PASTORAL −104

「何の用事だろ……叙爵式じゃないよなぁ」
 今日は、ゼンガルセン王子が正式にリスカートーフォン公爵に叙爵される日。王子は皇帝陛下からリスカートーフォン公爵に叙爵されてから、領地に戻り本星で戴冠式を行ってエヴェドリット王となる。遂に第三の反逆王が誕生するわけだ。
 大体の皇族・皇王族・王族は叙爵式に参列している。俺はと言えば、まだベッドでのんびり……もう殆ど治ってる。そろそろ鈍った身体でも動かそう。その前に、
「起きて着替えでもしておこうか。ベッドに入ってたら自堕落な生活しているって怒られるだろうし」
 今日は母さんが来る。
 昨日、突然手紙が来て来訪を強く求めた、それも出来るだけ早く ”明日にでも会いたい”って。
 母さんが宮殿に来たがるなんて珍しい。
 此処は皇后宮だ、かつて母さんが先代皇帝に強姦された場所だから、来たいなんて言わないだろうし、来てとは絶対に言いたくなかった。
 それなのに来るってんだから、余程のことがあるんだろう。
「さて……着替えでも……」
 身体を起こして、準備をしようとしたら女官長が寝室に飛び込んできた。それも血相を変えて。
「大公殿下! ゼンガルセン殿下が! リスカートーフォン公爵殿下が!」
「えっ! もしかして、お出でになったのか?」
「す、直ぐそこまで!」
 何をなさりにおいででいらっしゃいますか! お忙しいお方なのですから、その……ええ? 時間から言って、叙爵式終って直ぐに俺の所に来た? ……のか? 俺なんかの所に来るより、もっと色々な人と会うのが……
「着替えるまで待っていただけるように」
「いえっ! もう直ぐそこまでおいでで!」
 女官長が入り口扉を指差すと、勢い良く扉が開いて、
「失礼いたします大公殿下! リスカートーフォン公爵ゼンガルセン=ゼガルセア。大公殿下、身体が本調子ではないとお聞きしました故、お見舞いに参じました。我が叙爵式に参列していただけなかった事、致し方ないとは言え残念でございます」

 ゼンガルセン王子……頭でも打たれましたか? それとも悪いものでも食べられましたか?
 何故、俺に対して敬語なのでございますか? それとも公爵になられたので言葉遣い変えられましたか?

