繋いだこの手はそのままに −113
 余、余、余っ! 一体何をしておるのだ! 余よ! 脱衣所で一息ついたら、皆が集まってきた。
「陛下! 何かあったのですか?」
 ん……ちょっと、何かその、うん……気にするな、タウトライバよ。
「結構期待してたんだけどなあ、僕」
 毎日警備についてくれているキュラティンセオイランサがその様に言ってきたので、
「い、いや。ロ、ロガの気持ちを確認しておらんし」
 答えたのだが、方々から非難の声があがる。
「陛下、確認できる性格じゃないでしょ!」
「確認するって、どうやって確認する気ですか!」
「陛下が肌を重ねたいと告げて拒否出来る相手は、帝国には誰もいないのですよ! それなのに、態々尋ねると言われるか!」
 言いたい放題だが、その……皆が此処まで言うということは、余の後方宙返りは相当駄目な行為だったのだろうなあ。
「そ、そうなのだが。だが! ロガは今……だし。その時期は駄目と教えられたぞ」
 余は女性の月経中は触れては性交してはいけないものだと教えられた。
 皆、口を揃えて駄目だと教えたではないか! そのように言い返そうとしたのだが、直ぐに口を封じられてしまった。
「そりゃ! ザロナティオンが血に酔って子宮を抉り出す癖があったからです。でも陛下は后殿下に対してそんな事なさらない自信はおありでしょう?」
「するわけ無かろう! 誰がするものか!」
 確かにその様な説明も受けた。むしろザロナティオンがラバティアーニの子宮を抉った直接的な要因が月経だったので、余はその関係で月経を教えられた。
 そうだなあ……子供の頃それが不思議でデウデシオンに解らない事を聞いたら、疲れたような顔で答えてくれたなあ……

 ラバティアーニは女王だったが緊急措置として薬が投与され子宮の能力を上げられ、抱かれることになった。ザロナティオンが抱いても唯一食べなかった相手だったからな。
 だが結局も身籠もらず、生理の”血”を前にザロナティオンが狂い、結果的に女王の命を奪うだけの行為になってしまった。

