繋いだこの手はそのままに −5
 こうやって皇帝のお妃候補(平民)を集め始めたのだが、別に無作為に集めたわけではない。
 平民でも金持ちにはいる部類の、知性的で容姿も良い、健康な娘達を特に選んだ。
 四大公爵各自勝手に。
 人には好みがある。それが無い人の方が珍しいのだが。そして選別する側の“彼等”も人なので『好み』がある。

四大公爵:ロヴィニア家・ランクレイマセルシュの場合
「屈辱だ……」
「殿下」
「このロヴィニアが皇帝の配偶者を出せぬなど。銀河帝国始まって以来の屈辱」
 伝説の『多産家系ロヴィニア』
 少子系のケシュマリスタの正反対にあるこの一族は、皇帝の配偶者が「四人制」になって以来、一度たりとも配偶者を出せなかった事はなかった。傍系などに頼らずとも、何時も本家から出していた。
 それほど、王子・王女に恵まれる血筋。
 ロヴィニアの血を強く引く男女が結婚したならば、子供が二十人出来るのは普通の範囲と言われる程。
 永い歴史の中でも、この「一度だけ」皇帝に正配偶者を出す事ができなかったくらいである。因みに、ランクレイマセルシュの叔父はデキアクローテムス。
 デキアクローテムスはシュスタークの父親でもある……やはり多産系。
「泣き言を言っても仕方ないな……」
「殿下、多数集めましたが絞り込めません。何か基準を設けてくださらないと、とても一億人まで減らす事ができません」
「デウデシオンめ、一家一億人と数を決めおって」
 普通かと思われますが。
「そうだな。やはり……女は胸だろう。胸の形が良いものを選べ」

それはランクレイマセルシュ様のご趣味では? そう思ったが、部下は礼をして胸を基準に娘達を選別した。

四大公爵:ケシュマリスタ家・ラティランクレンラセオの場合
「……絶対子を産める女を選別しろ。あらぬ疑いをかけられては困る」
「殿下」
「私は、皇帝陛下の地位を狙ってなどいない……それを表す手段がないだけであって」
 皇族の次に位置するケシュマリスタ。
 皇族が途絶えた場合、このケシュマリスタ家の当主(傍系含)が後継者となる事が定まっている。事実、二十三代皇帝はケシュマリスタの親戚筋であったイネス公爵家から出た。
 その時は問題なく収まったのだが、その後再び途絶えて、ケシュマリスタ系の皇帝が冊立されるも異義を立てられ暗黒時代が到来する。
 もっともその時のケシュマリスタ王は皇位を明らかに狙い、自分の弟を使い二十八・二十九代皇帝を腑抜けにさせたので、異義を申し立てられたのだが。
 シュスタークが嫡子をもうけないで崩御すれば、ラティランクレンラセオの息子が即位する事になるのだが……
「私ならまだしも……そこら辺から連れてきた貴族を母としている息子が即位するなどと……暗黒時代の再来だ」
 ラティランクレンラセオの妻が、それ相応の家柄であれば問題はないのだが、女性不足で集めてきた貴族の娘。母方の血に異義やら文句を唱えて、他の公爵が継承権を叫ばないとも限らない。
 これで他の公爵家の妻の血筋が、自分の妻の上だとはっきりとわかれば良いのだが、何処の妻も四大貴族的には『……』
 どんぐりの背比べというやつで、甚だ争いになりやすい。
「殿下、多数娘を集めましたが絞り込めません。何か基準を設けてくださりませんか?」
「ああ、一億人しか送り込めぬのだったな」
 “しか?”……ですか?
「そうだな、やはり……女は足だろう。太股のラインが良いのを選べ」

