Valentine ― 2010 ―
【帝妃キュラティンセオイランサ ルート】
―― キュラ
―― ……僕に何をするつもり!
―― さあ、胸を出せ
―― なにラティランクレンラセオ……やめて! いやあああ
「あ……夢か」
悪夢にうなされ、逃れようとしてキュラは半端な時間に目を覚ましてしまった。独り寝しているベッドに身を起こして、溜息をつく。
ベッドに散らばる花びらを乱暴に払いのける。
花びらの一枚一枚が、悪夢の元凶であるラティランクレンラセオを思い出させるからだ。
キュラが目覚めたことに気付いた侍女たちが、静かに近寄る。
「起きる」
「はい」
ガウンに袖を通しベッドから降りたキュラは、嫌な夢ごと洗い流そうとバスルームに入った。
浴槽にも花びらが浮いていたので、嫌な気分になり冷水を頭から被ってすぐにバスルームを後にする。過去を思い出し凍えるような気持ちが、水を被った体をより一層冷やし凍えさせた。
「バレンタインか……」
キュラのバレンタインの想い出はろくなことがない。
先年皇帝シュスタークと結婚するまでは、ずっと王国の城で暮らしていたのだが、その城での想い出は本当にろくな想い出がなかった。
キュラの全ての想い出に存在する長兄ラティランクレンラセオ。
その存在、
「はあ……」
思い出す都度、キュラに溜息をつかせる。
ろくでもない兄であったラティランクレンラセオは、たった一人の実妹であるキュラに、様々なことをした。帝国側に知られたら、キュラの輿入れを拒否するかもしれないようなことを散々したのだ。
キュラは皇帝の正妃「帝妃」になれる日を一日千秋の思いで待っていた。
《早く陛下が十八歳になってくだされば》
その時が来た日、キュラは誰よりも早くに城を飛び出して、大宮殿へとやってきた。
―― これであの変態ラティランクレンラセオから逃れられる ――
† † † † †
僕は実兄のラティランが変態だと理解したのは、五歳になるかならないかの頃だ。
”これは変態行為だ”と解らなくても、変態行為だって解るくらいに変態だった。
解り易い変態だった……ってことだけどさ。
別に世の中のラティランと同じ行為が好きな人に関して、僕は何の感情もない。変態だとも思いはしない。
僕の中で変態は、それらの行為に浸るラティランだけであって、他者はどうでもいい。
ラティランだって一人で行為に耽っている分には良いんだ。僕さえ巻き込まなければ。
僕は九歳から、胸が大きくなり始めた。
すごく大きくなって、大きくなって吃驚した。
意味もなく恥ずかしかった。これ以上、大きくならなければ良いな……と思いながら過ごしていたある日、変態なラティランがやってきた。
ラティランは痛いことが大好きで、どう考えても納得できないことをするんだ。
「ほぉ。大きくなったな」
ラティランはそう言いながら、服の上から僕の胸を揉んだ。
「痛い! 止めてぇ! 誰か!」
「誰もいないぞ」
言いながら。
背中側から両手を通して、鷲掴みにして揉んできた。
「やめて! どうして、こんなことするの! 僕が痛くたって仕方ないでしょ! ラティランは自分が痛いのが好いんでしょ! ……いやああ!」
何を言っても、耳を貸してくれないし止めてくれなかった。
僕の耳元で荒い呼吸を上げて、胸を揉み続けていた。
完全に痴漢
「ひっく……ひっく……」
手を離された時、胸が熱くて痛くて苦しかった。
一人になってから鏡で胸をみたら、ラティランの赤い手形がついているくらい。
僕もさ訴えたんだけど、誰も信用してくれなかった。
どうしてかって?
