繋いだこの手はそのままに −136
「何をしていたのかは聞きませんが、陛下。……ロランデルベイ、少し自重しろ」
「ラードルストルバイアと呼べ、シャロセルテ。……聞かれても確かに困るのだが」
「その分では、ナイトオリバルド・クルティルーデ・ザロナティウスに、銃を扱う際の重力分担を伝えていないだろう、ロランデルベイ。……陛下、実際のところどうですか?」
「もう少しで聞けるくらいに……煩い。大体この小僧が頭悪いというか、天然なのが悪いんだ! エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル、お前ももう少し前からこの天然な皇帝に対してだな……誰が天然なのだ? エーダリロク。……誰が天然ってお前以外に!」
「少し落ちつけよ、ラードルストルバイア。……そうだぞ、ロランデルベイ。エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエルの言う通りだ」


− なんとなく、ザロナティオンが狂った理由、解る気がする……


 体の本来の持ち主であるシュスタークとエーダリロクが、内側に存在する者の喧嘩に世を儚み始めたところで、体のない過去に死んだ筈の兄弟の喧嘩は終了した。
 エーダリロクは用意してきた ”服” をシュスタークに着せる。普通の服ではないので、もちろんエーダリロクが手伝ってのこと。
「基本はイルダルスリンクスーツ(機動装甲搭乗の際に着用する)で、それに少し手を加えました」
 イルダルスリンクスーツは液体に満たされた操縦席用でありながら、宇宙空間に出る事も可能な作りとなっている。色は各王家ごとで分けられるが表面はつや消しされた銀のように見える。もちろんシュスタークはやや鈍く光る白で、他の搭乗者にはない部分 《マント》 もついている。何時ものように身長の二倍以上の長さではないが、210pのシュスタークの踝の辺りまでの長さがある。
 見た目同様、材質は固めなので、マントの ”動き” はぎこちないが、逆に描かれている紋章がはっきりと見て取れる。
「イルダルスリンクスーツの着方は習ったが、少し変形しているのが……うむ、もっと柔軟に対応できるように、練習しておこう」
「いや陛下。こんな特殊スーツの更に上行く、超特殊改良したスーツの着方なんて覚えなくて結構ですから」
 エーダリロクとしては二度も三度もこんな作戦を実行させるような真似はしたくはないし、そもそもシュスタークは、帝国の方針としてこれ一度きりで後は出陣させないことが決まっていた。
 たった一人の皇族で、後継者のいない皇帝シュスタークを度々前線に連れ出すわけにはいかない。
 それに迎えた后が奴隷階級出身者ロガ。たとえロガが後継者を産んでも、皇帝が前線で不在の場合に最悪の事態が起こる可能性も高い。
 後継者がある程度成長し、皇太子として認定されて、父親であるシュスタークが死亡しても帝国を維持できる能力を身に付けるまでは、シュスタークに何かあっては困るのだ。
「そ、そうだな。だがこのピッチリ感は慣れんな」
「まあ、慣れないかもしれませんね。陛下は慣れる必要は無いので」
「そ、そうは言われても……ふむ……」
 エーダリロクの手を借りて、宇宙空間に出る為の ”戦闘用服” をまとったシュスタークは、頭の中でラードルストルバイアから銃を撃つまでにする事の説明を聞き、その間に体重測定された。
「……っと、何をしているのだ? エーダリロク」
「陛下の回収援護用のプログラムはありませんが、基本データは送っておかないとね。重量と着衣の形状、あとは過去のキーサミーナ銃が撃ち出した際の衝撃度などを。これらから、勘でビーレウストに割り出してもらうことに」
 シュスタークの身体データは元々厳重な管理下に置かれて、誰も目にすることができなかった。まさかこんな事が起こるとは思っていなかったので採取していなかったのだが、状況が状況なために、急いで集めて必要な場所へと送らなくてはならない。
 その際にも、
『陛下の身長体重、諸臓器の個別重量なんかがラティランクレンラセオにばれた所で、どうなるわけでもないが、どうなるかは解らないから注意しておくべきだな』
 体全体の重さではなく、現時点での臓器から筋肉、血液成分まで分けて重量を計測する必要があるのだ。
「よくこんなモンから ”勘” で割り出せるもんだ」
 シミュレータで細かいデータを採取してからなら、エーダリロクも割り出せるが、これに目を通しただけで ”大体解る” というのが、人を殴り殺し逃げようとする者達を追って殺し歩く一族の能力。


