物語のお姫様ってのは画一的で扱いやすい。
主人公になるのは、容姿は飛び抜けて優れてはいないが人をひきつけるような顔立ちで、大体は派手嫌い。こんな舞踏会なんかを嫌って(大体嫌うのは舞踏会だけで、それ以外のイベントはないのはどういう事だろうな? 書き手の不勉強か?)一人で本を読んで知識を蓄えるような娘で、それを見出すのが物凄い才能のある男。
男は才能があるが地位がなくて駆け落ちとか、皇帝やら王に認められて位を授かってみたり。ちょっと世の中から外れているようなダークヒーローっぽい男であったり、偶に王であったり。まあ共通して言える事は、その姫が好きな男としか結婚しないのでどれでも同じだ。
実際はそうか? といえばそうじゃない。
皇后は天然純粋培養の純然たる王女だが、世知辛いというか苦労に苦労を重ねてきた皇帝をお気に召しているとは到底思えない。
皇后の容姿で目を引くのは真赤な髪の毛で、顔はごく並。どれ程見ても(ソレほど直視した記憶はないが)惹かれるような特別な顔立ちでも雰囲気でもない。陛下は、三十半ばにして彫りの深い顔立ちに、きつい皺が刻まれて、目付きは下からねめあげるような……苦労してきたのでそうなったのだが……。
皇后が舞踏会を嫌うのは面倒だという、物語の姫のように参加する側ではなく主催者側なのだから当然であろう。主催者ゆえにすべての礼を受ける立場ゆえ仕方ない。皇后は派手嫌いか? と言われれば首を振る。普通に着飾って現れる、それが義務だから。
あまり貧相な格好をして公衆の面前に出られると、陛下が着衣を買い与えていないと噂される事になり、ひいては蔑ろにしていると判断され問題がおこる。
何よりも皇后陛下が皇帝陛下を愛しているかどうか? 残念ながら皇帝陛下は皇后陛下を愛してはいない、恐らく皇后陛下も同じであろう……要するに物語を参考にしても何の解決策にもならない。それでも私は皇帝と皇后の間を取り持つのが仕事なので、色々と考えるがどうにもならない。
陛下には悪いが何故あの場でラニエなどという、特に目を引くでもない有り触れた面白味のない侍女に手をだしたのだろう?
皇后が気付く前にラニエの共同部屋から人を排除して陛下が通っていたので、ラニエを皇后付きから配置変えを決めた矢先に、皇后の部屋で……コトにいたらなくても良いと思うのだが。
愛してはいないが嫉妬していただきたかったのならば、それは成功しただろう。断裂した夫婦仲という代償で……元々代償もなにもないのだが。
親友のリガルドが訪問してきたのは、その頃だった。
「お前、疲れてるんじゃないか?」
そう声をかけてきたリガルドも相当疲れていたような気がしたが、偶に仕事から離れて話をする事ができたので楽になった。
「そういえば、お前の主であるダンドローバー公爵閣下が、皇后陛下の所に挨拶に来たな。突然どうしたんだ?」
通常であれば皇后に謁見するものは多数いる、権力目的で。だが、現在の皇后インバルトボルグ陛下はそれらを持っていないので、殆ど誰も訪ねてこない。陛下が皇后への訪問を嫌っているので、陛下の不興を買うのを恐れて誰もが遠巻きにしているのだが。
そんな中、突然ダンドローバー公が訪問してきた。我々、そして陛下としても拒否する理由もないので、当然通すしかない。ダンドローバー公は多少不興を買っても物ともしないタイプではあるが、世渡りも上手いのでわざわざ不興を買いに来るようには見えない。
なにか目的があると思われても仕方ないだろう。問いかけにリガルドは声を詰まらせつつ、
「あ〜と……その、あの方あまり真面目に働いていないだろう、軍人として……家臣として言うのも……だが」
「……お前がそのように言うのならば、否定はしない」
皇帝陛下は真面目だがな……真面目とは少々違うか、あの人は追い詰められている雰囲気があるからな。
「そのな、そろそろ総督配下になる頃だろ? 特に何もなくとも公爵ともなれば」
大貴族の軍役は指揮官として派遣される、勿論経験のある人の下に。指示に従ってもらわなくてはならないので、爵位によって何処に配置されるかは大体決まっている。ダンドローバー公程になれば、指揮官と仰ぎ、指示を出せるのはヴァルカ総督しかいない。総督の居る場所は前線……行きたくないというのも解かるが。
「そうだな。だがダンドローバー公ならば上手にやっていかれるだろう?」
才能のある方だ、何より人あたりが良い。あの良さの一割を陛下に頂きたい程に。
「才能はあっても、本人的にあまり行きたくないらしくてな……その皇后陛下の話し相手って今現在誰もいないだろ? だから公爵がその地位を射止めれば、総督配下にならないで済むと思って……という事だ。怒るなよ」
これがいい機会となって、リガルドと皇后に関する対策をねる時間が増えた。