「ならば続けて下さい! 后殿下もあの最中で止められますとショックを受けます」
 タウトライバが余の両肩を掴んで揺する。そうだな、今は過去に死んだ者ではなく、ロガのことを考えるべき時間であった。
「まさかまた、月経が止まってしまうのか?」
「僕、それどころじゃないと思うなあ」
 なんたることだ! 余は! 余の大失態! 何時も大失態しているので、そろそろ大失態もインフレーションを起こしそうだが! だがまずは謝罪だ! 最初の謝罪まで一年近くを要した余だが、今はすぐに謝罪できるようになった! さあ! ロガに深くお詫び申し上げるのだ! そしてボーデン卿にも謝罪せねば!
「謝って……痛……痛たたた」
 そう思いながら急いで立ち上がろうとしたのだが、
「何処か痛いのですか! 陛下ぁぁぁ!」
「落ちつけ皆の者。その……か、下半身が少しばかり」
 いつになく元気だ。元気にしたの久しぶりだからなあ……元気もそう簡単に収まるわけにはいくまい。
「こんな暴発寸前なのに、何で逃げたんですか! 戦争で言ったら味方を誤爆して壊滅寸前に追い込んだ上に敵前逃亡状態ですよ!」
 味方を壊滅させてしまって敵が迫ってきたら、逃げるしかないと思うのだが……違うのか? そう言う問題ではないか……本当にそういう問題じゃないな。
「だ、だが……だが……」
 何よりも収まらん。全く収まる気配がない。
 今までこの状態になると、後宮に控えている多分綺麗な女性達が、群がって色々として楽にしてくれたのだが、今周囲にいるのは帝国軍上級将校ばかり、要するに男ばかり。
 女性はバールケンサイレ侯爵メリューシュカくらいだ。
 異父兄の妃になにかさせるわけには……とか思っていたら、ベルトに手がかかった! この手は誰……キャッセルが、楽しそうに!
「陛下! このキャメルクラッチが長年鍛えた技で、抜かせていただき……」
 ひぃぃぃ! キャッセル! そなたは帝国騎士であり余の異父兄! だから何だと言われそうだが、そ、そのくらいしか思い浮かばぬぅぅ!
 余が硬直していると、
「やめろうぅぅ! キャッセル! 私を切腹させる気か!」
 タバイがキャッセルを余から引き離しにかかった。
「兄さん、切腹したくらいじゃ死なないから平気! 陛下! このキャッセルが、技の全てを持って」
「黙らんか! キャッセル! 兄が兄に申し訳が立たぬ!」
 最初の兄はタバイで、次の兄はデウデシオンの事か? 
「問題はそこじゃないですよ、キャッセル兄さん。というか、兄さんがそんな事するくらいなら……クラタビア、上官命令だ妃を貸せ。そしてメリューシュカ、私に従え」
 タウトライバが階級章を握り締めて、軍人として命令を下した! 待て! ちょっと待て!
「タウトライバ兄……ですが、この状況では。くっ! メリューシュカ! 私は何があってもお前を愛している。だから栄誉で陛下のお世話をさせていただけ」
 ルーレンロウラフ(クラタビアとメリューシュカの子)に申し訳が立たぬ!
「帝国軍人としてその任務、お受けいたします!」
 メリューシュカが何か余の物を取り出して、うわ! 待て、夫の前でそんな事をさせるくらいなら、余は! 余は!
「待て! お前達。メ、メリュ……メリューシュカにそんなことさせるくらいなら、えっと! えっと!」
 メリューシュカの頭を押さえ、何とか余のそれに口が届かぬ所で押しとどめたものの、余は元気だし、メリューシュカは本気だし!
 どうしたら良いのだ!!
 誰か助けてくれ! ここにデウデシオンが居ないのが悔やまれるが、居たところで、この状況をどうにか出来るのだろうか? デウデシオン、女嫌いであるし。
 この状況でありながら、余の下半身は元気だ。そう言えば、この二年近く何もしておらんな。考えれば考えるほどに……

《皇君、皇君。青菜に塩をかけると、こうなるぞ》
《陛下、それはシナシナになると言うのですよ》
 そう、今余が望むのはそれ! だが余は青菜でなし! よって、少しだけ言葉を変えて叫ぼう。

 誰か! 余のチンコを即座にシオシオにしてくれぇぇ!

 そのように叫ぼうとしたら、タイミング良く扉が開いた。突然の轟音に振り返ると、ローグを連れたカレンティンシス。
「何をしておる! 貴様等!」
 この状況をカレンティンシスに見つかるとは。”皇帝としてなっとらん!”等と叱られそうだ。
 カレンティンシスが余を叱ったことはないが、他の王に対してはいつも叱っておる。
「……カ、カレン……ティンシス」
「陛下! どうなさったのじゃ?」
 言いながらカレンティンシスの視線も余のチンコに釘付けじゃ! ああ! 皇帝としてなっとらん! カレンティンシスを見たら、ついつい余もテルロバールノル語が!
「こ、これを即座におさめて、く……シオシオにしてくれぇぇ! 急いでシオシオに戻してくれ!」
 カレンティンシスに言ってどうするんじゃぁぁぁ! 余よ!
 真面目なカレンティンシスは余の言葉を聞いて、周囲の者達を蹴散らして近寄ってきた。
 メリューシュカもテルロバールノル王の登場に余から離れてくれた。
 メリューシュカ、ありがとう! 後で褒美を取らすからな。余の傍まで来たカレンティンシスは……

《帝君、帝君。帝君が開いてくれた魚のそこ、なんか動いておるぞ!》
《陛下、あれは心臓で、普通はドクンドクンと表現しますよ》
 あの時見た、魚の心臓よりもドクンドクンしておる余のチンコ! あの時の魚、とても美味しかったぞ。ではなく……

「陛下! お労しい! 仕方ありませんな! この儂が口で!」
 カレンティンシスが前髪を手でかきあげ、持っていた杖を捨てた。周囲の者達が驚きの表情と、あまりのことに声を失い……余も失ったが。

 駄目ぇぇぇ! そなたはもしかしたら両性具有かもしれない。
 ばれたりしたら、このことが原因で封印されてしまう……駄目だぁ!
 そして何か、唇が触れ……駄目ぇぇぇぇ!

