君想う・廃惑星編

【02】

 通信機などは持ち込みは禁止されているが、廃材を使って作るのは禁止されていない。そして超能力を使うことも禁止されていない。
 地下深くまで掘っている鉱山。湧き出していた地下水を組み上げていた設備を見つけ、
「修理希望者! 三十五名まで!」
 食べ物よりも修理道具や機材を優先して持って来た者たちが名乗り出て修理にあたる。
「動力をいかにして確保しましょうね」
 廃惑星になると決まると、廃品屋などの出入りも激しく、直前に彼らが入り、全員が引き上げると同時に、廃品屋ばパーツを根こそぎ持って行く。
 帝国は旧製品を使い回しすることがないので「ゴミはご自由に。ただし保証はしません」と彼らに処分を任せている状態。
 この鉱山跡地も御多分に漏れず。高値で売れるパーツは持ち出されている。
「ポンプはまだまだ使えるな」
 鉱山はブロックごとに分けられ、一つのブロックは独立した市と同等の施設が揃っているので、一箇所の機能を完全に復元させれば住居には困らない。
「ここを第一のポイントにして、町を目指しましょう」
 動力さえ復帰すれば、ここで使用していた機器が目覚め、
「私の出番ですね!」
 ゾフィアーネ大公と情報管理が得意な面々が、消されたデータの復元を行い、拠点に相応しい場所を選び出すことができる。情報は売り買いされないように帝 国の技術仕官がやってきて消す。通常は技術仕官、彼らの能力も凄まじいが、帝国上級士官学校の研修用に使うことが決定された廃惑星は、彼らの上に位置する 技術将校がやってきて消す。すなわち帝国上級士官学校卒業生が、可愛い後輩たちの為に死力を尽くして情報を消し去る。

 この人たちの先輩(主に皇王族)が高得点を稼げるようにと(復元が困難であればあるほど点数は高くつく)徹底して情報を消すのだから……まあ復元は大変である。

 情報を取り出すのは大切だが、それはもう少し後。なによりも環境を整えなくてはならない。
「最悪なトイレだな」
 修理希望者の一人エルエデスが、廃棄されるのだから――という思考により汚されきったトイレを見て吐き捨てる。
「高低差を利用して水を通すか」
 一緒に来た仲間が、持参したホースで水源とトイレを繋ぐ。
「エルエデスたちはなにをして居るのじゃ?」
 サバイバルには向かないメディオンがヒレイディシャ男爵に尋ねるも、
「儂も解らん」
 同じくサバイバルを知らないヒレイディシャ男爵も首を傾げるばかり。
 そこに子爵が掃除のためにやってきた。
「デッキブラシは残っていたか」
 子爵の手には持参した強力洗剤。誰が見ても(テルロバールノル勢二名以外をのぞく)掃除の為にやってきた人である。洗剤を撒き、床掃除を開始した子爵に、
「エディルキュレセ、エルエデスはなにをしておるのじゃ?」
 メディオンが”あれなんじゃ?”と尋ねる。
「トイレを流す……あー薬剤じゃなくて、水で流すんだ。大昔は”水洗トイレ”ってのがあってな」
「ほぇー知らんかったわ」
 現帝国のトイレは専用薬剤で流すのが普通。
「薬剤が完成するまでの間、ここは水で流して環境を維持する」
「水で流すだけ? それでは流れた物が不衛生では?」
 テルロバールノル勢は基本、こんなことは知らない。
「心配するなヒレイディシャ男爵。お前等みたいなお上品な貴族さまはあっちにいけ。汚れた仕事は我等が受け持ってやる」
 エルエデスとトイレを再稼働させるためにやってきた人たちが”任せて!”と親指を立てる。
「邪魔せんから見ててもいいか? 本当になにをしているのか? なにをしたらいいのか? 解らんのじゃ」
 メディオンは貪欲に知りたいと、そしてヒレイディシャ男爵も。

 ここに来る前に勉強してきたら――そう思う人もいるかも知れないが、まったく解らない人は、なにから学んでいいのかまったく解らない。
 子爵はメディオンがなにも知らないことを知っているが、メディオンに前もってトイレについて書かれた本を渡すのは忍びないし、したくはない。個室で自分が使用したものを掃除するのとはわけがちがう。なにせ相手は大貴族のお姫様。

「ホース貸せ」
「はいはい。待って下さいねケディンベシュアム公」

 王国内の立場で言えば、メディオンとエルエデスは同じだが、帝国内での評価は違う。エルエデス自身「違う」と言うだろう。
 エルエデスの地位が低いのではなく、メディオンは貴族に分類されるにはかなり無理があるのだ。

