「男三人、うち二人はシュスター顔。まったくもって潤いのない世界ですね」
テントにはいったガルベージュス公爵は、二人にテントでの休み方と、明日からの予定についてざっと説明し、
「では外に出ますよ」
「寝なくていいのか?」
「確認することがあるのです」
ガルベージュス公爵に伴われ、二人はテントの外へと出た。
そうすると結構な人数が外で夜空を見上げており、
「ガルベージュス公爵」
「夜空が綺麗に見えますよ」
全員が夜空を指し示す。
「もしかしてお主、夜空の星からこの廃惑星を割出すのか?」
この廃惑星調査研修、彼らはどの廃惑星に降ろされたのか? も解っていない。それら全てを自力で解明してゆかなくてはならないのだ。
徹底して捜査させる――彼らは才能と知識で乗り越える……わけなのだが、学生時代にここまで徹底した調査を行わせるので、後に上官になった際に、
”平気平気。調べる物が判明していて、自分が居る位置が判明してて、調査機材もあるんだから、簡単、簡単。惑星二個くらい、五人で簡単に調査できるって”
わりと無茶言ってくれる。いや、すごく無茶言ってくれる。本人たちは無茶言っているつもりなどなく、優しく接している……つもり。
普通仕官(一般士官学校卒)が半泣きで捜査するであろう未来はさておき、いま彼らは知識と特技を使い研修をこなすのだ。
「ガルベージュス公爵」
「クロントフ侯爵、解ったのですか?」
推理が大好きだがサバイバルは苦手なクロントフ侯爵は、自分の得意な分野の下調べをしてきた。
「はい。6321884と思われます」
「…………わたくしも、同意見です」
星を確認し、ガルベージュス公爵が頷く。
「ガルベージュス公爵が帝星領の全てを覚えているのは驚かんのじゃが、お前はどうやって調べたのじゃ?」
ヒレイディシャ男爵は一年の付き合いでガルベージュス公爵についてかなり……なにも理解できていないが、理解できた。
性格はまったく理解できず、才能も皇帝が信頼するだけあり有り余っているのは解るが、あまりに才能がありすぎて理解できない――
「ヒレイディシャ男爵、私が推理したのは……」
「クロントフ侯爵、それは明日にまわします。そろそろ寝ないといけませんので。ヒレイディシャ男爵、明日までお待ちください」
ガルベージュス公爵の指示に従い、クロントフ侯爵と別れ、三人は床に就いた。
ちなみに鉱山で復元作業をしていないで、すぐに地方都市なり首都を目指したらどうだ? と思う人もいるだろうが……まず第一に地方都市では”現在地”は
解らないことのほうが多い。皆さん、思い浮かべて欲しい。道路を歩いていて標識に「ここは○○星系○○惑星○○大陸」と書かれているのを見たことはあるだ
ろうか? ”まず”ないと思われる。道沿いに住所は書かれていても、それは狭い範囲内のことで、まったく解らないのだ。
第二に廃品屋と帝国運営が関係してくる。
鉱山跡地の持ち出しと市街地の持ち出し、どちらが激しいか? 後者の市街地である。市街地の製品は民間レベルで取引されるので買い手が付きやすい。だが鉱山跡地の巨大な設備は持ち出さない。手間に見合う料金が得られないためだ。
鉱山惑星は中古品は使わない。どこでも新製品の開発に力を注いでいるので、中古品が出回るのは料金の回収、開発資金の獲得など関係上困るのだ。
あのロヴィニアですら使わないのだから、どこの王国でも帝国でも使わないものだと納得してもらえるだろう。
よって備品の残り具合は鉱山跡地のほうがましなのである。
まだまだ理由はあるが、最後の一つ。
首都を目指せば解決しそうだが、首都に果たしてそれほどの情報が残っているか? ということ。
首都に集められた情報は廃惑星になると決定してから閉鎖するまでの一年の間に持ち出され、後に削除される。情報の処理が終わって初めて廃惑星となるのだ。
とにかく、いきなり首都を目指しても「どうしようもない」というのが現状である。
この研修、色々なことを知っている人のほうがもちろん有利だが、なにも知らない人であっても大丈夫。
「ナスターや」
「なんですか? メディオン」
「色々と教えて欲しいのじゃ!」
やる気があり、初歩的なことであろうとも学び取り、実践できれば、それは正当に評価される。
「いいですけれども、まず睡眠です。規定時間寝てからです。いいですね」
「し……しかたないな。経験者の意見には従わねば」
「そうですよ。とくにメディオンは実技ポイントがあまり稼げなさそうですから、睡眠と食事でしっかりと点数を稼がなくてはいけません」
メディオンは素直に従い横になり目を閉じた。
目蓋の裏には、ガルベージュス公爵の参謀を務める凛々しいケーリッヒリラ子爵の姿が―― メディオンには特に格好良く見えた……のかもしれない。
質問:睡眠時間ってどうやって計測するの?