それはラティランが「自分が痛いの大好き」だってみんな知ってたから。ラティランは他人に痛い事する趣味はないって、みんな信じてるからさ。
毎日僕の部屋にやって来て、
「いやああ! ラティラン! やめて!」
「ほうら、胸が大きくなってきたぞ。これは大きくなるぞ!」
胸を揉むんだ。
褐色の胸はラティランにバター塗られて揉まれて大きくなっていった。
そうしているうちにラティランは、僕の乳首をクリップで挟み、
「痛い! 痛い! 痛い!」
「気持ち良くなるぞ」
引っ張るんだ。
「好くなんかならない!」
泣きながら言い返したら、ラティラン自分の着衣をはだけて見せてきた。
リングが通されて、なおかつクリップで挟まれているラティランの乳首……それをさ、
「ほうら、気持ちいいぞ!」
僕の前で自分の乳首を自分で引っ張りながら、恍惚として表情になって、下半身まで反応し始めて。
「い、いやあああ!」
自分で乳首弄ってるだけで、達しちゃった。
それも僕の目の前で。
「はあ、はあ。さあ、キュラ。お前の乳首もこのくらいに開発してやる」
「やだああああ!」
乳首を開発されるのは当然嫌だったけれども、それ以上に”こいつが兄だ”という事実が嫌で仕方なかった。一人上手なマゾなんて!
† † † † †
「……キュラ。キュラ」
「あっ! 陛下」
「どうした? キュラ」
「あの……ちょっと想い出を」
シュスタークはキュラの隣に座り、キュラの黄金色の髪を手で梳く。
「体が冷え切っているぞ」
未だ濡れている髪と、冷たい褐色の肌。
「何でもありません」
キュラは”心配しないでください”と微笑んだが、
「なんでもないという顔ではない」
シュスタークは信用しなかった。
「本当になんでもないんですよ」
実兄と自分の過去を思い出していたとは言えない。
普通の兄妹間の微笑ましい想い出ならば語れるが、まさか胸を揉まれ乳首開発として蝋燭を垂らされて、クリップで引っ張られたり微弱な電気を流されたりしていたことなど、語れるはずもない。
「そうか? ならば良いが。……あまり深く追求はしないが、なにか悩みごとがあったら、余に言うのだぞ。年下で頼りなさそう……いや頼りない皇帝ではあるが……」
キュラにとって唯一の救いは、ラティランクレンラセオにどれ程責められても、痛いだけで快感に変わらなかったこと。
別にキュラのマゾ度が低かったわけではなく、キュラに痛みを与えつつ、我慢できなくなって自分にも痛みを与えて恍惚としている兄の顔を見て”こんなアホ面になってたまるか!”という気合いで、痛いだけで耐えた。
「陛下は充分頼りになりますし、なによりも尊敬しておりますから。昨日はバレンタインでしたね。ロガと楽しみましたか」
実兄が自分の褐色の肌と、色素の薄く可愛らしい乳首に蝋燭を落としながら、自分の胯間にも落として”はあはあはあはあ……はうっ!”言っている姿を目の前で見ていたら耐えたくもなるものだ。
「あ、うん……」
「どうしたんですか? 陛下」
そんな嫌な遠い日の想い出を記憶の廃棄物処理場に全力で放棄し、昨日の皇帝のスケジュールを尋ねる。
ロガはキュラの召使いという立場にあった。
九歳の奴隷で皇帝陛下が最も気に入っている妾妃など、虐めの対象にしかならない。
―― 僕の傍においておけば、召使いたちも怖がるし。もちろん、僕にも良いことありますとも。え? 解りません? 陛下がお越しくださる回数が増えるでしょ ――
キュラの申し出にありがたくシュスタークはロガを預け、キュラも陛下お気に入りの奴隷がいたく気に入っていた。姉も妹もいない、いるのは花びらが撒かれたマゾ街道直球ど真ん中を、乳首と性器を三点で繋ぎ錘をつけ、亀甲縛りされながらのたうち這いずり回る実兄だけ。