「儂も覚えて次の拠点作りに携わりたいのじゃ。人員の余裕はなかろう」
「そうですか……では見ててください、ヒレイディシャ男爵」
 子爵は”わかりました”と説明しながら作業を続ける。
「この研修で一番大切なのは、まず衛生的な住居。それにはトイレが必要。トイレの構造説明は避けるが、流すための薬剤の代わりに水を使って……お、水流れるようになったな」
 エルエデスたちが水を通し終える。
「水で流すのは、濾過器の一つを屎尿の浄化に使うからだ。ある程度薄めないと濾過できないからな」
「なるほど!」
「濾過した水を溜める池を作り、その水をトイレに循環させる。その間に正式なトイレの循環システムを復元してもらう」
 濾過された水はとてもきれいで普通に使われる。戦艦などの隔離され、補給もままらない場所へと赴き戦争する設備ではあたりまえのことなので、軍人生活の長い子爵やエルエデス(生まれた時から)は気にならない。

 メディオンはこの研修で初めて理解することになる――

※ ※ ※ ※ ※


 残った者たちのうち二十名は、全員が持参した食糧を集め、それらを上手く組み合わせて、最低限の材料で、全員基準カロリーを摂取できるメニューを考える。
 もちろん使用した食材も事細かにチェックされる。
 ガルベージュス公爵は明日からの基本になる日程を考え、子爵は居住区画割り後、トイレの復活、そして食糧確保に乗り出す。

「この計画はギュネ子爵に掛かっている」
「なんだい? ケーリッヒリラ子爵」
 重要な役割なので作業などさせず、椅子に座らせて休憩させておいたザイオンレヴィ。
「ヴァレンやクレウ、その他庭造りが好きなやつらに畑を作らせ、種も植えた。水はまだ引けないが撒く水も用意した。あとは成長させるだけ。やってくれるか?」
 食糧確保チートとも言えるザイオンレヴィ。
 入学した当初は”大した力じゃないよ”と記入しなかった能力だが、
「……枯死?」
 ここで生命線にして採点クリアの最終兵器となるのだ。
「そうだ。果肉にデンプンを含む木の種を植えた。それが成長したら、次はハーブ類。できるか?」
 彼の能力を持ってすれば、種植えから実りまで一時間もかからない。
 合成食糧と同じ速度で、自然食糧を作りあげることができるのだ。いや、それは合成食糧分類じゃないの? と言われそうだが、帝国では自然食糧。
 子爵やガルベージュス公爵、そしてヨルハ公爵はザイオンレヴィの力を”あて”にして、高カロリーで栄養豊富、たわわに実る植物の種を大量に持参してきた。
「簡単だよ」
 ザイオンレヴィは立ち上がり、ジベルボート伯爵から貰った水で喉を潤す。
「あとな」
「なに?」
「木に花が咲いたら一回止めてくれ」
「……受粉するの?」
「そうだ。総出で受粉する」
「じゃあその間にハーブ育てておくね」
 ケシュマリスタで一生歌を歌って過ごすはずだった男は、普通はしない食糧を育てる歌を歌うことになった。

(食べられる植物を歌で育てないのは、両性具有の絡み)

 ザイオンレヴィの才能と、
「受粉忘れはないな!」
「おう!」
「じゃあ歌再開するね!」
「おうっ!」
 全員の努力により木に果実がなり、ハーブ類が育った。
 受粉作業で中断されたものの、調理部隊が作製した高カロリーで食べやすい食事を取った。
 今日彼らが休むのは持参したテント。その繊細にして豪快な念動力を操るエシュゼオーン大公がテントを建てる。
「イデールマイスラ、テントはどうしたのですか?」
「忘れた……」
 イデールマイスラはテントを忘れたと言うより、テントってなんじゃ? といった状態。だが知らないことを知らないと言えないのがイデールマイスラの性格。
「私と一緒ですが、いいですか?」
 ”解っていましたけれどもね”とガルベージュス公爵が持参した四人用のテントを指さす。収容人員は自分とイデールマイスラと、
「ああ、世話になる」
「リュティト伯爵とヒレイディシャ男爵もどうぞ」
「本当に感謝する」
 主同様”野営テントってなんじゃ?”なメディオンとヒレイディシャ男爵である。

 ……だったのだが、

「メディオンは私と一緒に休みましょう! 異性好きの同性である私となら安心です」
 メディオンがテントや寝袋など用意していないことなどお見通しだった従姉妹のエシュゼオーン大公が”ご安心あれ”とばかりに胸を叩いて請け合う。
 持参しないどころか、存在自体知らないことを知っているのなら、教えてやったらどうだ? と言いたくなるが、それとこれとは別物。
「では、世話になる。殿下、イヴィロディーグ、儂はこっちで」
「そうじゃな。頼むぞナスター」
 エシュゼオーン大公はメディオンの従姉妹ということは、イデールマイスラから見ても従妹に当たるので、ある程度安心してメディオンを送り出した。