PASTORAL −3
陛下が皇太子を儲けた年齢と、アルテメルトがクラティネを儲けた年齢は同じくらい、若くして父親になった。
……それで、此処からが……
クラティネが帝妃に確定しかかった時に、アルテメルトが陛下に談判し俺を婿とした。その際、当時十一歳だったマイルテルーザを二年後に帝妃として差し出すとして。他の家は直ぐにでも跡取りを産める、成熟した娘を正妃として送り込んだのにも関わらず、彼は未熟な娘を帝妃としてくださいと……。
「一人くらい、若い娘が居たほうが、陛下もお楽しみが増えるでしょう」
それは表面上の理由。
家の中だけで行っていれば良い物を……アルテメルトとクラティネに関係がある事を知った。庭の一角で、全裸で抱き合っていた……綺麗に言えば抱き合っていた、見たままで言えば「二人で尻を叩きつけあっていた」。出歯亀のように取られそうだが『あ〜ん! お父様ぁぁ!』『アルテメルトだろ? 悪い子だクラティネ。悪い子にはお仕置きだ』とか、そりゃ絶叫してりゃあ覗かざるを得ないだろ?
始めて見た妻の全裸は、見事な程に色素が沈着している、成熟しきった身体だった。
気配を消して終わるまで見ていると、見事なまでに中に精を放つ。『実の親子だったよな……』そう考えて、二人の睦言を聞いていた。
その中に爆弾があった
「お前の娘が帝妃か。どうだ? 帝妃の母となる気分は」
「お父様との愛の結晶ですもの、正妃に選ばれたのは嬉しいですわ」
「それともお前が帝妃になりたかったか? クラティネ」
「ひどい! お父様! お傍にいたくて、あんな下郎と結婚までしたのに。本当はお父様の妻になりたかったの……」
「泣くな、クラティネ。私だってお前を妻として皆に紹介したい。だが、それを誰もが許してはくれない」
「お父様」
そこからまた性交が始まったんだ。また何か、情報を漏らさないか? と聞き耳を立てて。二人の濃いそれを延々と聞いていた……勃つより萎えたけどな(吐きそうになったし)
それではっきりと解かったのは、マイルテルーザは正式なアルテメルトの子ではない事。実の娘であるクラティネとの間に生まれた子。
俺を下郎とか言い捨てているクラティネの態度から見ても解かるとおり、正式な子でなければ立場は低い。二人の、それは激しい睦言の中で語られていたのだが、マイルテルーザは二人の愛の結晶なんだそうで、庶子と思っていないらしい……傍から観れば立派な庶子だが……。
そんな二人が、勝手に叶わない恋をして狂ったように性交して、バカバカ子供を作ってようがそれは俺には関係ない、関係修復は既に諦めているし、あの状態を見たら本気で避けたいとも思う。
だが、二人の間の子が『正式なイネス公爵家の姫君として、帝国第四正妃・帝妃として立つ』となれば話しは別。
知らないで私生児を正妃にしたとなれば、サフォント帝は良い笑いものだ。笑いモノだけで済めばまだ問題はないが、実際問題廃位となる。法典は私生児を正妃とする事を認めていない。通常ならば、立后の後に知られても庶子に認定すれば事なきを得るだろうが、実の親子の間にできた子供だ。
皇帝に限っては片親が違えば(同腹は当然不可)兄妹、姉弟の結婚は認められている。だが実親と実子との間に出来た実子を認めてくれそうな法律も法典も、存在はしない。
あの方の事だから、此処の出来事を知っているかも知れないが……だが二年間、何の音沙汰もなければ結婚の儀も着実に進んでいる気配がある。そして、何よりも本館の者達はこの二人の関係に気付いている。
今は黙殺しているものの、何時誰がそれを漏らすかわからない。成婚後にそれを暴露されたら……。サフォント帝は恐怖を人に与えるが、決して悪い皇帝ではない(力説)
むしろ、即位七年で傾いていた財政にも回復の兆しが見え始め、異星人との戦闘も一定の勝利を定期的に収められるような軍隊を整え……ここでサフォント帝が、二人の『愛の結晶』とやらを正妻として迎えて、廃位に追い込まれると、銀河全体が大きく傾く。
だが、さすがに情報を漏らされる事を警戒しているのか、アルテメルトの情報統制は見事なものだった。俺が通信をしようとすれば、脇に腹心がつく。そういえば俺が住んでいる屋敷は、通信システムが全く備え付けられていない。恐らく貴族的に紙にペンで記入して、蝋封なんてしたら検閲されるだろう。
そして……
「帝星に船が出せない?」
俺の渡航を禁止していた。帝星にいる母親に会いに行くと言おうが、何を言おうが帝星には船を出せないの一辺倒。其処まで頑なだと、かえって疑われるようなものだが……俺は少しだけ考えて
「ならば、何処ならば出せるのだ?」
船長は帝星と正反対の方向だけを告げた。
俺はイネス公爵領から最も遠い場所まで行き、そこの別荘地に拠点を移した。ただ……
「見張り付きか」
通信システムを制御している所にも、張っているだろう。こうなれば手段はただ一つ、非合法な航路を通っている船に乗り込み一度行方を眩ませてから、帝星に戻る。時間はかかりそうだが、帝妃との成婚まではまだ半年ほどある。上手く船を乗り継げば、間に合わない距離ではない。
俺は特徴的なロガ皇后譲りの癖のない短い金髪を染め、軍刀と身分照会カードを持って、見張りを巻く事にする。
これでも軍隊で潜入特殊訓練をして来た実動部隊所属だったんで、難なくとは言わないが見張りを巻く事はできた。後はあいつらが“保身”で俺の事を報告しなければ最高だし、俺の行方を追って右往左往しても良し。奇妙な動きが憲兵隊の目に止まれば、其処を突破口くらいにはしてもらえる筈だ。
Copyright © Teduka Romeo. All rights reserved.