「おっさん! すごい!」
グラディウスの尊敬を一身に集めている 《おっさん》 こと、サウダライトが何をしているのかとうと、
「ありがとうね、グレス」
リュバリエリュシュスにグラディウスとジュラスが作った香水を手渡していたのだ。サウダライトの掌に収まるサイズであれば、グラディウスと話をしている窓から手を差し込んで直接渡すことが可能。
「すごいな。誰も出来ない事、おっさん出来るんだ」
サウダライトが凄いのではなく、神殿のシステムが優れているのだが、グラディウスにそんな事は解らない。目の前で、誰もできなことをしているおっさん、そして喜んでくれているエリュシ様。それしか理解できなかった。
「おっさん! ご飯出来たよー」
そしてサウダライト積年の願いが叶う。
「ありがとうね、グレス」
ワンピース型のエプロンを着せてキッチンに立たせる。もちろんエプロンの下は全裸だ。
意味が全くわからないグラディウスは、言われた通りに用意されていた可愛らしいワンピース型のエプロンを裸につけて、得意料理を振る舞う。
「おいしい? おっさん」
「とってもおいしいよ」
グラディウスを抱き締めつつ、胸を揉みつつ、作ってくれた食事を口に運ぶ。
明日の朝まで自由の身のエロオヤジは、全く隠れていない尻に手を伸ばし撫でまくる。二人で食事を楽しみ、風呂にはいって遂に後ろに手を伸ばした。
「おっさん、いつもと違う所だよーいいの?」
「いいんだよ」
「そっか!」
グラディウスの若くて弾力に満ち、瑞々しい体は、しっかりとそれらを受け止めて、
「ぼげぇぇ……むんぎゅぅぅ……」
サウダライトを快感の海へといざなった。
そこまではサウダライトの希望通りだったのだが、
「失敗したなあ」
その後が、想像以上につまらなかった。
グラディウスは行為の後、かなり体に負担がかかったので深く眠りに落ちてしまい、寝顔を見るだけ。ぴくりとも動かないグラディウスを見下ろして、
「この後にお話できたら楽しかったんだけどねえ」
声をかけるも、全く届く気配はなかった。
グラディウスの必死に自分を受け入れる態度は可愛いが、それ以上に話をしている時が可愛い。
「明日の朝までこのままか……やはり失敗したな。話をもう少ししておけばよかった」
グラディウスの体を拭いて、パジャマを着せて酒瓶とグラスを持ち、サウダライトは家を出た。設置されているテーブルに酒とグラスを置き、椅子に座って空を眺める。
《あれ、麦座。あっちは、双子座。双子座は帝星も地球もあるんだってね! 何でかおっさん知ってる! そう、双子だから! そうなんだ、双子なんだってねほぇほぇでぃ様のずっと昔の人! 祖先? 祖先って言うんだ!》
―― そんな出来損ない、僕の知ったことじゃない ――
「ああ、つまらん」
必死に星座を説明するグラディウスを思い出して、一人で酒を飲んでいると、
「どうしたのですか」
「ザイオンレヴィか。飲むか?」
巡回してきたザイオンレヴィに声をかけられた。
「飲みませんよ。仕事中なんですから」
「お前もなあ……ザイオンレヴィ」
暗い夜でも視界を保つことのできる、特殊な瞳を持つ人造人間達は、宵闇であっても陽の元と変わらない世界が広がる。
「なんですか」
「四年後、お前に供物の指揮を依頼しても平気か?」
―― あんなもの知らない。見たくもない。何が開祖の ”性” だよ。気味悪いな ――
四年後という言葉に、ザイオンレヴィはあることが思い当たった。四年後はマルティルディの即位する年。
「ガルベージュスが移送責任者ですか」
帝星で 《ケスヴァーンターン公爵》 に叙爵されてから、領域に戻り 《ケシュマリスタ王》 に即位する。即位式典には皇帝も足を運ぶのが習わしだった。
「そうだな」
皇帝が帝星から出る場合は、帝国軍の総指揮官が従う。軍事国家である帝国は、皇帝と総指揮官が同じであることが前提なので、総指揮官が違う場合はそうなるのだ。
「あの噂は……本当だったのですか」
「噂だ、噂。真実じゃない、噂だと信じ込め」
マルティルディは十三歳の時、同い年のイデールマイスラ王子と結婚した。それから八年、既に成人になっている二人の間に 《一人も後継者はいない》
子供の頃からずっと引き回されているザイオンレヴィだが、ある年、半年間だけマルティルディの傍から遠離したことがある。
ガルベージュス公爵が軍人であるザイオンレヴィに遠隔地の任務を命じたのだ。マルティルディの気晴らし用玩具の自分が彼女から離れるのは、彼女が許さないだろうと思っていたのだが、その任務は何の障害もなく通り任地に向かい、大過なく仕事を終えて戻って来て、マルティルディに戻った報告をするために会った時、激しい違和感を覚えた。
ザイオンレヴィが任地に向かう前、マルティルディは僅かに太っていたような気がしたが、戻って来た時は何時も通りの、細く隙のない体つきに戻っていた。
―― なんだよ。久しぶりに見た僕の美しさに、声を失っているのかザイオンレヴィ
―― は、はい。相変わらずお美しく
―― ふん! 君に言われても嬉しくなんてないね!
触れるに触れられない 《物》 がそこには存在する。
「僕は巡回に戻りますが、任務ですから僕は何の葛藤もなく男爵達を殺害する指揮を執りますよ。ですが一つだけ、はっきりとさせていただきたい事がある」
「何だ? ザイオンレヴィ」
「ルサ男爵の処遇です。彼を供物にするのか? しないのか? しない場合は、陛下が責任を持ってくださいね」
グラディウスのお気に入りの男爵を脳裏に描き、サウダライトは微笑み、
「あれは抜くよ。グレスの教育に必要だからな」
そう言って酒を飲む。
ザイオンレヴィは少しだけ遠離って、足を止めて振り返らずに聞く。
「お名前は?」
何の名前かは明確に言わなかったが、サウダライトは事も無げに返す。
「イデールサウセラ・アグディスティス・エタナエル」
ザイオンレヴィは何故自分の父親が皇帝に選ばれたのか? その一端を理解して、その場を去った。
サウダライトが皇帝とされた理由は、ほとんどの者に知られていない 《イデールサウセラ・アグディスティス・エタナエル》 だけが理由ではない。それ以外にも多数の思惑と利害があるが、その一つであることは確実だった。
《双子いいなあ! いっぺんに二人も子供できるんだよ! いいなあ!》
「寒くなってきたな、戻るか」
サウダライトは部屋に戻り温かいグラディウスを抱き締めて、目を閉じた。