、君
黄金。海に【05】
 極上シュークリームと激うまエクレアをご馳走になった!
 ハイネルズが大人になったらこんな顔……雰囲気は全然違うけど、そんな感じの男の人がお菓子を作って持って来てくれた。
 最初はどこで買ったんだろう? って思ったけど、手作りなんだって!
「口に合うか」
「はい!」
 デウデシオンが今まで買ってきてくれたお菓子も美味しかったけど、この人のお菓子はそれよりも美味い!
「とってもおいしいよ! しゃ、しゃた……しゃたさん!」
 シャタイアスさんな。
 もぎもぎも俺もカスタードクリームを口の周りにつけながら、必死に食べた。その姿を見ながら、アレステレーゼさんは笑ってた。
 優しいんだろうなあ。

**********


「パスパーダとイネス、両名に連絡はとれた。二人で迎えに来るそうだ」
「お手数をおかけしました。ゾフィアーネさん」
「構わんよ」
「前回といい、今回といい」
「構わない。それに……」
「それに?」
「パスパーダとイネス、両者とも他人とは思えないのでな」
「……(返しづらい!)」

 シャタイアス=シェバイアス。おっさんに負けない仮面夫婦であり、現在はデウデシオンに匹敵するほどの離婚劇を演じている一児の父。

**********


「げぷー」
「げぷ〜」
 もぎもぎと二人でお菓子食べた。美味しかった
 もう二個くらいは入りそうだったんだけど、アレステレーゼさんに止められた「晩ご飯食べられなくなると困るからね」って。
 止めてもらって良かった。
 すこし時間が経ったら、お腹がふくれてきた。晩ご飯のためには少し運動……デウデシオンとうにゃうにゃした後にご飯食べるとイイのかもしれない!
 でも……アレの後は朝まで目が覚めないし。違うのでお腹いっぱいになってるような気がするし……
「残りは持って帰ると良いわよ」
 そんなこと考えてたらアレステレーゼさんが可愛い箱にお菓子を詰めてくれた。きれいに並んだお菓子だ!
「いいの? エバたんの母ちゃん」
「もちろん。そしてまた遊びに来てくれるかしら?」
「うん!」
「ザウディンダルちゃんも」
「は、はい!」
 病院って楽しいところだね。
 部屋は大きいし、ベッドも大きいし、絨毯綺麗だし。ちょっと壁に飾られてる絵は怖いけど。すごく上手なのは俺でも解るんだけど、なんかさ、お花畑に噴水っていう有り触れた風景が描かれてる絵なんだけれども、怖いんだ。色もパステルカラーでほわほわしてるのに、なんか怖い。迫力があるって言うのかな? なんでもその絵はアレステレーゼさんの旦那さんが描いたんだって。
 旦那さん絵を描く人なのかな?
「ザウディンダル!」
「グラディウス」
「迎えにきてくれてありがと! おっさん」
「デウ! デウ! みぃ〜」

 俺はデウデシオンに、もぎもぎはイネスのおっさんに抱きついた。こうして俺ともぎもぎの、初めての冒険は終わった(あとでハイネルズが”初めての冒険ですね”って教えてくれたんだ!)おっさんはもぎもぎに勢いよくぶつかられて、ちょっと”よろよろ”してたけど、とっても嬉しそうだった。
 俺からはデウデシオンの顔は見えないけれど、おっさんみたいに嬉しそうな顔してくれてたらいいなあ!

「こっちからも連絡するから、グレスもざうにゃんも気軽に連絡してね。些細なことでも教えてね」
 帰る時にエバたんがメルアドと携帯電話の番号を書いてる、名刺ってやつをくれた。青い水にカジキマグロの写真が印刷されてる”友達に配るためのもの”だって。
 そういえばキーレンクレイカイムから貰ったのも、そういう物だったなあ。
「暇な大学生だから、是非とも遊んでやって頂戴ね」
「母さん! でもまあ、今はわりと暇だから、遠出したいときに誰とも予定が合わなかったら連絡してみてくれ」
「ありがとーエバたん」
「ありがとな、エバたん。どうしたのデウデシオン?」
「いや……申し訳ない(ゼンガルセンの義理の息子をエバたんなあ……)」
「いえいえ。エバたんって顔じゃないですけれども」

 なんだろう? デウデシオンの表情が凍り付いたような気がした。

「そんな事はない……のではない……のではないか? なあ、イネス」
「はあ、まあ、そうかねパスパーダ。まあ、その、なんだ。あれだね、うん。さりとて問題ではあるまい、ふむ」
「……(返し辛いだろう)」シャタイアス

