PASTORAL −50
「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」
「五人程取り逃がした」
 三十人ほどいたんだけど……倒せると思ったんだけどな……。全員は殺しきれなかった事を村長代わりのキャセリア医師に伝える。
「対空砲は一機残して全て破壊した。何かの為に残しておいた方が良いと思って。一応持って帰ってきたから、ランチャーニに整備してもらって使えば良い。全員殺しきれなくて悪いんだが、急いで飛び立たなけりゃならないんで行かせてもらう。後日、何らかの措置を取るからそれまで我慢してくれ」
 他人の責任にしたくはないんだけど、サンティリアスに邪魔されたような……何だろうな? サンティリアスはサダルカンの一味と繋がりは無いようだったが、なんて言うか足を引張るような事を。
 そんな訳で全員倒せなかった。結局、俺の腕が悪い訳でもあるんだが。うん、確りと反省しよう……反省して強くなるなら、誰でもするか……。
「い、いや、充分です。まさか其処までしてくれるとは、村人代表で感謝させてください」
 感謝なんていらないって。俺の目的が偶々一致しただけであって、感謝されるような事はなにも。
「別に感謝などしなくていいですよ。ついでの様なものですから、それでは」
 そんな訳で俺は出立しようと思ったんだが
「お一人で行かれるつもりですか?」
「仕方ないので」
 一人で宇宙船を航行させるのは、原則的に禁止。自動操縦があっても四人は乗ってないとな。
 ほら、突然船の自動操縦が効かなくなった際に一人だと対応できないから。それで他の宇宙船に衝突したりすると惨事になる。だから四人乗ってないと捕まるんだけど、この場合はそうも言ってられない。
「ラウデの船で行かれたらどうですか? あんな船ですが、どうにかなるかと思います。よければ私の方から伝えさせていただきますが」
「……お願いする」
 断るのは簡単だし、断った方がいいとも思うんだが……自動操縦が効かない区域とかあったら結構困るから……甘えるべきかなあ。
 ところで俺、帝星に戻ったらどの手順で陛下に謁見に向かおうか?
 名前を出してもダメだろうし、かつての上司は普通の軍警察の大佐だからなあ。大佐、貴族だけど家名持ちじゃないから、宮殿に立ち入る許可を取ってもらえるわけでもないし。
 俺、家名持ちの知り合い殆ど居ないんだよな。陛下の警備主任の一人サベルス男爵くらいのものだ。大体、俺自体が「家名」持ってないから「家名」持ちの知り合いなんているわけないんだよ。
 帝星の宮殿は基本的に「家名」を所持している貴族しか立ち入る事が許可されていない。
 貴族の従者としてならば立ち入れるが、それは制限されていて、当然皇帝陛下の拝謁など許可されない所か、皇帝陛下が歩かれる予定の廊下の周囲に近付く事すら許されない。
 家名のある貴族と家名の無い貴族では、全く扱いが違うし、認識も違う。家名がある貴族からすれば『家名がなく爵位を持っている貴族』なんてのは、下級貴族と変わらないものらしい。
 家名持ちの男爵と家名無しの公爵を比べれば「男爵」の方が上だ。
 今現在俺は、クラティネと結婚し「ケシュマリスタ」の家名は持ったものの、この事が知れれば離婚(結婚した事実は書類に残る)若しくは破婚(結婚の事実を書類から抹消する)させられるだろうから、また家名は返上だろう。
 家名自体は欲しいと思った事はないが、現陛下に、宮殿で、家名も持たない貴族が拝謁したのは俺だけだ。離宮であれば、爵位だけで何とか通してもらえるようだが……そう思えば破格の扱いだった気がする。いや、破格の扱いだよ。
 俺にわざわざ『サフィス・ベルレーヌ:皇帝第三子』の称号まで授与してくださったんだからさ。普通は妾妃の子にこの称号はくれないよ。
 爵位は大公ではなく『宮中公爵』だった訳だが、俺としては全く不服はなかったんだけど、周囲が気を遣って『ガラテアの皇子』と呼んだ。ラウデも俺に向かって『ガラテアの皇子』って呼びかけてきたのは、大公じゃないから……こう同情というか、何と言うか……。そんなに気使ってくれなくていいのになぁ……と。
 普通“皇子”だと“大公爵”じゃないか、それも親王大公爵。でも俺が賜ったのは宮中公爵だから、親王大公爵とは雲泥の差があるわけ。
 でも『第三子』の称号は持ってるから……みんな考えたんだろうね、普通一番偉い称号で呼ばなきゃならないから、俺の名前の中で一番高い称号は『第三子』次が『ガラテア宮中公爵』
 皆、称号と称号を無理矢理合わせて『ガラテアの皇子』って呼んでたんだよなあ。
 ……軍警察時代、部下に「何で“ガラテアの皇子”なんですか? エバカイン皇子じゃダメなんですか?」と聞かれた事がある。お前どうやって軍の採用試験を通過したんだ? と聞きたくなるような質問を真顔でしてきた男。さすが、俺に『宮殿の便座は金で出来てるんですか?』と聞いてきただけの事はある。
 サフォント帝のお名前は“レーザンファルティアーヌ・ダトゥリタオン・ナイトセイア”……三回くらいは舌を噛めるお名前である、下々が口にして良い名前じゃないな。
 じゃあサフォント帝が皇太子の頃“レーザンファルティアーヌ皇太子殿下”と呼ばれていたか? 答えは否だ。“サフォント皇太子殿下”だった。皇太子殿下に立たれる前のサフォント帝が“レーザンファ…(心の中でかんだので略)…皇子”って呼ばれてたか? と言えば違う。サフォント皇子だ……要するに、尊称に敬称というような名前の組み合わせが一般的なんだ、皇族や王族は。
 カルミラーゼン兄大公がもしも皇帝になるとしたら“カルミラーゼン帝”であり、クロトハウセ弟大公が皇帝になったら“クロトハウセ帝”、ルライデ弟大公も“ルライデ帝”となる。皇位継承権を持っている人は、皇位継承名というものも同時に持っている。
 多くはその皇位継承名に「親王大公爵」の称号を付ける、そして皆その敬称で呼ばれるのであって、名前で呼ばれることは無い。
 俺は皇位継承権は持ってないから、皇位継承名もない。だから「ガラテア宮中公爵」の「ガラテア」が尊称になる。でも「親王大公爵」でも「大公爵」でもない、だが皇子だ……という事で「ガラテアの皇子」っていう変則的な呼ばれ方になったんだが。

説明している途中で寝るな! 金の便座の……

「思い出した!」
「何がですか? ガラテアの皇子」
「ラウデ? そうだ! ラウデ! お前の部下にカンセミッションってのが居なかったか?」
「……おりましたが……あのバカ……何か……失礼でも?」
 何故かラウデの言葉が、切れ切れになってる。色々やったんだろうな、あのカンセミッション……。まさかカンセミッションのせいで軍を辞めた訳じゃないよな……。き、聞くに聞けないな、これは。
「何でもない、思い出しただけだ。忘れてくれ……それで乗せて行ってくれるのか? 代金はかなり後になって支払う事になるけども良いか」
「なあに、ヤツラのアジトから金目のモノ運び出したんで。ソレを売らせて金にさせてもらいますよ。貴方が居なければ出来ない事でしたので」
「だが……危険だぞ?」
「解かっておりますよ、ガラテアの皇子」
 
お言葉に甘えさせて頂くか

novels' index next back home
Copyright © Teduka Romeo. All rights reserved.