繋いだこの手はそのままに −13
 皇帝シュスターク、始めての女性通い……を見守る方々。
 移動艇の操縦・警護を担当したのはタバイ、デウデシオンの隣で銃を構えているのがキャッセル。
キャッセルは帝国No.1の射撃の腕を持つ。
 彼が大射撃を行う理由はただ一つ、皇帝の傍に近寄れないからだ。彼は四大公爵と同じで、甚だ麗しく耽美な容姿の持ち主であった。その為、皇帝に誠心誠意仕えていても、決して会う事ができない……ので、近寄れずとも皇帝の身を守ろうという一心で射撃の腕を磨いた。磨いて磨いて、銃を改良して改良して、それは見事な射撃手となった。
 彼は戦艦は当然で、果ては一対一ならば機動装甲まで落せる程になってしまった。無論、極大射程範囲に入って即座に応戦、なる条件付だが。
 対異星人最終兵器、又は人類最強兵器の存在をも危うくしかけている、機動装甲を射撃で落せる男キャッセルは、自身が帝国最強騎士でもあった。
 そのキャッセルは脇で銃を構えつつ、皇帝の動向を窺っている。
「危険はなさそうだが」
 他の者達も、衛星画像で皇帝の行動を見守っていた。菓子渡して謝罪するだけなのに?
「閣下。あの書類の……決裁……」
「後だ。全ての執務は停止だ。数時間後に再開はする、それまでお前達は休憩でも取っておくが良い」
 帝星は当然ながら、全ての執務が停止状態。
「謝罪できますかね?」
「明らかに娘はマスクを不審に思っているようですが」
「昼間の一般墓地に、秘宝級国宝を被った銀河帝国皇帝陛下が現れればそうもなるであろう」
「鬘の長さが足りておらぬなぁ」
 彼等は皇帝の動きを逐一見守っていた。第三者から見れば犯罪者軍団、若しくはおかしい人達だが本人達にそんな考えなどない。
「どうだ? 謝罪できそうか?」
「どうでしょうか? 相手の名前を聞いたので精一杯かと」
「陛下! ナイトオリバルドも危険です! かなり危険なお名前です!」
 危険といっても爆発するとか、化学反応を起こすのではなく、正体がばれやすいというだけなのだが、彼等の叫び声はどちらかと言うと『危険ですから避難してください! 逃げてください!!』によく似ている。
「ああ! 偽名を準備しておかなかったのが敗因か」
「まさか陛下が名乗られるとは思ってもおりませんでした」
「陛下! 陛下! そのお名前は危険です!」
「あ、菓子を出しましたね」

 当然衛星から、音声は拾える。タイムラグなしに会話は聞く事ができる、
『申し訳ございません。味が高貴過ぎて……』
『口に合わぬのならば仕方あるまい。明日、別の物を持ってくるゆえに、待っておれ』

「娘の口には合わなかったようだな」
 ロガの言葉を聞いて、デウデシオンは倒れた。彼は皇帝に『娘が好みそうな菓子でも準備しておけ』直接命じられたのだ。
 皇帝が口にした“娘”は大多数ではなく、今映像に映っている“ロガ”に他ならない。全宇宙の娘の口に合わずとも、ロガの口に合えばよかったのだ。
 簡単に言えば、大失敗。
「デウデシオン兄上! お倒れならないでください!」
「医者! 医者!」
「うるさい! 狙ってられないだろうが! あっ! 蜂!!」
「撃て! 撃て!」
「デウデシオン兄! 陛下の一大事に復帰なされた!」
 蜂が現れただけであるが、彼は指示を出す為に復活した。
「凄いです!」