答え:監視衛星はその程度のことは簡単に計測できます
※ ※ ※ ※ ※
六時間後――
彼らは一斉に目覚め、活動を開始する。
寝るのは採点基準を満たすためであり、失格しないためだけにこなすもの。限られた時間内に、さまざまなことをこなすには「起きられない」などと言っている暇はない。
軽快に起きて、睡眠と同じくこなさなくてはならないカロリー摂取を行う。
「落ち着いたら、ゆっくりと食事したいですね」
「そうですね」
食事は睡眠よりは重要視されており、行動が軌道に乗れば、しっかりとした食事を作るようになる……あくまでも予定だが。
午前中全てを使い、話合いと、特技の披露が行われる。
特技の披露というのは、ザイオンレヴィの歌がそうであるように『自分では大したことないと思ってるけれども、他人からみたら凄い技』を他人が皆に語るのだ。
偶に、誰が見ても、本人も「これ以外の特技なし」という人はいるが。
「狩りは任せろ!」(クレンベルセルス”スナイパー”・カイトファラルグ伯爵)
スナイパーをつけないと怒るし、スナイパーと呼ばないと怒る。彼がカイトファラルグ伯爵クレンベルセルスと本名を名乗る相手は、皇帝以外いない。
「スナイパーはスナイパーですよね」
「お主の言う通りじゃ、クレウ」
「ですよね、メディオンさん」
誰の口からも「スナイパーはスナイパー」としかでてこなかった位にスナイパー伯爵である。
子爵はというと、
「シクとさデルヴィアルス公爵家邸にいった時にさ、地下迷宮案内してもらったんだよ」
「僕もヴァレンとザイオンレヴィ、それにエルエデスさんと一緒に行きました」
「デルヴィアルス公爵はこいつは迷子にならんって言ってたな」
「迷路の達人なんだそうです。来た道を引き返すことができるんだそうです」
「もちろん迷路を抜けるのも得意だよ」
迷路抜けが上手いだけではなく、抜けずに途中で引き返して戻れるという特技――相変わらず地味な上に、普通に生きていたらまず使わない。
あとメディオンが、
「エディルキュレセは大昔の鍵穴のある鍵を、鍵を使わずにワイヤーを差し込んで”くい、くい”としただけで開けるのじゃ」
これもまた地味な特技を披露してくれた。現在帝国で鍵穴があって、鍵を差し込んでまわすような鍵はないので、普通は覚えない特技である。
この特技が判明したのは、メディオンが実家にある骨董品の幾つかを子爵に見せてやろう! と持ち出した。その中に紛れていたのが”鍵が失われた南京錠”で、
『こういうの、ワイヤーみたいなので開けられるらしいんだが』
『やってみい! エディルキュレセの器用さならできる!』
『傷つけたりするかもしれないから……』
『構わんのじゃあ! 儂に任せるのじゃ』
『それじゃあ』
生来の器用さからさっくりと鍵を開けた。
「さすがシク。その技術、なんに使えるのか僕にはさっぱりわかりませんけど、器用だってことは解ります」
「シク! どうして我に教えてくれなかったんだ! シクが鍵開けしているところ、見たかったのに!」
「まったく、お前は器用だな」
「ケーリッヒリラ子爵、ケシュマリスタ王城に鍵あるよ。開けてみる?」
このような形で特技披露となった。ガルベージュス公爵は、
「割愛ですね」
司会進行のゾフィアーネ大公が『才能ありすぎなんで、隠れた才能とかないです。なんでもできるので』と割愛してしまった。
それに異論を唱えるものは、
「皆さんに褒めていただきたかったのに!」
ガルベージュス公爵本人以外、誰も居ない。
「お主の隠れた才能を上げていたら、三ヶ月でも足りんわ」
「イデールマイスラ! わたくしのことを、そこまで言ってくれるとは! あなたのその一言で充分です!」
こうして各自が大したことないと思っていることを、他人に評価されて、
「儂、そんなに真面目かのう? クレウや」
「はい。とても真面目で、何ごとにも真摯に、裏表がない方ですよメディオンは」
「そ、そうかえ」
照れ顔を覆い隠してしまう人がいたり、
「俺の存在意義はスナイパー。いつかお前の腰布をも撃ち抜く!」
「そうですね。スナイパーですね、スナイパー。でも私の腰布は撃たせませんからね!」
自信を持ってスナイパーしている人がいたりと。
腰布装着時に撃ち抜かれたら、部分的にまずいんじゃないの? とか――