《で、解ったか?》
− ふーむ。何となく
 数字と睨み合っているエーダリロクの脇で、シュスタークはラードルストルバイアから説明を聞いた。
 宇宙空間で船体などに足をつけて普通に歩くことのできる装置はあるが、キーサミーナ銃が発動してしまえばそれも無効になってしまう。
《基本的に全ての機器が無効になると考えろ。だからキーサミーナと一緒にダーク=ダーマの表面部分に押し出されようとしている時点から、俺が足と手に部分重力を発生させる》
− 余はキーサミーナ銃にしがみついておれば良いのだな?
《格好悪いからしがみつくな。馬鹿め》
− か、格好悪いと言うが! 余は格好良くないのだから仕方あるまい!
《お前の格好悪さは俺が良く知ってる、漏らすし泡は吹くし……》
「それ以上、言うなぁ!」
《解った解った。格好良さってのは別にあの、生粋アルカルターヴァでお前の我が永遠の友みたいな格好良さを求めてるんじゃなくて……何、落ち込んでるんだよ?》
 膝をついて四つん這いになってしまったシュスタークに、ラードルストルバイアは ”お前は本当に馬鹿なのか?” なる雰囲気の声を響かせる。
− いや、その……確かに格好良いと余も思う。カルニスタミアは格好良いよな
《比べものにならないだろ。今更、何を言っているんだ?》
− やはりそうか……。そうであろうなあ
《なんで打ちひしがれてるのか解らないが、話を続けるぞ……話聞け!》

 ラードルストルバイアは 《彼》 と 《彼》 が良く行っていた事を、シュスタークに実際の重力制御の仕方を教えながら説明をした。
 足と腕の重力はラードルストルバイアが制御する。撃つタイミングはシュスタークの意志に任せる。
《衝撃を逃すタイミングは、経験上お前よりは上手いはずだ。過去に二三回以上、前に飛ばしたがな》
− それは任せる。余がやったら失敗するか、とんでもない方向に飛んでゆくかの二つに一つであろう
《自分で言うな。それで、あのエーダリロクってのがプログラムを組めないのは、俺が制御するところにもある》
− ?
《今から俺がお前の体を使って能力を使い、そのパターンをデータとして足りるだけの量採取してから……そんな時間がないって事だ》
− そうだな
《俺は腕と足はタイミングを見計らって反重力をかけ、お前は後方に飛ぶ。最初は大雑把にいえば ”右側” からクッション材が撃ち出されてくるから、それを見計らって反重力でクッション材にぶつかる衝撃を和らげろ。体はお前の管轄だ。俺は臓器、特に脊椎核を守る方向にはいる。手足はぶっ千切れてないとは思うが、失敗したら止血も俺がするから、勢いを止めるための制御をしている余裕はない。ま、そっちは失敗しても……》
「陛下! クッション材を前にして反重力を発生させたら駄目ですからね。ラードルストルバイアが衝撃から脱出する際に使うから、思わず同調とかしないで……」
 何となく思ったことを口にしたエーダリロクに、
「っ!」
 困惑と不安を浮かべたシュスターク。
《しそうだったのかよ……》
− してしまいそうだったのか……
「しないでくださいね、同調」
「あ……うん」

 自分の最終形態を、他人であり自分の中から見ている帝王と、二度も皇帝の内側に皇帝ではない人格として存在した男は、長い黒髪をかきむしるようにしながら悶えるシュスタークに、一抹どころではない不安を覚えた。

