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 基本的に俺は飼われるのは好きじゃない。
 スラム街の道端でも売られていた新聞を買う、号外だ。
「皇帝第一子誕生」の文字。俺の甥になるらしいが、興味は無い。皇帝になった男は俺の弟だった、あまり弟だっていう気はしないが。
 ストリップ劇場の控え室で育った俺は、母親の元に来る男を多数知っていた、その中でとびっきりの金持ちだったのが弟の父親の伯爵だった。金持ちじゃなかったら母親は相手にしなかっただろな。生まれた弟が伯爵の子だったんで、そのまま妾になった。
 当然俺は置いていかれた、それに関しては何の不満もない。そのままストリップ劇場で働いていた。
 偶にいい男が出来て出て行った女が数年後、子供を連れて仕事に復帰したいと申し出てくるのをみながら、それなりに母親達は普通に生きてるんだろうな。伯爵くらいなら興味はなくても金はくれて生活させてもらえてんだろうな……大して考えはしなかった。
 弟に始めて会ったのは十五年前、上級軍事大学を主席で卒業したという弟が店に来た。
 名乗りあったわけじゃない、ただテーブルに座って胸の垂れた女や、子供を五人も産んで身体の線もなにもないような女、幼児から一歩足がでたくらいの子供の動きを射るように見続けていた。
 ショーを終えた女が、身体を震わせるほどの眼差しで。憎しみ以外の何者でもなかった事は確かだ。
 店の閉店近くなって、女と男が戯れている時もまだ座っていた。
「誰か必要ですか? 軍人さん」
「メセアという男が何処にいるか知っているか?」
「此処にいるメセアは俺一人ですが」
「そうか」
 九年後、俺は王宮に連れて行かれた。
 ギィィィと扉が開く音に顔を上げると、リタが帰って来た所だった。
「足りないもの買ってきておいたわ」
 王宮に連れて行かれた後、爵位を渡されたんだがとてもじゃないがこんな所にはいられないと帰って来た。でも、あの弟はタダでは戻る事を許してくれなかった、風俗法を強化するからあのストリップ劇場も閉まることになる。その際に捕まられても困る、そう言って。
「ああ、ありがとう」
 金を渡された、一生贅沢に暮らしても困らない程の。表立った事をせずに生きていけ、そう言って背を向けた弟の向こう側には、少女がいた。
「号外、買ったのね」
 その場に不似合いな子供。あれが多分、皇后インバルトボルグだったんだろう。
「一応、お祝いって事でな」
 ストリップ劇場には潰れ、俺は繁華街の端で酒亭を開く。ちょうどその頃、劇場から出て結婚したはずのリタが又仕事に復帰したくて戻ってきた時、ストリップ劇場は殆どが撤去されていた。困り果てたリタと再会して、結局一緒に住む事になった。連れてきた子供、キサと共に。

 働かないでも食べていける程の金には手をつけていない。
 どうしてかって? 簡単だ。アイツは殺したかったんだろう? だから堕落するように大金を与えたのさ……場末のストリップ劇場で育った男の知性と品性の悪さを見越して、堕落して処刑するように……そう思うのは俺が弟をどこかで嫌っているせいなのか、それとも自分を卑下しているせいか……両方だろうか? それとも全く違うのだろうか?

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