、君
黄金。海に【04】
 エバたんお兄さん。本当の名前は”エバカイン”さんと言うらしい。
 グラディウスをおっさんの所まで連れてきてくれた人だってさっき聞いた。
 キーレンクレイカイムよりも鋭い顔つきで、近寄りづらい空気が出て……た、気がしただけだったって、すぐに解った。
「どうしたの、グレス? 迷子になったの」
 誤解ってやつだな。
「うん!」
「そっか。あ、これ落とし物のお財布。適度に管理しておいて」
「偶には名乗って下さいよ」
 抱きついているもぎもぎを撫でながら話ている会話を遮るように俺の腹が、

「ぐぅ〜」

 鳴った。そりゃもう大きく鳴った。
「あのねざうにゃんて言ってね、あてしのお友達なの。お腹空いたかもしれない」
 エバカインさんは笑って頷いて、
「初めまして。エバたんお兄さんことエバカインと言います。海洋学を専攻している大学生で、グレスの知り合いです。お名前はざうにゃんでいいのかな?」
「う、うあ。ザウディンダルだけどざうにゃんでも良い」
「そう。グレスもお腹空いた?」
「空いた!」
「俺も空腹だから、これを届けたら食事にしようと思ってたところなんだ。一緒に食べに行かない? 交番の向かいの中華料理屋さんに。美味しいよ」

 俺たちは頷いた。

「美味しいね」
「美味しいね」
 俺ともぎもぎとで食べながらエバたんが来るのを待ってる。
 エバたんと一緒に中華料理屋に行こうとしたら、財布を落とした人が大慌てで交番に飛び込んで来て、無事に届けられていることに感激(なんでも大金が入ってたらしいよ)是非ともお礼をさせてください! って頼み込んできた。
 エバたんは”お気遣い必要ありません。当たり前のことをしたまでですから”って言ったけど負けた。
 ヘスも感謝してる人の味方で、結局エバたんは負けて届けを出すことになった。
 その間、俺たちには先に食事しててね! って……。本当は待ってようと思ったんだけど、先に食べてて欲しいって言って……くれたから。たぶん、エバたんお腹空いてないんだろうな。
 そういう大人の気遣いってのが出来る人なんじゃないかな……と。
「パイナップル!」
「これ、パイナップルって言うんだ!」
 酢豚に入ってた。
「酢豚にパイナップル入るのは嫌っていう人もいるけれど、あてしは大好き! ハンバーグも乗るんだよ!」
「そうなんだ! デウデシオンに作ってもらおうかな!」
 二人でご飯食べてると、エバたんがやってきて、俺たちが残してたのと餃子を追加注文して、かなり早く食べ終えた。
「デザートは我慢してくれるかな?」
「要らないよ!」
「いらないよ!」
「見舞い先に美味しいお菓子があるから、食べて欲しいなって思ってさ」
 お会計になったとき、お金払おうとしたんだけどお店の人に「うちの店、電子マネー対応じゃないんで」って言われちゃった。
「俺が払うって。気にしなくていいよ」
「でも!」
 エバたんは財布からお札を取り出して払ってしまった。
 俺はしっかりと自分が食べた料理の金額は覚えておいた! あとでデウデシオンに言うんだ!
「グレスのお向かいさんなんだって」
「はい!」
「じゃあパスパーダさんのお家に住んでるんだね」
 俺たちはエバたんと一緒に歩いて病院に向かった。
 エバたんのお母さんが入院してるんだって。
「どこ悪いの?」
「悪くないよ、ただの妊娠。年が年……っていうと母さんに叱られるけどねー。あの人にとっては大事な跡取りだから、万が一のことも考えてのことだろう」
 ? なんかおかしくないか? 今の喋り方。
「エバたんは跡取りじゃないの?」
「あ……うん! 俺の母さん再婚で、再婚相手のお家がお金持ちで、跡取りとかが大事になるお家なの。俺は特になにもないよ」
「エバたんの母ちゃんに会えるの楽しみだ!」
「もぎもぎ会ったことあるの?」
「うん!」

 俺は病院に来るのも初めてだけどな!

「久しぶりね、グレス」
「エバたんの母ちゃん! 久しぶり!」
 もぎもぎは大喜びで近付いていった。
「あ、あの……」
「初めまして、アレステレーゼよ」
「は、初めまして! ザウディンダルって言います」

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