君雪 −15
 私 を 抱いた 後 ケセリーテファウナーフ は 申し訳 なさそうに 頬 を ゆび で なぞり 「大丈夫か?」 と 尋ねて くる
 性 行為 が 私 の 脳 に かける 負担 と 逃れ られない 記憶 の ……
「だいじょうぶ もっと しようよ ケセリーテファウナーフ この ていど じゃあ 足りない でしょう?」
 私 は 腕 を 伸ばして 首に絡め ケセリーテファウナーフ の 唇を 噛んで 舌を少し いれる
「足りる、足りないではなかろうが」
「もう一回だけ」


 くろく ながい かみ を りょうて で つかん で はてた


「何日くらいで回復して会話できるようになるのだろうな、カウタマロリオオレト。目を覚ましても視点合わず、虚ろなまま何も言わないお前を見ているのも辛いんだぞ。でもお前に誘われると……断れるわけないだろう。誘うな、私にお前を壊すような真似をさせるな」


 たいよう の ひとみ が せんし した


「そうすい もうしわけ ございません わたし の ちから およばず」


 わたし と レーザンファルティアーヌ が あそんで いた へや に きて ケセリーテファウナーフ は ちから なく あたま を さげ た


 わたし は へや から でて いこう と したの だけれど レーザンファルティアーヌ が そこに いろ と めいじ た から だまって そこ に いた


 あたま を さげる だけ の とうてい こうてい に たいして の しゃざい に ならない ような しゃざい を まえ に レーザンファルティアーヌ は わらった 


「この レーザンファルティアーヌ そなた が いきて いた こと を ふまん に おもう ような あに と おもって おるのか それ ほど に よ は はくじょう か わ が おとうと よ よ は こうてい だが そなた の あに でも ある わすれ たか くろとはうせ よ」


 そう いって ケセリーテファウナーフ の そば に ちかより かお を りょうて で つかみ じぶん の かた に おし つけた


 ケセリーテファウナーフ は レーザンファルティアーヌ の せなか に うで を まわして こえ を あげて ないた
 
 ケセリーテファウナーフ が こえ を あげて ないた の を きいた の は これ が はじめて


 レーザンファルティアーヌ は ずっと ケセリーテファウナーフ の せなか を やさしく たたいて おもう ぞんぶん なけ と そして


「そなた の だいじ な あに を まもって やれなかった この あに の しったい でも ある」


 わたし も なきたかった でも なかない 

 ケセリーテファウナーフ と いっしょ に へや に もどって むごん の まま べっど に はいった


 ないていた ケセリーテファウナーフ の あたまを だきしめる こと しかできなかった
 でも ないてくれて よかった


 レーザンファルティアーヌ は ないて くれない から わたし は だきしめること も できない


【彼は神だ。銀河帝国皇帝、それが神。私たちは彼を崇め、彼は君臨する。私たちは彼に絶対の忠誠を誓いながら裏切り、彼は私たちすべてを慈しむも死を与える。皇帝とは矛盾する存在だと、彼は言った】


 くろい かみ を ゆび で なぞり ながら わたし は なにも いうことが できなかった けれど ケセリーテファウナーフ は わたし の むね に くちびる を おしつける ようにして いった


