男は不倫していた――いや、男は不倫ではないと言う。真実愛しているのは妻ではなく彼女だけだと。
妻は離婚に応じず……男は妻を殺害した。
「心配しなくていい。この惑星はもうじき廃惑星になるから、少しの辛抱だ」
「もうじきここから人が消える。そしたらあとは好き放題だ」
男たちは退去せずに廃惑星に残り――好き勝手に生きることにした。
※ ※ ※ ※ ※
子爵たちは廃惑星に降り立った。
「点呼しますよ!」
二年生最初の授業は、廃惑星で行われる。
廃惑星とは主に採掘されつくした鉱山惑星。主要産業である鉱石を採掘しきると、そこに人を置き、管理するよりからならば、放棄して新しい惑星に放り込んで仕事をさせた方が効率がよい。
帝国には手付かずの鉱山惑星が無数にあり、人が足りないくらいである。
もちろん完全自動化してもよいのだが、そうなると仕事が失われてしまうので、就職口を確保するために完全自動化は行っていない。
廃惑星は決定が行われ、人々に通達される。退去までには一年の猶予がある。
その間に帝国側が用意した次の鉱山惑星に向かう手続きをするものや、違う惑星に向かう手続きをしたりする。
引っ越し費用は掛からず、荷物はすべて帝国が回収し、運んでくれる。
どうしてそれ程好待遇なのか?
理由は彼らの足取りを確実に掴むことにある。
廃惑星決定から完了するまでの一年。その間に人殺しをして隠してみたり、もともと追われる身なので、これを機会に上手く逃げようとしてみたりと――犯罪者が非常に活発に動き回る。
それらの犯罪が立証された場合、逮捕しやすいように帝国が全てを把握しておくために、廃惑星移動は帝国の管理下に置かれる。
そして犯罪を見つけ出すのが帝国上級士官学校二年生たち。
彼らが発見しなければ、犯罪は闇に葬られ、帝国はそれ以上の追求をすることはない――
「全員揃っていますね」
指揮を執るのは、当然ガルベージュス公爵。
生徒たちは【各自この研修に必要だと考える物】を指定のリュックサックに入れ、この廃惑星で約三ヶ月間、生徒だけで過ごす。
もちろん採点するために教官たちが全方向・全時間見張っているが、口出しすることはない。
採点は全体的な流れが重視されるが、幾つか決まった採点項目がある。
それは二日に一度は食事(摂取最低カロリーをクリアする必要がある)一日二リットルの水分を摂ること。
彼らは性質上、三ヶ月飲まず食わずで活動できるが、食事を取らなくてよいのならば室内でシミュレーションをしているだけで良い。あくまでも、現実の食糧確保が重要。
そして同じく睡眠も二日で最低十二時間と定められおり、これらの条件があることで、かなり難易度が高くなる。
「わたくしが総司令官でよろしいですか!」
満場一致で決まった司令官ガルベージュス公爵。そして彼が次に決めたのが、作戦本部長のような役割を持つ者。
「作戦はケーリッヒリラ子爵に立てて貰うことにします」
司令官の言葉を拒否する者はいない。
打診などされていなかった子爵だが、自分の実家を考えると、この役割を振られるだろうと覚悟していたので、驚きはしなかった。
なんたって日常生活サバイバルなフレディル侯爵家。家は楽しい殺傷トラップで溢れかえってる、デルヴィアルス公爵家……の両者に縁深い。これで指名されないほうがおかしい。
「なにから始めますか? ケーリッヒリラ子爵」
「五人一組になり、全員の持ち物のリストを作ってください。まずはそれからです」
「聞きましたね!」
名簿順に一列に並んでいた彼らは五人ずつの組になり、円を作り中心に向けて荷物を広げリスト作りを開始する。
指示を出した子爵も、ガルベージュス公爵とイデールマイスラ、ヨルハ公爵とジベルボート伯爵の五人で円になり、荷物のリストを作る。
「はい、シク」
持ち物のリスト作りは基本とばかりに、ヨルハ公爵がリストを差し出す。
「お、ヴァレン。我のリストはこれだ。確認してくれるか?」
リスト作りが大事だと知っている子爵は、当然すでにリストを作ってやってきている。ヨルハ公爵と子爵はリストを交換し、互いの荷物がリスト通りかを確かめる。
「ガルベージュス公爵。僕の荷物調べてもらえますか?」
事前に二人に言われて荷物を用意してきたジベルボート伯爵も、リストを持っている。
「ではジベルボート伯爵は、わたくしの荷物を調べて下さい……イデールマイスラ、ぼうっとしていないで早くリストを作りなさい」
「お、おお」
輪の中で一人リストを作成してこなかったので……多少どころではなく照れながら、イデールマイスラは急いでリストを作る。
少し離れたところで、ザイオンレヴィがエルエデスに、
「所持品のリストを作ってこないとはどういう了見だ! お前はここに遊びにきたのか?」
「ひぃぃ」
襟首を掴まれて責められていた。
―― 女性に責められるのはザイオンレヴィの特技です!
ガルベージュス公爵の「僕にはこれをどうやって使用するのか解りません」といった品が並ぶリストを確認しおえたジベルボート伯爵は、ザイオンレヴィを優しく見つめていた。
ジベルボート伯爵がザイオンレヴィにリスト化について知らせなかったのは、忘れていたからである。
※ ※ ※ ※ ※
荷物確認終了後”これからについて”の話合いを儲ける。意見を聞く時間は十分。だらだらと長話をしている余裕は彼らにはない。提出する意見も端的に、そしてそれらの意見を五分でまとめて、次の行動に移る。
「では、採掘場内の水源を探しますか」
所持している水が尽きる前に、水分確保することになった。
ちなみに彼らがいるのは、廃惑星の鉱山採掘場の一つ。
「採掘場ですから、水はすぐに手にはいるでしょう」
数名が濾過器を持って来ていたので、泥水でもすぐにきれいになる。
「泥水でも平気だよ。啜るよ」
平気であろうが地面に直接口をつけて、泥水を啜っているヨルハ公爵の姿は、あまりにも憐れ過ぎる。
「取り敢えず目的だからな、ヴァレン」
「そうか」
十人一組になり広い採掘場を歩き回り、水を見つけたチームが狼煙をあげる――この作戦には、一切の通信機器の持ち込みが禁止されている。
「私、出番なーし!」(全てのシステムに侵入できるゾフィアーネ大公)
質問:飲んだ水の量や摂取したカロリーはどうやって計測するの?
答え:監視衛星はその程度のことは簡単に計測できます