それはラティランクレンラセオ様のご趣味では? そう思ったが、部下は礼をして太股を基準に娘達を選別した。

四大公爵:テルロバールノル家・カレンティンシスの場合
「集まったか! 即座に送り込むぞ! 他に遅れを取りたくは無い! 既に四代続けてこの由緒あるテルロバールノル系の皇帝は即位していないのだ! 今度こそ!」
「殿下」
「シュスターク帝はロヴィニア系、ディブレシア帝もロヴィニア系、その前はエヴェドリットで、その前はケシュマリスタ! あああ!」
 テルロバールノル家は、帝国で最古の家柄である。
 銀河帝国以前は『王制』は廃れて、民主主義国家、共産主義国家、共和主義国家、連邦国家が主であった。
 その中で、廃れながらも地球時代から続く『王家』を維持していたのがこのテルロバールノル家。銀河帝国を「帝国」にして「皇帝」なる制度を教えたのは、この家。いわば銀河帝国の土台を構築した家柄だ。
「せめて、テルロバールノル星域から出た娘が……次の皇帝を……悲願達成を!」
 皇帝の、皇帝ではない親側の権力というものは、やはり強い。外戚の権力というものが確かに存在する。
 それがこの四代続けて別の家に流れてしまっているテルロバールノルは、かなり弱体化しているのだ。
 次の皇帝こそ自分が外戚となって権力を握って! そう考えるのは、当主として当然の事。
「殿下、選りすぐった娘を集めましたが絞り込めません。基準は何処にいたしましょうか?」
「壱億人であったな。此方が自費で負担するのだ、参億人くらい放り込ませろ! デウデシオンめ!」
 参億人も目の前に出されたら……目が滑ると……
「仕方あるまい。やはり女は……尻だろう。尻の形の良いのを選べ。小ぶりでキュッ! と上がったのを」

それはカレンティンシス様のご趣味では? そう思ったが、部下は礼をして小ぶりでキュッ! と上がった尻の娘を選んだ。

四大公爵:エヴェドリット家・ザセリアバ=ザーレリシバの場合
「ああ? 行きたくないだと! そんな娘、殺してしまえ!」
「殿下」
「あ、殺すなら必要ないか。帰せそんなモン! 早く子供ができなけりゃ、コッチは陛下にお会いする事もままならない! 泣き言なんぞ言う娘はいらん!」
 四公爵家の中で、最も血の気の多いエヴェドリット家。
 基本的にエヴェドリット家は「黒髪」が特徴だ。皇帝の黒髪とはまた違った風合いだが、ふんわりとして美しい黒髪が特徴。
 皇族との繰り返しの結婚で、瞳の色も皇帝色を持つようになった……が、
「何で我は……ケシュマリスタなんだよ……。まあ、他の三人も同じだから良いが……この容姿のせいで、陛下と一対一で話せぬ」
 彼の容姿は「ケシュマリスタ系」であった。その為、デウデシオン一党(兄弟の事)が、彼と皇帝を一対一で会わせた事はない。危険だからだ。
 そして何故か他の三公爵も見事に「ケシュマリスタ系」で皇帝をあっち方面に向かわせる容姿を完全に兼ね備えていた。
 その為、彼等全員、即位二十年のシュスターク帝と一対一で話をした事がない。会う時は何時も「四大公爵は一緒に」「宰相デウデシオン立会いの元」という、決りを設けられている。
 皇帝と一対一で話をしたことのない四大公爵の当主など、前代未聞。
「殿下、娘は集まりましたが、集め過ぎまして絞り込めません。何か基準を設けてくださいませんか?」
「一億人だったか。二億人無理矢理送り込みたいが、デウデシオンを怒らせると厄介だから守ってやるか」
 デウデシオンを怒らせると、シュスタークと会う事すらままならなくなってしまう。
「そうだな、女はやっぱり腰だろ。キュッ! と締まった、だが細すぎない色気のある腰ラインを持ったのを選べ」

それはザセリアバ=ザーレリシバ様のご趣味では? そう思ったが、部下は礼をして美しい腰ラインの娘を選んだ。

 こうやって、四億人の十八歳平民の娘を送り込まれたシュスターク。宮殿大劇場に集められた娘達を見下ろしながら、その数に圧倒され、
「勝手に選んでくれぬか。選べぬわ」
 そう漏らしたという。


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