− かみを すかれるのは すきではないが おまえに してもらうのは ここちよいな −


 くちびる と といき の あたたかさ を うすい ぬのごし に かんじ た


 わたし は ケセリーテファウナーフ が なきやむ まで かみ を ゆび で すいた


 この くろい かみ が すき


 わたし の なか から いろいろ な こと が きえて ゆく 


 ことば に すると 「 せかい が しろく ぬりつぶされて いる 」


 バゼーハイナン の しろさ とは ちがう しろさ


 き が ついた とき あしもと は まっしろ だった まわり も まっしろ だった


 こわくて いそいで そこから でようと して かけ まわって やっと そとに でられた と そらを みあげたら


 そら も しろく なって いた


 わたし の せかい から いろ が きえた



 ないて いる ケセリーテファウナーフ を だきしめ た まま ねむって いた


 め を さました とき わたし は ケセリーテファウナーフ を だきしめて いた


 わたし の むね で ねむって いた ケセリーテファウナーフ の かみ をつかみ わたし は いのる


 この くろい いろ だけは わたし から うばわない で ください



【黄金なる金星ケシュマリスタ それを包むかのような漆黒の宇宙        赤よ その真祖の赤 罪深き 真なる 】



 わたし から くろい そら を うばわない で ください この くろい そら が わたし の きょむ に とけて なくなって しまわぬ よう に


 ……私が忘れなければいいだけなんだよね。


「やはり触れるのは、もう少し控えた方がいいな」
 ケセリーテファウナーフがそう言いながら、私の顔を優しく撫でるように触っていた。ケセリーテファウナーフに触れられた後、記憶と神経の混濁が酷くなっているらしい。
 元に戻るまでの時間は徐々に増え、戻る記憶は徐々に減っているそうだ。
 でも私はケセリーテファウナーフに触れて欲しい。ただこうやって触れるだけなのも嬉しいけれど、深く唇と指とすべてで愛されるのも好き。私は私が壊れることを知っていても、情欲は捨てられない。


 本当に悪いのは私だよ。


 ケセリーテファウナーフの手に触れて、私は元気だよと伝える。
「お前をあと何度抱けるだろうか? 私が死ぬより前に忘れられても困るからな」
 やっぱり! 忘れない方がいいんだよね!
 頑張るよ、ケセリーテファウナーフ。
 私、絶対に忘れない。たとえケセリーテファウナーフが戦死してしまったって、私は私が死ぬまで忘れない!


「どうしたら親王大公殿下のお名前を忘れないでいられるか? ということですね?」


 一生懸命にサベルスに話しかけたら話が通じた!
 良かった!
「それでしたら、文字を覚える基本と同じで書き取りをなさったら如何でしょうか? 親王大公殿下のお名前を一日十回くらい書かれれば忘れないと思いますよ」
 そうか!
 そうだね!
 サベルスに紙とペンを用意してもらって、
「えっと、私でよろしければ手本になる親王大公殿下のお名前を書きますが」
 書いてもらった字を見ながら、サベルスに手を取ってもらいながら私は何度もケセリーテファウナーフの名前を書いた。
 何度か書いているうちにサベルスに手を取ってもらわなくても大丈夫になった。字はサベルスよりも圧倒的に下手だけど。一生懸命手を動かしても、上手に動かないんだ。
 でもそこに書いてあることは解るから、私は声に出しながら字を書く。
「ケセリーテファウナーフ・ダイシュリアス・アウグスラス」
 文字を追いながら名前を声に出す。それだけで幸せになれる、この宇宙にこれ程私を幸せにしてくれる名前はない。もちろんケセリーテファウナーフの存在は、名前を書いて読むこととは比べ物にならないほどに私を幸せにしてくれる。
「何をしているのかと思えば……」
 ケセリーテファウナーフは床に落ちている私が文字を書いた紙を拾い、
「見本を私が書いてやる」
 ケセリーテファウナーフが書いた文字はとても綺麗だった。
「何、人の書いた紙を持って笑ってるんだ?」
 だってとても嬉しいんだ。ケセリーテファウナーフが私のために書いてくれた自分の名前。
「そろそろ “お前の仕事” が始まる。失敗しないようにな」
 どこだったけ? 惑星の記念行事に参加するんだったね。
 雪がいっぱい降る惑星で、雪祭りをしているって聞いたな。楽しみだ。



− そらのとけるおとをきいたの・終 −



 琥珀色の目が綺麗だった。
 もっと色々と美しいところがあっただろう。でも今私が覚えているのは、あの瞳の色だけ。
 エバカイン・クーデルハイネ・ロガという青年が死んだその時から、この結末しかなかったのだと私は《その時》に理解した。



わたし の そら は とけ あなた の たいよう は しずむ の か




novels' index next back home
Copyright © Teduka Romeo. All rights reserved.