繋いだこの手はそのままに −3
 男好きで有名だったディブレシアは、同性嫌いでも有名であった。周囲の召使の全てを男にしていたくらいの、徹底振りだ。女が近寄る事を嫌った皇帝、それに迎合するかのように徐々にそれは「帝国」を侵略していった。

 シュスタークの母親、ディブレシアの呪い。

 それはこの四十七年間、一人も皇族にも王族にも「女性」が生まれない事を指す。先代皇帝ディブレシア以降、何処にも「性別:女性」が存在しない。
 当然、現時点で先代皇帝は崩御しているので、皇族・王族には四十八歳以上の女性しか存在しない。四十歳や五十歳でも美しい女性は多数いるが、その世代の皇族・王族の正妃となれる女性は既に全員死亡しており、残る世代はそれより上。
「見合いでもしていただくか?」
 現皇帝の異父兄弟の中に一人でも「性別女性」がいれば問題は解決したのだが、14人の庶子は全員男。
 残る正妃を得る方法は、四大公爵(四王家)の正式な王女を迎える事だったのだが、此処にまで呪いがかかっているのか皇帝に近い年齢の王女は一人もいない。
 縁戚となれば数名居るのだが、出来るだけ本家から出したいのが本音だった。
 正配偶者は四大公爵の専有であって、他家から血が混じっているのを連れてきて次の“皇帝”にするなど、四大公爵としては拒否したい所であった。特に今回のように、切羽詰っていれば尚の事『次代皇帝』を産んだ家の発言力は強くなる。
  それに、現在は縁戚にしか居ないのだ。これがケシュマリスタのカロラティアン伯爵家だとか、エヴェドリットのバーローズやシセレードの両公爵家だとか、ロ ヴィニアのマーゼンセウラ侯爵家だとか、テルロバールノルのアルシメティア伯爵家など、近い家柄ならまだ彼等も諦められたが、それすらも呪いの範疇なの か、一人も娘がいなかった。
「誰とさせる気だ?」
 大体彼等も、結婚するのに死ぬ程苦労した。
 それこそ、通常であれば妃にする ような家柄ではない娘を妃にした。勿論領内の貴族であって、その言動が面白くなれば一存でその家を抹消できる。だから、自分達は良いのだ。……が、皇帝の 正妃となればそうもいかない。それで、自分達の家に居る祖母やら祖父の代あたりの王女の名をあげる。
「一番若いのは、ケシュマリスタのハレンシアレンシア……だが?」
「あれは、見た目がケシュマリスタ女だから……陛下との相性は悪いだろう」
 前述通りの見た目の女性は、今年六十九歳になる。性格は悪くなく、普通の神経をしている彼女は、現在の帝国がこの状態なので、自分が離婚させられて皇帝陛下の正妃になる可能性もあると恐怖に慄いているそうだ。
『私もあと三十年若ければ、言いつけに従いますが』
 三十年前では、シュスタークは存在すらしていないが、その言い分は正しいに違いない。幾ら当主の言いつけでも、従えるものと従えないものがある。そして当主も無理強いのしようがないのも事実。
 次の該当者は、
「次に若いのは、ロヴィニアのバッセロシアリアンティ、今年七十三歳……五十歳違いくらい政略結婚では範囲内ではあるが、陛下がお気に召すかどうか」
 七十歳を越えてしまう。
 いや、これが恋愛結婚ならばまだどうにかなるだろうが、宇宙最大の作戦……基、宇宙一あからさまな政略結婚。
「正妃を勧めるので失敗して、男に走られたら元も子もないぞ」
 そして皇帝には、その危険が常に付きまとっていた。その為「五十歳年上の女性と同衾してください」などと、簡単に言えないのだ。周囲で色々と皇帝の趣味を調べたが、やはり五十歳を越えた女性にはそれ程興味を示さないデータもある。
「残るは、エヴェドリットのデラーティ=ダヴェシア七十九歳、テルロバールノルのサウセンテイアメド八十二歳……百五歳まで女性はいるが」
 帝国のために我慢して結婚してくださいと懇願しても、結婚しただけで次代皇帝が出来なければ無意味。『正妃とは必ず同衾するように』という法律が、彼等にとって恨めしかった。いや、恨めしいなどという言葉では語りきれない、憎悪に近い感情。
 顔面をひきつらせた宰相デウデシオンが口を開く。
「諸王よ、此処は男として正直に答えていただこう」
「答えるさ、宰相。何だ?」
 四大公爵と視線を交わした後、彼はテーブルを叩き立ち上がりながら大声で叫んだ。
「ぶっちゃけ、二十三歳で百五歳の正妃欲しいか!」

 ぶっちゃけ過ぎです、帝国宰相閣下。

「いらん」
「要るわけないだろ」
「ゴメンだな」
「上面なら、幾らでも“女性幾つになっても美しい”とは言えるが。実際問題となると無理だ」

二十八歳から三十六歳までの公爵達は、口を揃えて即座に切り返した。


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