繋いだこの手はそのままに − 34
 帰途についている最中、タバイは無言であった。
 余も無言であったのだが。
 ザウディンダルの容態はどうであろうか? あれ……死んでいたような? 気のせいであろうか……気のせいにしたい。
 し、死んでいないであろうな、ザウディンダル?
 到着するとデウデシオン、四大公爵、父達が揃って出迎えに来た。まず言わねばならぬ事がある。
「デウデシオン!」
「はい」
「本日、余の訪れた衛星にて奴隷に暴行を働いた者達を処分せよ」
「終えております」
「そ、そうか。相変らず早いな」
 さすがデウデシオン……。殴ってから此処に戻ってくるまで一時間足らずなのだが。
 次ぎは……
「陛下。先ずは怪我の治療を」
「その前に」
「何でございましょうか?」
「ロガが怪我をしていないか調べて、治療薬が必要であらば薬を届けよ。そうだな、この面を身分証明書にして届けろ。余からのものだという事にして」
「御意」
 余はそういってマスクを引き千切った。まだ力が残っているようで簡単にベルト部分が外れた。
 それをデウデシオンに渡すと、頭を下げて受け取り再び頭を上げる。
「それと、あの惑星に貴族の立ち入りを禁ずる」
「陛下の身の安全を守る我々を許可していただけるのでしたら」
「それは許す。平民の立ち入りまでは制限はせぬ、あの場には平民死刑囚の墓もある故、参る者もあるであろうからな。して、ザウディンダルの容態は?」
「ご心配なさる必要はありません。あれの既に治療は終わっております」
 無事でなによりだ、ザウディンダル。
「式典の休憩時間に会って言葉を掛けたい。取り計らってくれ。では治療に入る」
 ザウディンダルに会ってとめてくれた事に関して礼を言ってから欲しい物でも聞いて、叶えられるものならばかなえてやろう。全く世話をかけたなザウディンダルよ、本当に兄弟達には迷惑ばかりをかけておる。
 四王にも、それなりに……迷惑をかけたいのだが、そうそう会えぬから迷惑もかけられぬし。まあ、かけぬほうが良いのだろうが、結果的にデウデシオンが全てを被っておる。
「御意」
 傷口を消毒して、その後に治療機に入り治療を終えて戻ってきたら、出迎えに来ていた者達が再び揃っており、全員が並んで頭を下げておった。
 普通に注意されるよりも怖ろしいぞ。
「デウデシオン」
 叱られる前に謝っておこう。
 余は個人的に叱られた事は一度もないがな。叱られている人をみて、叱られると言う事だけは理解している。
「何でございましょうか」
「騒動に自ら巻き込まれるような事を仕出かし悪かった。式典の前に負傷するのは皇帝としての自覚がないといわれても仕方ないが、それでも我慢できなかったのだ」
 皇帝が式典前に暴れてるのは、あまり良くなかろう。式典があろうが無かろうが暴れるのは……自分で全てを出来る皇帝ならば良いであろうが、余のように……暴れた後始末を他の者達が片付けねばならぬ皇帝は、やはり穏やかに過ごすべきだ。
 だが、同じ事がまたあれば……暴れてしまうであろうな。
「そのような事はございません。お見事でした、さすが帝王の血を引きし我らが皇帝。あの威圧に我等ひれ伏さんばかりでございます」
 褒めるために皆来ていたようだ。
 全員が膝を付いて口々に余を褒め讃え、ロガを蹴ったり奴隷の娘を襲った男とその部下はケシュマリスタ星系に住んでおったので、ケシュマリスタ王がわざわざ詫びてくれたが。
「謝罪の必要は無いラティランクレンラセオ。あの貴族そなたの支配星域に住んでおったようだが、全ての貴族は余の家臣である。そなたに代理で統治を任せておるだけのこと。あれは余の家臣であり、余との間に起きた私的な出来事である。そなたが気に病む必要は無い」
 ラティランクレンラセオがそれに一頻り感謝を述べてきたが……実際代理統治なのだから、あまり気にするなラティランクレンラセオ……とは言っても、気になるか。
 そなたの息子が現時点では公認されおらぬが『皇太子』の地位にある訳だから、今日の出来事までそなたの責任にされてしまう可能性は高いな。
