皇家や王家が前時代的に召し使いを大量に雇い入れ、それらを使役する真の理由は “怪しまれずにサンプルの回収を行う” ためである。
表面的には一般家庭に普及している全自動の清掃にかんする数々の機械とは対照的に権力を誇示するための行為とされているが、それらは隠れ蓑であって実際は “未だ帝国に散らばっている可能性のある人造人間” を探し出すことを目的とされている。
全支配区域から無作為に抽出されたサンプルを、宮殿に入れるために必要な検査と称して調べ、危険が認められたら即座に処分に向かう。
この “権力誇示の雇い入れ” によって、人間の両性具有の因子も調べ、見つかると当人にも知られない間に治療を施していた。
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グラディウスは帝星に向かう途中に、どの職に就くかを見極める為の適性検査を行われていた。
ドミニヴァスが提出した書類には『文字を書くことはほとんど出来ない。計算も出来ない。帝国王家の存在も良くわかっていない』と書かれていたので、試験官も最初からどの程度下働きが出来るかを確認しただけではあったが。
そのためグラディウスの検査は直ぐに終わりあとは帝星到着までの間に、下働きの業務形態を学ばされていた。
グラディウスと同じくらい、もしかしたらそれ以下の理解力しかない者達が並べられ、難しい言葉が一切使われない説明を受けるの繰り返し。
他にすることは、定時に食事に向かい、定時に公衆浴場で体を洗い、定時に洗濯を行う。
ベッド一つしかない小さな一人部屋を割り当てられたグラディウスは、驚きながらも非常に喜んで窓の外を見て過ごした。
グラディウスは最初外がずっと暗いので、どうして夜ばっかりなんだろう? と不思議で仕方なかった。親切な人が教えてくれたのだが、グラディウスには全く理解できなかった。
だが教えて貰ったことが嬉しくて、グラディウスはその人の仕事場へとちょくちょく顔をだしていた。
「フェリエ。妹さんがきたぞ」
「妹な訳ねえだろ。どう見たって、娘くらいの歳だ」
ほぼ完全無人操縦が可能な輸送船に航海士などが同乗しているのは上記の理由『権力を表すために人を使う』をもっともらしくするため。
その目くらましに使われる人たちは暇で仕方ない。
暇な輩は給料も高くはない。これで厳しくしてしまうと人員確保ができない恐れがあるので、サンプル回収用に無人輸送船に乗せる技師を得る為に理由を知っている上層部は多少規律が悪くても目をつぶっていた。
「おーグラディウス、元気にしてたか」
「うん!」
操作室に操縦士以外が立ち入りしても、誰も咎めることはない。基本の操作は全て機械が行っているので、彼等の前の前にあるのは飾りに等しい。
『もしも機械が何らかの理由で誤作動、もしくは破壊された場合』の為に待機しているのだが、彼等が操縦することは無いと言っても過言ではなかった。
行儀悪く操作卓に足を乗せてヌードルをすすっていたフェリエは、訪れたグラディウスに予備の椅子を出して近くにあった飴を二個掴んで掌に乗せてやる。
「くれるの?」
「もちろん」
「ありがとう!」
飴玉二個で心の底から喜ぶグラディウスを、フェリエを含む航海士達は複雑な心境で見守っていた。
帝星宮殿の人員入れ替えは、大々的な物と小規模な物があり、小規模な物は頻繁に行われている。その為フェリエ達は新皇帝登極以前、前皇帝崩御前にも何度か人を宮殿に運び届けることをしていた。
「ん? どうした?」
「一個どうぞ」
差し出された飴玉を受け取り、包みを開きながら垢抜けないグラディウスの “ぼはっ” とした顔を眺める。
田舎から帝星や首都星へと人を運ぶ彼等にとって、グラディウスのような子供は決して珍しくはない。そしてこの存在が、非常に危うい存在であることも知っていた。
数年前に運んだグラディウスのような素朴な少女が 《売春婦絞殺される》 とニュースに顔写真付きで掲載されていることもある。
その映像は帝星を訪れた時とは全く違っている。昔の面影はあるが疲れ猜疑と苦悩に満ちた表情になっていた少女の表情に、気分が重くなる事もしばしばだった。
人を信じて笑っていた少女を絞殺した犯人は未だ捕まっていない。
「どしたの」
口の中で飴を勢いよく回転させているグラディウスの頭にフェリエは手を置きグリグリと撫でる。
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