「この公爵を哀れに思われるのでしたら、是非とも皇帝陛下と共に我が戴冠式に参列していただきたい。よろしいで御座いましょうか?」
「あ……はぁ……?」
 俺がゼンガルセン王子の戴冠式に? それは皇帝陛下が即位する王の一族から得た正配偶者と共に向うのが正式では? 俺はエヴェドリットには関係ないですよ? 基本的にどの家門とも何の関係もないんだが、あるのは皇族のみで。
「いけませぬか?」
「通常でしたら、帝后となられるロザリウラ=ロザリア殿が選ばれるのではございませんか」
 お兄様の挙式の後に即位式が行われるとは聞いてるから、普通に考えればゼンガルセン王子の妹と共に……じゃないのか?
「つれないお方だな。なあ、オーランドリス」
 ゼンガルセン王子は振り返りつつ閣下に声をかけた。何故かシャタイアス閣下は入り口前で立ってるだけ。此処に入ってこない、答えもしない。側近兼護衛であらせられる閣下が何故?
「どうぞ、お入りください閣下」
「お許しが出たぞ、オーランドリス」
 礼をして入ってきた! な、何? 怖いよ!
「入室の許可をいただけた事、感謝いたします。大公殿下」
 こ、怖い……彼等は俺に一体何をしようと……あ、あの……
「お顔の色が優れませんな。ベッドに横になりながらでもよろしいので、お話を聞いてはいただけませんでしょうか」
 怖いよ! お兄様! ゼンガルセン王子が壊れたぁぁ! いや、待て。若しかしたら通常はこのような方なのでは? 詳しくは知らな……何処の世界に、四大公爵の当主を前に寝て話を聞く皇子がおりますか! 失礼極まりないじゃないですか!
「いえ、あの……戴冠式に招いていただけるのは嬉しいのですが、陛下のご許可は……」
 普通に考えて、陛下は帝后を連れて行くと思うのですが?
「陛下は大公殿下の判断に一存されるそうです。陛下と共に参列してはくださいませんか?」
 なっ! 何! お兄様! 何故……えっと、コレは多分俺の判断力を試しているんだな! そうだ、この先こういう事があった場合、上手く受け答えが出来るように……でも、直接四大公爵の当主から声かけられて拒否できるわけないよな。なら答えは簡単だ!
「それでしたら喜んで。公爵殿下の戴冠式に招いていただけるなど、望外の喜びです。ですが、本当に私でよろしいのでございますか?」
 帝后が本星に行けない理由があるのかもしれないし……俺で済むなら……俺でいいのかな?
「もちろんでございます」
 え、え……え、あ……う、うん、戴冠式にいけるみたいだね。初めてハスケルセイ城(リスカートーフォン本城)に行けるな……。じゅ、準備とか式典に着用する礼服は、儀典省に……お、お土産とか必要なのかな……。やっぱり戦艦なのかな……お兄様に負担をかけないように、手筈は俺が責任を持って整えよう! ……二度手間にならなきゃいいけどさ。
「大公殿下。お顔の色が優れませんね。公爵、また後日にでも」
「待て、オーランドリス。もう一つ、是非とも大公殿下にお願いがあるのだ。今を逃すわけにはいかない」
「気持ちは解るが、大公殿下のお体の具合を考える方が先だ」
 何? ゼンガルセン王子が俺にお願い? 何ですかそれはっ!! その時、背後で少しざわざわと。
「誰か来られたようですよ。足音からして女性が二人、男性が一人。大公殿下のお客人ですか?」
 シャタイアス閣下も壊れてるよぉ……。何で俺に対して敬語を使われるんですか?
 あれ? 可笑しくないか? ゼンガルセン王子は立場が変わったけど、シャタイアス閣下はご自身の立場は何ら変わってないんだよな? むしろ王子が位が上がったから、立場的には上がったと考えてもおかしくない。それなのに俺に対して言葉遣いが変わった。

 俺に何かがあるのか?

 思い当たるフシはなにもないが、何だろうこの胸のざわめき。いや、虫の知らせ? 何かもう手遅れっぽいような! 無いよりはマシ!?
「は、はい。今日は母が訊ねてくる予定ではありました。待たせておきますので、どうぞお話を続けてください」
 二時間でも三時間でも待ってもらうよ。この場合、公爵殿下のお話を聞くのが何よりも大切だ!
 そう思ったんだが、
「お先にご母堂とお話下さい。我々は待たせていただきます。この部屋の隅で待っていてもよろしいでしょうか?」
 やめてー! 銀河帝国最強王家の反逆王と銀河帝国最強騎士を部屋の隅に立たせておいて母さんと話をしろって! うぁぁぁぁ! な、何が起こったんだ……とっとと、母さんとの話を終わらせよう!
「ラメスターナ女官長。公爵殿下と伯爵閣下に椅子をご用意して」
 そう言ったら、
「大公殿下はお優しいので、我々も気付かないなオーランドリスよ」
「ええ、椅子など不要でございますよ。大公殿下」

何が? なんなんだ? この感触……何処かで? そうだ! あの日! 皇后宮で陛下のお相手を命じられた時と似てる!

 と、とにかく急いで話を終わらせよう。一回宮殿から出て待ってもらおう、いやクロトハウセの宮にでも移動してもらって……とっ! 兎に角ゼンガルセン王子の依頼を急いで聞かないと! 
「母さん! あのさ、ちょっと忙しいから要件を急い……」

 そういえば、シャタイアス閣下が『女性二人、男性一人』って言われてた。一人は母さんに間違いないとして、あとの二人は誰だ?

Third season 第一幕 − 終 −


Fourth season 第一幕に続く

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