それに比べるまでもなく「皇帝陛下のお気に入り」に相応しい少女は、希望通りの妹であった。
見た目が若干幼女っぽいのはキュラも気になったが、シュスタークは手を出す気持ちはなく一緒に楽しく、年の離れた兄妹らしく遊んでいるので、それも愛の形だろうと優しく見守っていた。
「ロガから聞いたのだが、キュラも余にチョコレートを用意してくれていたと」
ロガに優しくすると、ロガはキュラに好感を持つ。シュスタークはロガにキュラのことを尋ね、ロガは正直に答える。
キュラの思惑通りシュスタークは、キュラに対して好感を持つ。
昨日はバレンタイン。キュラは一週間ほど前からロガに「陛下と過ごすんだよ。チョコレートも作るよ」と命じ、シュスタークの予定を押さえて、ロガと一緒にチョコレートも作った。
「……ええ、まあ用意はしておきましたが」
もちろん予定は「帝妃と過ごす」という理由でもぎ取った休暇だ。
その時間をロガに与えて、キュラは一人で過ごしていた。出来が良く「皇帝」に好感を持ってもらえる行動をとれる分、その自分の計算高さに言葉にできぬ苛立ちを感じていた。
「くれないかな? と思って、来たのだが」
「う〜ん。どうしようかなあ」
結局キュラもシュスタークのことは好きなのだ。できれば自分と過ごして欲しかったのだが、シュスタークは「休暇、感謝する。行こうか、ロガ」と手を引いて去ってしまった。
自分で仕組んだことながら、腹立たしい。
理性と感情の狭間に立っている自分が、惨めにも感じられた。
「駄目か? た、楽しみにして……来たのだが」
「駄目というか……差し上げてもよろしいのですが、どちらかを選んでください」
それらの感情から、ちょっとだけ意地悪をしたくなった。
「選ぶ?」
普通の皇帝相手なら、絶対に仕掛けられないようなことだ。
「はい。どちらか一つだけを選ぶんです。二つに一つだけ」
「解った」
シュスタークは二つに一つと言われて[どちらかのチョコレートを選んでください]と言われると考えたのだが、
「では、陛下のために用意したチョコレート、チョコレートフォンデュなんですけれど。僕と一緒にチョコレートフォンデュを食べるか、僕の胸を揉んで吸うか。今日はどちらか一つだけ」
選ぶのはチョコレートとシュスタークが大好きなキュラの胸のどちらか一つ。
「えっ!」
「どっちにします? 陛下」
「…………あ……」
健全な青年皇帝はチョコレートを貰った後に、当然それをも期待してやってきた。
本来ならば「情を与えてやる」の立場なのだが、基本弱腰、応用お人好しなシュスタークの中には「情を与えてやっている」という気持ちなどない。
「胸にします?」
目の前に中身はみっちりしているのに、触れるとそれこそ”ふわふわ”と柔らかく、褐色の肌は手のひらに吸い付くようにしっとりと。褐色の肌だが乳首は肌よりも薄く、口に含みやすい大きさ。
顔を埋めて抱き込むと同時に与えてくれる柔らさで皇帝に幸せもたらしてくれる「正妃」はこのキュラだけ。他の三人のうち一人は完璧にスレンダー(皇妃)で柔らかさというよりは硬さで、後の二人は皇帝をも凌ぐ(皇后・帝后)「硬度と強度」で迎え入れる。
性格などは他の正妃も柔らかさを感じることはできるが(シュスターク限定)体その物が柔らかく、受け入れてくれるのはキュラのみ。
波打つ黄金色の髪はふくらはぎの中程まであり、その豪奢で光りが溢れるか如き髪の中に隠されている”胸”
シュスタークは触りたいという気持ちに支配されたが、
「いや、今日はチョコレートにする! それを貰いにきたのだ!」
当初の目的を果たすべきだと、意を決してチョコレートを貰うことに決めた。
「じゃあ胸は二週間後までお預けですね」
「ええ!」