 それに対しての言葉を纏める時間もなく、只管賛辞を黙って受けておった。あ、まあ……確かに、あれも皇帝の一面であるから否定するわけにも行かぬ。
 その、かなり暴れたような……だが、心の底から褒めている全員の態度を否定するのも皇帝としては良くなかろう。在位二十年にして始めて皆に見せる事が出来た皇帝らしさ……だものな。この先見せる事もなさそうなので、思う存分褒めさせておこう。
 全員から一通りの言葉を受け取り、ラティランクレンラセオに最後に声を掛け、
「ラティランクレンラセオ、そなたの忠誠は疑っておらぬ」
 デウデシオン以外の者を退出させた。暖かい茶を持って来させ二口ほど飲んだ後、余は望みを言ってみた。
「デウデシオン」
「はい」
「帝星で思いっきり高く花火を打ち上げれば、ロガに見えるであろうか?」
 本当は妃にしたいと言いたかったのだが、よくよく考えてみればロガの気持ちなど何一つ聞いておらなかった。
 今日の事で驚かれてしまったから……もう少し、何をしていいのかは解らぬがもう少ししてから、ロガがどうなのかを知ってから話題にしよう。
 迂闊に妃にしたいと言って……無理矢理連れてこられてしまったら可哀想だ。一度無理矢理に連れこられてしまえば、余には元に戻してやる力もない。
 だから、もう少々考えてから口にしよう。
「無理です」
「無理か? 宇宙まで花火を打ち上げれば」
 花火を見たいと言っていた。今日のことで塞ぎこんでしまうかもしれないので、出来れば笑わせてやりたいのだが。
「花火は大気圏内仕様です。公転周期と自転周期、居住地から計算してもロガには見えません」
「そうか……」
 そうか……無理なのか……花火は大気圏内でなければならなかったのか……知らなかった。デウデシオンが無理だと言うのだから、無理なのだろうな。
 済まぬなロガ。今度小さな花火を持って行く。その位ならば作れるであろう。小さい打ち上げ花火で……
「見せたいのですか? ロガに」
「ああ。花火を……」
「畏まりました」
「?」
 デウデシオンは笑った。デウデシオンの笑いは『企んでいる』ようにしか見えぬらしいのだが、余には絶対の信頼に見える。
「皇帝陛下の御生誕式典の際に、周辺人工惑星の幾つかを無作為に選び花火を上げさせる事、今決定いたしました。これから準備してまいります。陛下はお疲れでしょうからお休みになってください。式典は陛下が主役ですので。少々準備に手間がかかりますので、陛下のお呼び出しに直ぐお応え出来ぬ事、お許しください」
 デウデシオンの仕事を増やしてしまった!
 そ、そんなつもりはなかったのだが……だが、よくよく考えれば、デウデシオンの仕事が増える事くらい解るはずであろうが! シュスターク! ああ、やはり希望を言うのは……やめておいた方が良い様な気がする。だが、今更やめろといっても聞かぬであろう。
「あまり、無理せんようになデウデシオン。余は帝国において一人しかおらず代えがきかぬ。だが余の帝国にとって宰相の代えは一人もいない事、忘れるな」
「ありがたきお言葉。ではお言葉に甘えて、このデウデシオンに “とある人工惑星” で花火が確実に打ちあがっているかどうかの確認に向かう事をお許し頂きたい」
 とある……惑星ってロガの住んでいる所だろう……な。あ……それがお言葉に甘えるとか、そういう事なのか? まあ、それで良いのならば……
「好きにするが良い」

 デウデシオンよ、ありがとう。
 帝国宰相の努力に応える為にも、式典には万全の態勢で臨む! よって……寝るか……
 花火、喜んでくれると良いな。今度向かった際にロガの気持ちを聞いて……うぁ! 謝っておらん! ……どうしたものか……

 三週間程時間がある、その間に少し今後の事を考えてみよう


第一章≪皇帝≫完



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