 余の全ての運動神経と精神力よ! 余をシオシオにしてぇぇ! シオシオォォォ!

「すっごいなあ。さすがテルロバールノル王」
「あそこまで怒張してたのが、あの勢いで終息するとは」
「あり得ない事だが、私もあの王様に言われたら、即座に縮むな」
「二度と勃起しなくなりそうだが」
「凄いお力です」

 カレンティンシス、そなたが両性具有だとか言う以前に、カルニスタミアに申し訳が立たぬ。そして余はロガを后にしたその日から、ロガ以外には触れないと決めたのだ! ……ロ、ロガにも触れておらんが、それは……うわああ!

「貴様等煩いわ! 大体何をしておったのだ! 陛下にご無礼を働いておったのであろう! この庶子共め!」
 カレンティンシスは特に傷ついた様子もなく、周囲の皆達に怒号を浴びせかけた。
「そのように言われる王殿下こそ、陛下の私室に何を」
「后の生理が再開したと聞いたから、陛下にお祝いと、后に正妃としての務めを説きに来た。全く、大宮殿に上がっただけで生理が止まるとは、性根を正さねばと」
 止めて、止めてくれ。そなたの言い分は王族として、皇帝としては解るのだが……
「今とて途中で拒否したのであろう」
「違うのだ。その……ああ」

 ロガに注意すると騒ぎ出したカレンティンシスを止められるのは、精々王弟のカルニスタミアくらい。
 近衛団長であっても無許可には触れられない相手であるし、庶子に許可など出さない相手。本来ならば余が押しとどめなくてはならないのだが、

「陛下! 陛下ぁぁ!」
「なんたる惨事!」

 自ら 《自ら》 ……今更隠語を使っても仕方ないのだが、要するに余自らチンコをしまおうとしたら、失敗して巻き込みにより……こう見えても類い稀なる身体能力を誇る余は、意識さえすれば衝撃を受けても平気なのだが、普通状態で焦ったので……。
 余は呪われておるのだ!
 ディブレシアは余に自分でチンコをしまえぬ呪いを掛けたに違いない!
 そう思わねば、やっていられぬ! *1
 タバイが仕事中のカルニスタミアに連絡を入れたら、すぐに引き取りに来てくれた。
 兄王の髪を掴んで頭を持って、ローグに、
「足を持て、プネモス」
 その様に告げ、ローグも ”陛下の御前ですので、御免” と言って従う。そのまま持ち出されそうになったカレンティンシスは、それはそれは怒った。
「カルニスタミア! 貴様! 儂を誰だと思っておるのじゃ!」
「テルロバールノル王」
「解っておるのなら、儂に陛下に退出の挨拶をさせろ! テルロバールノル王族が礼を逸する行為を取るとは何事じゃあ! 貴様! これから王族としての礼儀を一から学び直させてやる! 儂と共に来い!」
「はい、学ばせていただきます。さあ、王。陛下にご挨拶を」
 カレンティンシスは、運ばれ状態で儂……ではなく余に挨拶をした。テルロバールノル語が伝染して大変だ。
「陛下、このような体勢で甚だ失礼ではありますが……」
 安心しろ、カレンティンシス。余はチンコが ”くたり” と出ている、本当に王から挨拶を受けるには失礼な状態だ。

 カレンティンシスは何時も通りの挨拶をして去っていった。

「皆の者、苦労をかけたな」



*1 そんな暗示はかかっていない

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