藍凪の少女・少女が街へやってきた[3]

“奴隷でなければ年齢も性別も病歴も何も問わない十名”
 何も問わないと書かれてはいるが、申込書を記載して担当側に照会しなくてはならない。普通なら自分で行う行動だが、斡旋所にはこれらが出来ないで代行してもらう人も多い。
「下働きだよな」
 過去の例から“奴隷でなければ年齢も性別も病歴も何も問わない十名”は宮殿の下働きなのはほぼ確実。
「下働きだと思うぞ。綺麗なエセ下働きに仕える、本当のお手伝い。性別が変わると入れ替えも大きいな。とくに陛下は四十間近で結婚仕切り直しだからなあ」
 口の悪いレンディアが言った “エセ下働き” というのは、皇帝のお眼鏡に適うかもしれない美しい平民や奴隷などの仮初めの地位。
 一応妾候補なので、扱いは下働きではない。その下働きとして入った美しい身分の低い娘達に仕えるのが、グラディウスの仕事になる。
 崩御した先代皇帝は女性で、現皇帝は男性。
 昔のように男性のみ、女性のみの継承ならば、入れ替えも楽だが帝国は男性も女性も継承権があり、全く同じ扱いなのでどちらの性別であっても妾も揃えられる。
 よって妾は候補も含めて全員入れ替えとなった。
「まあねえ。初めてづくしで大変だよなあ」
 画面の《照会中》の文字を眺めながら、ドミニヴァスは答える。
 銀河帝国は二十二代皇帝で直系が途絶えた。現サウダライト帝は傍系から迎えられた初の皇帝。
 そのため、今までとは全く違う儀式が多数行われ、初めての継承により問題点も多数噴出している。地方の役人であるドミニヴァスやレンディアには詳細はわからないが、それでも下働きの入れ替えが何時もよりも遅いことなどから、帝星でも諸問題が起こっていることは感じとることができた。

《照会完了 グラディウス・オベラ 就職を許可する》

 味気ない文字が画面に映し出されてから、二人は手をたたき合い大声で叫んだ。
「やった!」
「良かったな!」
 十三歳になったばかりの、特別な技能どころか基礎学力すら乏しく、美貌も取り立てて持っていない実家から追い出された少女が就けるもっとも良い仕事だった。
 ドミニヴァスはそれから急いで手続きを整える。
 正式な申込書類を送りながら銀行口座を開設し、番号を記入欄に打ち込む。
 平行しながら給料の振り込みから定期預金に天引きする手続き、それとは別に規定の給料を貰っているかどうかを確認検査してくれるオプションにも申し込んだ。
「あとはグラディウスが大金を降ろせないように設定して、本人以外には絶対に降ろせないようにも……それと後は何が必要だ?」
 身寄りのないに等しい、あまり賢くなさそうな少女のお金の管理は、いくら注意を払っても足りないことがありそうで、ドミニヴァスは必死に色々な状況を想定したが、あまり想像力がなかったので、直ぐに行き詰まり諦めた。
 正式に申し込みが受理され、僅かばかりの支度金が振り込まれたのを確認し、帝星へ向かう予定表を自宅に送信してドミニヴァスは椅子の背もたれに体を預けて、上を向き息を吐いた。
「お前、支度金から今までの食費とか返してもらったらどうだ?」
「いらないよ。何もしないで家にいたなら返して貰っただろうけど、細々と働く子でさ。鈍そうに見えても物壊したりしない、昔で言うところの “家庭的” な子だった。料理も作ってくれたしね」
「美味かったのか?」
「特別美味いって料理はなかったな。素朴な味って言っておく」
「マズイってはっきり言えば」
 そんな会話をした後、普通の職務に戻り就業時間までしっかりと働き 《明日は求職者を集合場所に連れてゆく》 との報告を出して、最後の晩餐にと妻がこの惑星では最も好きだった少しばかり高級な菓子を買い家へと戻った。
 美味しい菓子を食べながらドミニヴァスの話を聞いていたグラディウスは、
「ありがと。頑張って働いて、このご恩は返すから、待っててね」
 スポンジが口の端についたまま、笑顔でドミニヴァスに言った。
「気にしなくて良いよ」
 一週間ほどで終わった同居生活だった。
 翌日横掛けの大きさと丈夫さだけが取り柄のキャンバス地の袋に着替えを入れ、大切な個人カードを余っていたケースに納めて渡す。
 ドミニヴァスは給与にかんして簡単に教えたが、グラディウスはほとんど理解できなかった。
 受付所に向かい移動艇で、人員輸送船へと向かう。人員の輸送船が上空待機なのは無断で乗り込む輩を警戒してのこと。帝星直行の人員輸送船となれば、そういった事も多く気を遣わなくてはならない。
 当然ドミニヴァスも上空に停泊している輸送船には立ち入ることができない。
「カードをスロットルに差し込むと中に入れるからね。それは身分を証明する大切なものだから、無くしたり人に貸したりしたら駄目だよ。解ったね」
 一人専用の移動艇に入ったグラディウスに重ね告げる。
「うん。スロットルってあの平べったい穴だよね」
「そ……そう」
 《離陸準備開始》
  機械の声と同時に搭乗口が閉まる。
「またねー」
 手を振る褐色の肌に白い髪をした女の子に、
「元気でな」
 声をかけて手を振り返し、その場から少し離れる。
 垂直上昇したあとに機首の向きを変えて上空へと消えていった機体を、ドミニヴァスは少しの間眺めていた。
 紹介を譲ってくれたレンディアに連絡し、無事に輸送船に着陸したかの確認を依頼すると、
“無事にたどり着いて、部屋に入ってるぞ”
 報告を受けて安心して家へと戻った。
 開いた玄関の向こうから、形の悪いお下げの女の子が、品が良くないと言われそうな大きな足音と共に現れる事が無いことに、
「やっぱり人がいなくなるのは寂しいもんだな」
 そうドミニヴァスは呟いて、貸していた部屋の掃除に取りかかった。
 ドミニヴァスは二度と会う事はないと思っていたグラディウスと二年後に再会する。

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