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浮気・3
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1. 王妃は兄貴に対する当てつけで浮気した
(王妃が平民や貴族と浮気したくらいじゃあ、兄貴は全くこたえねえ。相手が王や皇帝陛下なら別だけどさ)

2. 王妃の浮気相手は兄貴に復讐するために王妃に近付いた
(王妃寝取られるぐらいじゃ兄貴は全くこたえない)

3. 復讐の理由は将来を誓い合った恋人を取られたから
(自殺しようと思ったから、その勢いで処刑覚悟で寝取ったらしい)

4. でも実際は恋人が自ら男を捨てて兄貴の愛人になった
(兄貴あんなんだけど、女にはもてるんだよなあ)

5. 兄貴は王妃の浮気をここで止めさせる事に決めた
(実家破産したから金がもったいない)

6. 俺がすることは王妃を連れて帰る事

 事実を何度も反芻しながら、目の前の状況を必死に分析するエーダリロク。
 ロヴィニア王の愛人に自ら志願してついた女は、庶子を一人産んだが、その子が女ではなかった為に、女の元から王の足は遠退いていた。ロヴィニア王に焦がれて愛人になった女は、何度浮気をしても王の寝室に呼ばれる王妃に嫉妬し怒りをぶつけた。
 あまりの怒りに王妃は恐怖し『王に会わせて!』という叫びに、承諾を与える。
 王妃が承諾を与えたことで、事態は収拾の糸口が見えたとエーダリロクは兄の愛人と王妃を車に乗せ、一人うちひしがれている男の身柄を部下に任せて王城へと戻った。
 エーダリロクの帰還を聞いた王は、ロヴィニア王国軍の指揮を委任する書類と杖を持ち、実弟のもとへと向かっていた。
「戻ったかエーダリロク。進軍の準備は整えてある、あとはお前に任せたぞ。おや、その女を連れてきたのか?」
 委任書類の中に【エヴェドリットの柱】の利用に関する書類を混ぜて渡す。
「ああ、どうしても会いたいって騒いで、王妃が許可したから連れてきた」
 何時も通りに書類と杖を受け取り、エーダリロクは “兄のシナリオ通りに動いた” 女性を見つめた。
「そうか、だが私には会っても話すことはない。さがれ、そして行くぞ王妃」
 ロヴィニア王は愛人に声をかけることもなく、王妃の腕を引きその場を立ち去る。
 王の態度は愛人にも予想ついていたことらしく、肩を落として悔しそうに唇を噛んだ。
 王妃の前で愛人を粗雑に扱う。浮気を知られてもなお、愛人よりも王妃を大事にすることを、王妃にわかりやすく感じさせてやるにはこの方法が最適だった。
“回りくどい方法じゃあ、あの王妃には理解できないだろうよ。本当はこういうのには触りたくないんだけど……兄貴この先もメーバリベユ侯爵のことを王妃よりも褒めるだろうし”
 エーダリロクは最後にこの愛人を城から屋敷へと送り届けるように指示を出して、出撃しなくてはならない。
「ちょっと、愛人がなんで城にいるのよ!」
 その声にエーダリロクが振り返ると、怒り心頭といった面持ちのガゼロダイスが立っていた。
 ガゼロダイスはエーダリロクが私服に着替えている事に気付き、いつものエーダリロクに戻ったと思い、無視して愛人の元へと近寄り先ほど彼女が王妃にしたように頬を殴る。
「愛人ごときが王城に足を踏み入れるとは何事。身の程知らずが!」
 容赦なく愛人の頬を殴り続けるガゼロダイスと、先ほどまでの勢いは全くない愛人。
 殴られるままになっている愛人と、殴る事に必死になり、腰から剣を鞘ごと外し殴り続けるガゼロダイス。誰も止める者がいないとエスカレートしてゆくガゼロダイスの剣をエーダリロクは掴み、剣ごとガゼロダイスを投げ飛ばした。
 痛みにまだ体を硬直させている愛人から離れ、エーダリロクは投げつけられて座り込んでいるガゼロダイスに覆い被さり耳元に口を近づける。
「ガゼロダイス」
「……」
「食うぞ」
 そう言うと、ガゼロダイスの耳に噛みつき後頭部に向けて噛み引き裂いた。
「ひっ!」
 口から耳を取り、ガゼロダイスに渡す。
 鬘の下から溢れる血を手で押さえながら、自分の上に乗っているエーダリロクを見上げる。

 エーダリロクは大人しいとは違うが、ガゼロダイスに何をされても怒ることのほとんど無い王子だった。理由は覚えていないが、ある日ガゼロダイスが何かした瞬間、エーダリロクは形相を変えてガゼロダイスを殴り倒す。
 大怪我をしたガゼロダイスに兄王が告げたのは『エーダリロクは二重人格だ。もう一つの人格は凶暴らしい、人にはあまり言うなよ』
 自分に大怪我をさせた実弟はお咎め無しだった。それ以上のことはガゼロダイスは口を挟まない、実弟の変貌の恐ろしさの片鱗を身を持って知っているから。

 エーダリロクは立ち上がり、ガゼロダイスに殴られ血だらけになっている愛人の元へと向かう。
「王城に足踏み入れたらこうなる事は知ってただろ。二度と王城に来るなよ、王城に来ることを許されるのは庶子までだ。その親、要するに愛人はこの城の女主の敵だから立ち入ることはできない」
 呆然としている彼女と、呆然としている無性。
「どうなさいました?」
 その場に現れたのはメーバリベユ侯爵。
「俺はこれから急いで前線に向かわなけりゃならないから、後のことはあんたに任せてもいいかな? これは王の愛人の一人で、庶子もいる」
 夫の出撃を見送りに来た彼女だが、見送りよりも怪我をして座り込んでいる二人の治療の方が重要だろうとマントの端を持ち挨拶をする。
「解りました。本当はお見送りしたいのですが、彼女の治療の方が先でしょうから、ここで簡単なご挨拶を。殿下、ご武運を」
「ありがとさん! 後は任せたぜ……それとガゼロダイス、無駄口は叩くなよ」
 それだけ言い残してエーダリロクは立ち去った。
 部下に医師をこの場に連れてくるように命じて愛人にハンカチを渡す。
「私は帰る!」
 ちぎれた耳を持ちながら、駆けだしたルメータルヴァン巫女公爵に侯爵は声をかけたが振り返ることなく立ち去った。
「さて、王の愛妾、私はセゼナード公爵妃です。貴方の名は?」
「私の名前は……」

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