「ここで不安をあおっても仕方ありませんね。さて、そろそろ后殿下がお見えになる頃ですので」
 エーダリロクは悶えるシュスタークを見ながら ”前方にきりもみどころか、ダーク=ダーマそのものにきりもみして突っ込んで、突き抜けていったらどうしようか?” とかなり真剣に考えてしまった。
「ロガが? どうしたのだろうか? 怖くて帰りたいのであろうか?」
− 俺の目の前を高速回転しながら、機体を突き抜けてゆく陛下を抱きとめられるか?
《出来ないとは言わないが、出来るだけでどちらの身の安全も保証はできん》
 どうしたものか? 考えながらも、そんなことはおくびにも出さずに、できるだけシュスタークを落ちつけるように話しかける。
「どうでしょうね? ですがお戻りになることが希望でしたら、希望を叶えてもよろしいかと。後の指揮は俺が執りますよ。かなり卑怯な方法ですが、外部からシダ公爵を操りますから」
 これはシュスタークに対しては 《秘密》 されていることだが、シダ公爵の義足はある目的があった。
 その目的とは 《女児》 を作るように精子に干渉すること。
 足を付け根ごと、骨盤付近から外したのはシダ公爵の精巣に細工を施す為。
「ほぉ? エーダリロクは人を操る力も持っておったのか!」
 何故シダ公爵が実験体に選ばれたのか? その基準は 《息子が帝国騎士》 であったためだ。シュスタークの異父兄の中でシダ公爵以外の三名、イグラスト公爵やハセティリアン公爵、クラタビア公爵の息子達は、誰一人帝国騎士の能力を持っていない。
 《帝国騎士》 の能力は脊椎に存在する核が深く関わっている。それは 《両性具有》 の因子の中に含まれる形になっている。
 要するにシダ公爵タウトライバの息子エルティルザ、彼の存在は 《無性》 よりもたらされた ”女性の消失” から逃れた 《両性具有》 が生存している証明でもあった。
「ありません」
「ではどうやって?」
 外部から手を加えての 《胎児作成》 それによって生まれた 《生命》 に対しての権利を帝国は一切認められていないが、エーダリロクは兄王と帝国騎士を欲しているザセリアバを抱き込み、目こぼしをさせた。
「陛下、シダ公爵の義足を作ったのは俺です。特殊な仕様でして、外部から様々な指示を出せる……陛下、如何なさいました?」
 シダ公爵の体内に僅かだけ発見された 《両性具有ラバティアーニ》
 彼女であり彼を生きたまま食い殺したザロナティオン。何度も抱き、殺害されなかった両性具有がついに食い殺された事で、人々はザロナティオンのクローンを作ることを決めた。その段階で消え去ったラバティアーニだったが、人々の思いもよらぬ場所、ザロナティオンの核にその身を潜めていたのだ。
 胎内に存在するやいなや 《母胎の核》 に 《己の核》 を絡みつかせ、胎内では決して処理できず生まれてくる両性具有。その特徴が、生きたまま食われたラバティアーニと食べたザロナティオンにも発生した。

 食べた本人も、まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。

 無性の因子とは違い、隠れるように存在していた両性具有。それがタウトライバの息子エルティルザに帝国騎士の能力を与えた。
 今の帝国騎士のほとんどは、このラバティアーニの両性具有因子とビシュミエラの無性因子の力関係で作られた存在。
 だがこれはエーダリロクやシュスターク世代までが 《上手くバランスをとれる限界》 で、それ以降はエルティルザ以外に帝国騎士の能力が現れていないことでも解るように、減り続けている。
 タウトライバは因子を持ちながら能力が開花しなかった事で、子供に受け継がれる形になったのだ。
 上記で述べられた ”ほとんど” これが ”全て” と表現できないのは、違う系統の帝国騎士が確実に一人存在していることを、エーダリロクが知っているためだ。

