とり合えず楽しんでくれたんで良かったとしておくか。
恩の一つでも売っておくに限る、皇后陛下相手じゃなくて皇帝の側近リドリー・デ・グラショウに。皇后が自室に戻った報告を受けてからリドリーが挨拶に来た。
「ダンドローバー公、感謝いたします」
何でも全く舞踏会に出席したがらないで困っていたとの事。……物語のお姫様じゃないんだから、舞踏会に出てくれないと困るわけよ、取り仕切ってる参事官がな。どうしても舞踏会に皇后を出席させたいと聞いて、リガルドにも恩を売るつもりでこの舞踏会に引き出す役を引き受けた。
「気にしなくて良いよ」
「出来ましたら何をお話していたのかお聞かせ願えませんでしょうか? 遠目からはそれは会話なされていたように見えましたので」
あ、そうきた。一応さ、盗聴を恐れてそれを見分ける装置をポケットに忍ばせてきたんだが、リドリーは設置してなかった。
「大した事じゃない。皇后の父上の事やヴァルカ総督の事なんかも。ちょっと宇宙船に乗ってみたいと仰せになったので“宜しければパロマ領にでもご案内いたします”ってくらいかな」
「なるほど」
「で、参事官殿にお聞きしたいんだが、皇后陛下を我がパロマ領にご案内しても宜しいだろうか? 人が全くいない場所で少し静養したいと申しておられた」
嘘だが……そろそろ市民大学が夏休みになるんで“カミラ”さえ連れて行けばファドルもついて来るから……。良いよな? その位しても。
「パロマ領は遠すぎますゆえに、陛下は無理でしょう」
「陛下はご招待しておらんよ。そもそも陛下をご招待するならダンドローバー領にご案内するさ、俺は皇后陛下だけをご案内したのだ。大体、人がいない場所に行きたいというのは、一言で言えばラニエ妃の件だ。できれば少し距離を開けて落ち着かせてはいかがかな?」
「館にお住まいになっただけでは落ち着きませんか?」
落ち着くどころか、大はしゃぎだがな。
「其処までは。二人の間に御子でも生まれればよいのだろうが、そうも上手くいかないのだろう?」
跡取り問題が一番だ。ラニエの子は確かに継承権を貰ったが、誰もラニエの子の即位なんて期待しちゃいない。
「そうですね……ご説得してはいただけないでしょうかね?」
「ま……あ、俺が言っても説得力がないから、そのうちどうだ? ヴァルカ総督を呼び寄せて説得していただいては」
その後やたらとリドリーと話をするハメに。皇帝はどうかは知らないが、リドリーは皇后に対して心を砕いているらしい……皇后がいなきゃどうにもならんからな、リドリーの大事な皇帝陛下は。
何にせよ、俺は極秘で皇后を連れてパロマ領へと向かう権利を得た。あとはファドルを説得して、カミラを説得して……と。中々楽しいじゃないか。