので、自分で考えたのを付けさせたら、“ムームーの臣民にして親王大公” 略して」
「ムー民大公! 解っていただけましたでしょうか? ロガ兄上様」
「は、はい……」
矢張り俺は遠くに来たようだ……
解っても、理解できない事がある。何でムー民大公……もしかしたら、俺もカウタマロリオオレト殿下の中では特別な名前で呼ばれていたりするのだろうか?
「このホモ!」
「黙れ! 食人狂!」
「はっはっはっ! 今度はゼンガルセンの顔を舐めてやればいいのか?」
その後、色々あったらしく(怖くて聞く気にはなれなかった)皇君宮の寝室が壊れてしまい、それから半年ほど兄上の私室に寝泊りしていた。
「エバカイン、新しい寝室だ」
「はい!」
「余の部屋にそなたが居ないのは残念だが、仕方あるまい」
「新しいお部屋で、お待ちしておりますので」
「それと妃が全員懐妊したので、大事を取って相手をさせぬ事にした。よって妊娠、出産から産褥期が無事終わるまでの、余の相手はそなただけだ。良いな」
……え? き、聞いてないんですが……
第二幕終
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