 ただ一人違う系統の帝国騎士はザウディンダル。

 エーダリロクはこの二種類の系統を解明することにより、帝国騎士の量産とはいかないが、発生確率は計算できると見ていた
 まずその手始めとして、ラバティアーニを復活させなくてはならない。そのために義足に付属させた機器により活性化させ精子に送り込んだ。
 その際にアニエス側にも 《胎児の性別を決める薬》 を飲むように命じた。
 圧倒的な威力で帝国から女性を失わせた 《無性》 と、普通貴族の健康な卵子に 《女児》 だけを受け入れる用意をさせる。
 女児以外は生まれないようにした結果はエーダリロクの 《勝利》 
 そしてこれが実験であることをタウトライバは知らない。知っているのは 《女児》 を身籠もったアニエスと、実験を持ちかけられた際にアニエスが相談したミスカネイア。
 ミスカネイアは夫であるタバイに話たが、タバイは弟に語ることはしなかった。なによりも身籠もったこと自体、アニエスは夫に教えていなかった。

 無事に帰ってくることを願って。娘を抱いて夫を出迎えるのだと。その娘がキャッセルと瓜二つであっても、優しく育てるとアニエスはエーダリロクに誓った。

「報告受けていたのに忘れておった! 気になってわざわざデウデシオンに時間を割いてもらい詳細を教えて貰ったというのに、綺麗さっぱり! あああ! 余の馬鹿ぁ!」
《大丈夫だ、声に出さなくても全ての者が知っている》
 これらの事に関しては、決して真実は告げることはないだろうと、のたうち回っているシュスタークをエーダリロクはみつめていた。
「追い打ちをかけてくれるな、ラードルストルバイア! ……エーダリロク」
 頭を抱えて叫んでいたシュスタークが突然動きを止めて、自分を見つめてきたことに首を傾げる。
「はい、陛下?
「あのな……いいや。その……あの……あのな、余自身が言っておきながらなんだが、ロガは帰りたいとは言わないと思う。それ以外の理由だとは思うが、ちょっと思い当たらないのだが」
 シュスタークはエーダリロクが ”かなり卑怯な方法ですが、外部からシダ公爵を操りますから” といった事に疑問を感じた。
 先ほど会議室で ”シダ公爵よりも命令が優先される人物を任じ、その人物に自爆阻止を命じるのです” といったのもエーダリロク。
 多くの矛盾を抱えるエーダリロクとシュスタークだが、言動がぶれることはまず持って無い。シュスタークはその事を不思議に思うと同時に ”ロガ” の姿が思い浮かんだ。

− そうか、エーダリロクは余がロガに指揮権を与えるとは思っていなかったのだな

「陛下がそのように言われるのでしたら、そうなのでしょう。お会いすれば解ることですから……ちょっと廊下を覗いて様子を……」
「余も一緒に見に行く」
「はい」
 ”答え” をシュスタークは知っていた。だが敢えてそれに触れようとは思わなかった。エーダリロクが語らない限りは。