「当然じゃないですか。明日から皇后の妊娠可能期間で、その次は帝后の妊娠可能期間でしょ。その後は皇妃のところに通って、僕の所に戻って来るんですから。いつも二週間くらいはかかってるでしょう」
「そうだったな……」
魅力的な体を前にして、帰らなくてはならないとシュスタークは肩を落とす。
そのあまりの表情と、全身から溢れ出す”残念そう”な空気に”良い御方だから、ついつい”と、やり過ぎたとキュラはシュスタークに背後から抱きつく。
「冗談ですよ。そんなお顔なさらないでください。陛下は陛下なのですから、両方欲しいと命じれば良いのですよ。僕だってそのくらいは弁えてますから」
背中に触れた胸の柔らかさに、心臓が高鳴るのを感じるも、
「いいや。今日はチョコレートだけにする!」
皇帝たるもの決意を簡単に翻してはならないと、持っている理性の全てを投じて言い切る。
ただし下半身は若干どころではなく熱を持っているが。
「陛下……」
瞳は潤み頬赤らめて、キュラの魅力的な体の前に正直な反応を返してしまった箇所を手で覆い隠して……
† † † † †
陛下は皇后ほどじゃないけど、結構頑固なんだよね。
だから僕がいくら「両方良いですよ」と言ったところで、前言撤回などはしない。でもまあ、揺すぶりをかけたら乗ってくるとは思うんだ。
僕の体好きだからね。
悪い気分じゃないよ。陛下がお気に召してくださるんだからさ。
チョコレートフォンデュを用意させた。
部屋にはちゃんと専門の空調があるから、匂いだけで胸焼けするなんてことはない。
丁度良い匂いに調節してる。
僕と陛下は圧巻のチョコレートの噴水の前で、
「はい、陛下。あーん」
「お、おお!」
チョコレートにフルーツやお菓子をくぐらせて、食べさせあった。
陛下の嬉しそうなお顔に、思わず……可愛いよなあ。僕より年下だからじゃなくて、多分陛下は僕より年上でも可愛いと感じただろうね。
それほど大量に食べるものじゃないから……と、僕は上衣を力任せに引き裂いて、胸を露わにした。
「キュ……キュラ?」
そして大きな乳房をチョコレートにくぐらせる。
熱いには熱いけれども。ラティランに蝋燭責めされた時のことを思い出せば、なんてことはない。それにさ、この先には楽しいことが待ってるしね。
「どうぞ、両方味わってください」
乳首の全部をチョコレートで覆った。
覆ったって言っても、体温ですぐに溶けて肌から滑り落ちてゆくんだけれども。
「キュラ」
「はやくしないと、チョコレートが全部床に落ちてしまいますよ」
陛下は両手で僕の乳房を包み込み、柔らかく噛みついた。
チョコレートが取り去られ、乳首に直接陛下の舌が届き、舐めてくれるまでの時間の長さともどかしさ。
腰を引かれてそのまま陛下の上に座るようにして……
陛下は全てが終わった後、チョコレートフォンデュに指をくぐらせて、
「そなたが言った通りだ。熱いな」
振り返った。
「そうでしょ?」
「熱かったであろうに」
熱いには熱いんですけれども、その先にあるものが陛下だったら耐えられるんですよ。
それに言いたくはないし、絶対に言う気はありませんが……蝋燭責めで慣れてるし。
「全然。陛下が下さる熱のほうが。お望みとあらば、もう片方の乳房もチョコレートをくぐらせますよ」
陛下の喉仏が上下するのが見えた。さて、もう片方の乳房も甘く苦く、
「キュ、キュラ」
チョコレートで濡らした乳房を自分の口もとに持って来る。
僕の乳房、簡単に自分の口まで届くんだもん。
乳首についたチョコレートを、自分の舌で舐めとりながら、陛下を見つめる。
誘いに乗ってくださるかな?
宵宮Valentine.帝妃[終]
―― 僕に感謝するべきだろう、キュラよ
―― するわけないだろう、変態ラティラン!
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