 アレステレーゼさん、シャタイアスさんとは病室でお別れした。エバたんは出口まで見送りにきてくれた。
「ばいばい! エバたん!」
「またね、エバたん!」
「ああ、またね。今度は遊びに行こうね」

 家に帰ってもぎもぎとまた遊ぼうって約束した。

 それでね、セックスするまえに晩ご飯に食べたいものがあるって言ったら、デウデシオンは笑顔で”作ってやるぞ”って言ってキスしてくれた。
 晩ご飯を食べられるくらいに、軽く抱かれた。もちろん俺は意識失ったけどね! 気持ちよくて。
「ザウディンダル。用意ができたぞ」
「デウ……」
 デウデシオンに抱きかかえられてダイニングに。
「ほら、ザウディンダル。お前の希望の”パイナップルに乗ったハンバーグ”だ」
「ありがとー」
 もぎもぎが言った通り、パイナップルにハンバーグが乗ってる!(もぎもぎの説明間違い。だが問題はない)
 デウデシオンに切り分けてもらって、冷まして口に運んでもらうのも大好き! もちろんハンバーグも美味しい。今日は美味しいづくしだったなあ。
「それにしても突然だな」
「なにが?」
「缶詰のパイナップルを使った料理が食べたいというのがだ。お前、好きだったのか?」
 俺はもぎもぎから聞いた話をデウデシオンにした。
「そうなのか」
「でね! もぎもぎが大好きなパイナップルみたいな頭のほぇ様がさ! 黄金の海に消えたの!」
 そう言ったら、デウデシオンは
「パイナップル頭のほぇ……ぷっ」
 口を手で隠した。
「どうしたの? デウデシオン」
「どんな奴かな……と思ってな。パイナップル頭のほぇ様とやら」

**********


 そして黄金の海の下。海中とも言う。
「攻撃用意!」
 巨大潜水艦(あり得ない攻撃力を所持)指揮官マルティルディの突然の号令に、
「マルティルディさま!」
 副官兼幼馴染みの白鳥(ザイオンレヴィ)が、何時もの通り全身全霊で攻撃理由を尋ねる。普通であれば攻撃を止めさせるのだろうが、白鳥にはそんな思考回路は存在しない。
 ”取り敢えず理由を聞く”それだけしかできない男であった。
「なんか僕、ここにミサイル打ち込みたくなったんだ」
 マルティルディが指さしたポイントは、
「そこは僕の父親のマンション! あのエロオヤジがなにかいたしましたか!」
 ダグリオライゼの住むマンション。
「なんとなく、むかっ! としたの。だから」
「お許しください! お許しを! マルティルディさま!」
 珍しく白鳥は抵抗した。抵抗といってもマルティルディを背後から羽交い締めにしているようにするだけだが。もちろんマルティルディが本気になったら、白鳥の羽交い締めごとき問題にはならない。


 そして……その”むかっ”とした理由はおそらく……


「うおおおお! なにをしておるのじゃあ! あの二人は」
 海軍指揮官のやりとりを見ながら悶える空軍指揮官、その名はイデールマイスラ。
「見ての通りではないかな」
 隣には空軍総司令のガルベージュス。
 同じ容姿の筈なのに簡単に見分けがついてしまう二人。もちろん階級章がどうの……といったレベルではない。
「あいつらはいつも一緒に居おって!」
「海軍所属だからであろう」
「ベッドに交互に寝おって!」
「海軍の伝統であろう」
「なぜ儂とマルティルディは同じ場所に配置されんのじゃ!」
「海軍と空軍だからではないかな?」

 毎度毎度の会話なので、部下たちも慣れたものだ。
 
 だが今日はそこから更に「先」があった。

 ガルベージュス出かける用事があったので、ついでとばかりにイデールマイスラを連れて戦闘機で上空へ。そして海へとイデールマイスラを突き落とした。
 戦闘機の高度がどんなもんかは、適度に想像してくださいな。
「がるべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー」
「感謝の言葉などいらぬ! 君とわたくしは友ではないか!」

 イデールマイスラは感謝などしていないと思われるが、そんなことガルベージュスに言ったところでどうにもならない。
 海に消えた友人に”さあ、マルティルディのところまで潜れ”と言い残し、彼は講師として招かれている学校へと向かった。

 海に沈む大きな夕日に吸い込まれるかのような戦闘機の姿は美しかったが、それを見たものは誰もいない。ただ大自然が、それを受け入れ見守るだけ。

黄金。海に[終]

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