 エーダリロクと共に廊下に出たシュスタークは、向こう側から歩いてくるロガとメリューシュカが目に入った。向こうから歩いてきた二人も気付き、メリューシュカはその場で立ち止まりロガに先を促し、エーダリロクは扉は開いたままにして部屋へと引き下がる。
 通常状態であれば、皇帝が廊下に出る時は、兵士が途切れずに並んでいるのだが、今はそれもない。
 シュスタークに近付いてくる小さな足音。目の前で立ち止まったロガは手に持っていたビシュミエラのネックレス ”処女の純白” を差し出し、顔を上げ左右同色な琥珀色の瞳でシュスタークを見つめた。
「ナイトオリバルド様はザロナティオンの腕っていうのを撃つと聞きました」
「ああ、そうだ」
 ロガの表情を前に ”どうしたのだ?” などという問いかけはシュスタークの中から消え去った。
「ビシュミエラ……バオフォウラーはザロナティオンと何時も一緒にいたんですよね。そう七つの星系を貫いて僭主ラディルヴィアイクを撃ったって。その時も一緒にいたんですよね?」
 シュスタークはロガの掌の上にある首飾りに軽く触れて頷き、肯定する。
「ミネスのおじいちゃんは私に ”バオフォウラーになれ” って言ったから、ザロナティオンの腕を撃つ時は、隣にいなければならないのかも知れないけれど、私はナイトオリバルド様から命を与えられたのでバオフォウラーのようについて行けません。だからこのネックレスを代わりに……私に代わりに ”歌って” くれると思います」
 シュスタークはロガの言葉に再び頷き、掌から包んでいた布ごと掴みあげる。
 ロガは ”ビシュミエラ” を失った掌で自分の首にある痣に軽く触れ、
「お願いします」
 それだけ言って背を向け、来た道を戻ってゆく。規則正しく離れてゆくロガの足音だったが、メリューシュカの元に辿り着く前に足を止めてスカート部分の両端をつまみ上げて振り返る。
 光沢のある薄紫色のスカートが広がり、色の薄い金髪も同じように動く。
 シュスタークをまっすぐ見つめる表情の何処にも泣きそうな箇所はない。冷静ではいられない状況だが、冷静さを感じさせる琥珀色の瞳がシュスタークの全てをも落ち着かせてしまった。
 スカートの両端を持ったまま、ゆっくりと頭を下げた。
 純白の廊下に二人きり。頭を下げたロガに ”頭を上げる” ことを命じなくてはならないことを理解し、シュスタークは深呼吸し空手を前に出す。

「頭を上げよ。ロターシャ、余の代理は任せたぞ」

 ロガは名ではなく ”皇后” と呼ばれ、呼ばれた方は命令どおりに頭を上げて答えた。

「御意、シュスター」

 メリューシュカと共に去っていったロガを見送り続けているシュスタークの隣にエーダリロクはが立ち、肩を叩く。
「エーダリロク……」
「それ、貸して下さい」
 シュスタークは掌の ”処女の純白” を見つめて、苦笑する。
「置いていかねばならぬな」
 自分の身体情報は既に収集されて、後方援護にあたるビーレウスト達に既に送られている。今更重量を変えるわけにはいなかい。
 些細ではあるが、些細では済まない場所へと向かうという自覚のあるシュスタークだったが、
「正確に計量して、計算し直させますよ。貴方はそれが許される人であり、私達はそれに従うべき者達だ」
 エーダリロクは笑って首飾りを掴むと部屋へと戻った。
「エーダリロク……」
「大体陛下、嘘つけないでしょう? 後で ”ごめん、ロガ。事情があって持って行けなかった” とか言っちゃうタイプ」
「う……」
「陛下が上手に嘘つけるなら良いんですが、つけないと当然女官長サマのお耳にも入ってしまう訳で。そうなったら、俺が叱られるわけですよ ”そのくらいのこと、出来なかったのですか?” ってね。俺を助けるためにも、持って行って下さい」
 エーダリロクは一切の誤差が出ない計測器に首飾りをかけて、艦橋に連絡を入れた。
「少し時間がかかりますが、計測終了してから出ても間に合うでしょう。その頃には、后殿下も司令席にお戻りになってるでしょうし。シダ公爵に后殿下が戻ったら連絡を寄越すように伝えましたので……」
 ”了承” の文字を見て、光源の中に浮く首飾りを少しだけ眺めて、エーダリロクはシュスタークに向かい合い、突如 ”都合が悪い” と言い出しそうな雰囲気になり、腕を組んで舌先を軽く噛んでから、視線を逸らして意を決したように口を開いた。
「俺は最初、后殿下を正妃にするのは反対でした」
「気付いてはおった」

 シュスタークが触れまいと思っていたことに対し、エーダリロク自身が遂に語り出した。


novels' index next  back  home
Copyright © Rikudou Iori. All rights reserved.