皇帝の後継者は、皇帝が正式な婚姻を結んだ四人の正配偶者のいずれかを親に持つ事が絶対条件。
皇帝の年齢に見合った配偶者を送るのが好ましいが、年齢の釣り合いが取れない場合や、王家に異性が存在しない場合もある。
その場合はどうするのか?
正配偶者の一段下の地位になる 《準配偶者》 という地位がある。
呼び名はサウダライト帝の治世では 《寵妃》
後の世では 《皇帝に愛されている女性》 を指す言葉に変わるが、本来の意味は準配偶者の性別までを含めて表す単語であった。
皇帝の子を身籠もると、即座に空いている正妃の座に就く事を明文化された地位で、正妃となっても問題のない家柄の者が多数取り揃えられる。
《寵妃》 の身分は正妃に繋がるものなので皇帝の一存では与えられない。王族や皇王族の同意が必要になる。
それとは別にもう一つ、子が出来ようが正妃になることの出来ない者達が集められる場所がある
所謂奴隷制度の一つで、集められた者にも、その者が身籠もろうとも・身籠もらせても、正配偶者になることもなければ、生まれた子が正式な子と認められる事もない。
愛妾が子を産んで、妾妃とされれば子も認知され 《庶子》 となる。子を産んでも妾妃とされねば、子は 《私生児》
皇帝がどれ程気に入っていようとも、その相手やその子が地位を得ることはない。
サウダライトがグラディウスを初めから 《寵妃》 にしなかったのは、様々な理由から。
下働きから愛妾にした時点で、グラディウスは 《寵妃》 の絶対条件である生理がまだなかった。
身籠もって正妃になる為の地位なので、初潮の訪れていないグラディウスは、王家側に打診すらできない。
そしてもう一つ、大きな障害があった。
グラディウスの年齢。
婚姻許可年齢は階級により違う。皇族は十三歳、王族(皇王族)は十四歳、貴族は十五歳、平民や奴隷は十六歳から許可されている。
婚姻許可年齢とは生殖行為が許可される年齢でもある。
皇族や王族は許可年齢以前に行為に及ぶ事も多いが、平民や奴隷に対してはかなり厳しく取り締まっている。
サウダライトは既にグラディウスと関係を持っているが、殆どの者には知られていない。
サウダライト帝の行為は現時点では知られていないが、後に帝后が十五歳になってすぐ(実際は十四歳だったという説もある)に皇太子を産んだことから、結果として彼の評価欄には 《性犯罪者の気質有り》 と記録が残されている。
勿論公になる文章ではない。
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グラディウスが連れて行かれた部屋は 《7095》
愛妾の置かれる部屋は番号が振られ、その番号で管理される。
番号は愛妾が入れられた順番、それ以外考慮はされない。グラディウスはサウダライトにとって 《7095番目》 の愛妾になる。
七千超。皇帝の愛人の数としては、特段多いものではない。
サウダライトが希望して此処まで増やしたのではなく、付き合いや献上品としてなどの兼ね合いからこの数になっただけのこと。
上級貴族からしてみれば、愛妾になるなどというのは死ねと言われているも同じ事なのだが、後宮の仕組みをあまり理解していない、理解していたとしても優雅に暮らせると考える者達にとっては魅力的な場所である。
後宮というのは人権を無視した奴隷収監システム。後宮に愛妾として、権利を剥奪された形で収められるのだから、平民であろうが下級貴族であろうが、貴族であろうが 《奴隷》 以外のなにものでもない。
だからこの地位にある者達が皇帝の子をなしても、それに権利は発生しない。
「この部屋です。洋服は此方で用意しておきました。足りない場合は総務……貴方に付くルサ男爵にでも言いなさい」
グラディウスは通された部屋を見ていて、ビデルセウス公爵の説明は殆ど聞いていなかったが、聞いていたとしても理解はできなかっただろう。
愛妾の与えられる部屋は全部で五部屋。
出入り口にあるホールに寝室、私室が二部屋に小間使い用の部屋が一つ。グラディウスが与えられた部屋は、庭に面していてテラスも備え付けられている。
そしてなによりこの部屋は、皇帝が足を運びやすい場所だった。
《頻繁に通う》 その皇帝の希望から選ばれた部屋。
「リニア・セルヒ・イーデルラ・マドウ」
「はい、ビデルセウス公爵様」
「貴方の部屋はそっちです。貴方に関しては洋服などは用意していません。委細については部屋の端末にあるので、読んで覚えて置くように。給与形態なども書かれています。その他解らないことがあったら総務部へ連絡を入れなさい」
ビデルセウス公爵はそれだけ言うと、衛士を連れて部屋を出た。
「おっさん来るまで待ってるといいんだね」
「そうね、でも遅くなるかもしれないから、お風呂に入って着替えて待ってたらどうかしら? 洋服とか見てみましょうか?」
大きな部屋に取り残された二人は、手を握り合って部屋を探索し、その後入浴してグラディウスは多数用意されていたパジャマで、気に入ったのを選び着替えてベッドの上で待っていたのだが、眠気に負けて、
「おや? 寝てしまったのか。グラディウスらしいと言えば、らしいが」
サウダライトが足を運んだ時は、既に夢の中だった。
「小間使いか」
グラディウスを連れ出すための呼び出しに出席した後、娘から聞かされていた。少しの間に調べられた彼女の過去を端的に聞き「小間使いが用意出来て良かった。早めに用意しておかないと大変な事になりそうだったからな」と呟きながら、足を速めたのだが、グラディウスとの対面は明日に持ち越された。
「は、はい……」
一人 《皇帝》 と対面することになったリニアは、青ざめ震えながら土下座するような姿勢を取る。
「短い期間ながらも同室だったのなら解るだろうが、この子の傍仕え頼むぞ。少しくらいは給料は高くしてやるからな」
サウダライトに部屋に戻れと言われたので、リニアは小間使いの部屋へと戻ったが、眠気など訪れそうにないので、端末に向かい明日からの生活に必要な知識を探ることにした。
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