PASTORAL −48
「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」
 ふ〜む、ベッドの上のようですね。これはどうやら、私の旗艦の私の私室の私の寝室のようですね。
「どれ程寝ていました」
「一時間ほどです」
「姫は?」
「外でお話をされていらっしゃいます」
「では私も」
 そうですよ、私にはまだする事があるのですよ。逃げたサダルカンの残党討伐ですよ。兄上はとても心配していらしたので。船から下りたところ姫とカルミニュアルが楽しそうにお話してらっしゃいました。
「目覚めたの、ルライデ」
「はい」
「別に殴って意識を失ったからって、心配したりしてないから!」
「はい、ご心配をおかけしなくて良かったです。それでお聞きしたいのですが、ザガルカンの残党は何処にいますか?」
 それを刈って粉々にぶっ殺して帰りましょう。何故ならば、この惑星には年頃の娘さんがカルミニュアルしかいないんですよ? 意味解かります? 解かるでしょう? サダルカンの一味が……ああっ! 考えるだけでも悔しい! 弱い私がいた所で何の解決にもなりはしないでしょうが、あああ! 殺すだけでは物足りないぃ!
 カルミラーゼン兄上殿であれば、多種多様な拷問も出来るのでしょうが……私はその知識が薄く!! 兄上殿にご教授いただいてくるべきであった!
 サダルカンの残党は、近くの山に隠れていているそうですが、やはり食糧などが欲しくなると降りてきて略奪していくようです。前のように派手な略奪はしないそうですが、家畜を盗んだり農作物を盗んだり……貴様等! 彼等が苦労して作ったものを! 我々シュスターヌ(皇族)にすら収められていない品物を盗むとは! どの惑星でも最初に納められるべきはサフォント帝に対してであって、盗人が勝手に奪って腹に収めていいものだと思うな! 
「残党狩りに行きますか」
 とにかく、刈って来ます。そんな討伐するつもりで、強い部隊を率いてきたのですがその部隊長が、
「我々のする仕事ではありません。後日、格の低い軍警察でも派遣してください。その程度の事で我々が動いては、部隊の軽重が問われます」
 私に意見するのは良いんですよ、許可されている事ですから。
 でもね、だったら最初此処に同行させる際にその理由を聞いて、この惑星までついて来なければ良かったのではありませんか?
 そして、どうやらそれは部隊の総合的な意見だったようです。部隊長が私に対して意見を述べる事が出来るように、部隊長の発言を否定する発言を隊員はできます。部隊長の発言終了後10秒以内に発言(一声をあげる)すれば、それは正式な意見として通るのです。
 全く、手間ですがもう一度戻って、警察部隊を連れてきますか。ロガ兄上様に頼まれた事、他人任せにする訳にはいきませんので、再び私も同行しましょう。
 私がクロトハウセ兄さんほど強くないのが悔やまれますよ、本当に……そう思っていた時です、目の前で部隊長が吹っ飛びました!
 言葉に出来ない音が周囲に……た、多分あれ、内臓の幾つかと骨が同時に破裂した音だと思います。
「何が部隊の軽重ですって! 皇帝陛下の臣民を守る栄誉を拒むとは、貴様達それでも帝国治安の維持に携わる兵かっ! 今すぐ私の手にかかって死になさい!!」
 姫です。
「高が地上陸戦部隊程度で軽重だと!」
 因みに姫は、帝国近衛兵団に所属なさってまして、結婚前はテルロバールノル国軍の総帥(最高位)であらせられました。うん、格が違うね。
「軽重を問うならば、私を越えてから言いなさい!」
 無理ですって、姫。とか思ってたら、副隊長の顔を叩いた……うわぁぁぁ人間って首360度以上回転するんだ……。私、手加減されてて良かった……。じゃなくて!
「姫! 姫っ! 落ち着いてください! この者達は……その、弱いので! 弱すぎるので帰しましょう!」
 意見がどうの、とかそういうレベルじゃないと思う。正しいとか正しくないとかじゃなくてね。まあ私も残党狩りを拒む事で部隊の価値が上がり、残党を狩る事で部隊の価値が下がるとは思いませんが。
「こんな弱いの、帝国軍に置いておくべきじゃないわ!」
「ほら、私が弱いので! 誰が強いのか判別が付かないんですね! 私よりは強いですし」
「今度から私が選んであげるから! こんな弱いの連れて歩かないでよ! 恥ずかしい!」
 尤もです、姫。……で、姫は何をなさるおつもりですか? 宇宙船の方へ駆け出して
「早く来なさいよ、ルライデ! 退治しに行くわよ!」
「えー……誰がでしょうか?」
「私と貴方に決まってるでしょう! 貴方の分の戦闘用の服も作って持ってきてるから!」
 私がですか? 間違いなく足を引っ張るか、全く役に立たないと思うのですが。付いていかない訳には行きませんので、取り敢えず行ってきます……その前に、
「ああ、君達。その隊長と副隊長がぶちまけたモノを回収して清掃した後、物品倉庫の隅に固まっててくれ。次、姫に見つかったら唯じゃ済まないだろうからね」

黙って戦ってれば、こんな目に合わなくて済んだのに、口は災いの元ですね。
意見するのは良心が咎める命令であって、このような些細ながら重要な命令に対し己の名誉云々を語るのは愚かという事を知れて良かったかもしれません。

 姫が準備して下さった戦闘服は……テルロバールノル国軍の上級大将のモノです。
「上級大将の制服ですが、よろしいのですか?」
 姫は総帥服です。まあ、姫は公爵家に戻るつもりですし、あの両親も手放さないでしょうからね。それにしても私が上級大将はどうかと思いますよ?
「べっ! 別に、私の夫だって認めた訳じゃないからね! いい気にならないでよ! 似合ってる! なっ、なんて絶対に! 思ってないからねっ!」

そんなこんなで討伐しに行ってきます……主に討伐するのは姫だと思います。私、とても弱いので。

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