 何にせよ、皇帝は無事に帰還した。

 出迎え、失態を詫びたデウデシオンに皇帝は寛大だった。基本的に皇帝はデウデシオンを叱責したりはしない。
 自分の立場を理解している皇帝は、彼がいなくなれば自分が困る事を知っている。そして彼の立場を強固に出来るのが自分の発言である事も知っている。皇帝本人にしてみれば、何もしていない自分の発言で、実際統治している兄の立場を“守れる”事に違和感を覚えるのだが、世の中はそのように出来ている。
 そして皇帝に代わり帝国の政治的権限を行使しているデウデシオンを、気に食わない者も多数存在する。彼の悪口や、ある事ない事を皇帝に吹き込んだ者もいたが、
『デウデシオンが皇位を狙っておるとな? だとすれば銀河帝国が絶対専制君主制度に正しく戻る事ができ、良い事ではないか。余の退位日を何時に決めたのか聞くか。おい、デウデシオンを呼べ。余も大皇となるのか、確かに大皇になってから子を得ても良いかも知れぬ』
 皇帝の絶対の信頼を得ている彼の前には、どれほどの悪口も全く問題なかった。そして言った者は処刑された。皇帝と会話ができる程の身分であったのだが。

「それは良い。デウデシオンが謹慎などすると余が困るゆえに、それらはなしだ。その代わりと言っては何だが、しばらくあの家に通う。それらの手筈を整えろ」

 そしてこう言われた後、彼は奔走した。
「娘の口に合う……娘を知っている者から聞きだ……いや、娘を知っている者の行動を洗いなおせ。早急にだ。出来るな! デ=ディキウレ(庶子五番目)」
「お任せください」
 皇帝が「驚かせた娘」の元に通っているのは、重大な秘密であった。彼等が幾ら大騒ぎしていても、最上層階級が沸点を通り越した騒ぎを起こしているだけで、普通の上層階級でも何が行われているのか知らない。
 実際ロガは宮殿に迎えられ即座に正妃認定された。
 称号は挙式直前まで揉めたが、正妃として認定されたのは即日。
 殆どの者は正妃発表と結婚式の日取りを通達され、その時に始めて皇帝が妃を、それも奴隷を連れてきた事を知ったくらいに存在を隠されていた。
 皇帝が一人奴隷居住区に足を運んでいるのは、外聞以上に身辺に危険が及ぶ為仕方なかった事ではあるが。
 これだけ大騒ぎしていれば、知られても可笑しくないような気もするのだが。そこら辺は、皆有能だったようである。騒ぎを見ている分には、何処にもその片鱗を感じられないとしても、これでも未知の異星人と交戦し(三十二代皇帝の御世に初遭遇)激しい内乱で見るも無残な状態になった帝国を再建していたのだから、それなりに有能だったのだ。
 最も内乱で人類を悲惨な状況に追い込んだのは彼等の祖先でもあるわけだが、皮肉な事にその人類を滅亡に追い込む程の内乱で発達した兵器が、異星人との交戦に際して切り札となり、内戦の頃以上に早い速度でその兵器は進化を続けている。
 機動装甲。後に人類が異星人を殲滅する兵器。
 それを操縦できる者は皇族・王族の血に多かった。それが「血」である事を彼等は理解している。
 そんな事はさておき、デウデシオンの命令で、裏捜索と裏工作が得意なデ=ディキウレは大急ぎで仕事開始した。
 肝試しを整えた者が偶の休暇に買って帰った菓子を調べ『購入』した事で足が着かぬよう、菓子屋に忍び込んで無断で拝借。代金は税金をその分少なくする事で解決。一般人がしようものなら犯罪だが、此処に皇帝が持参する菓子があると間違ってでも知られてしまえば『儲けている』と勘違され、強盗がはいる可能性が高いのであえて料金は払わない、その強盗は得てして役人である事が多い。
 皇帝所望の「通気性の良いズラ」も準備し、翌日彼等は再び皇帝を見送った。

「閣下、執務が」
「待っ……とも言っていられぬか。仕方ない、キャッセル任せたぞ」
 帝国宰相は忙しい。


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