「口に合わないとは思いますが、食ってください」
今何をしているかというと、食事を振舞われている。
あの後、ラウデとキャセリア医師に引き止められて「せめて一日くらい身体を休めてから!」との事で。
此処で村人とその他を説明しよう。誰に向かってか? 簡単だ、自分自身に対してだ。
村人はランチャーニとカルミニュアルそれとトコヤマ。カルミニュアルは十八歳で、両親はサダルカン達に殺害された……これだけでサダルカン達を倒す理由はある。
実際カルミニュアルは食事も作って運んできてくれた『何食べるか解からないんで!』……別に変わったもの食べてるわけじゃないんだが……そんなに変わったモノ食べてそうな顔してるんだろうか?
メニューはゆで卵とパンと人参と玉葱のピクルス。ありがたいね、本当に。
ランチャーニはこの村の村長だった人の孫。村長は既になく現在村長はこのキャセリア医師が代理で務めているんだとか。
このキャセリア医師は、帝星の中央医療センターに勤務していた帝星中央医大の助教授。エリートというか将来を嘱望されていた下級貴族だったようだが……此処に来た経緯は知らないが、自前で医療艇を買って此処に一人で来たらしい。
医師の使命感に目覚めた? とか言うところかもしれない。
そして補給と用事の為にこの星に立ち寄って、奇跡的に無傷で不時着したが飛び立とうとすると狙われて困っているのがサンティリアス船長率いるタースルリ号の面々。航海士のラウデと整備士のサイルとサラサラ、整備士は兄妹。タースルリ号は非許可の貨物船。
ちなみに、キャセリア医師とラウデは知り合い。そのラウデは俺が密輸船を追って銃撃戦をしていた時の移動艇の操縦をしていた事があるらしい。……全く覚えてない、悪い……。
サイルとサラサラは平民で、ラウデは下級貴族、サンティリアスは奴隷という階級構成。
俺の側には下級貴族の二人しかいない……多分、身分を気にしていると思うんだけど、それ程気にしない方なんだが……。まあ、ねえ……銀河帝国皇帝の異母弟ってのは、奴隷階級からみれば凄い立場なんだろうな。
「俺がご相手するなんぞ、無理ですが。身分上の兼ね合いで。無骨な軍人上がりの非認可船の航海士程度ですが、お側に居させて置いてくださいな」
と言いながら彼はゆで卵の殻をむいた。
彼は、ラウデはそれ程無骨では無いだろう
あれは初めて謁見した日の事。
「兄弟だけで話をする」という事で、庭に連れて行かれた。
そこで、サフォント帝とカルミラーゼン大公とクロトハウセ大公とルライデ大公とで、テーブルを囲んで軽食を取りながらお話会とかいう事になったんだ。
その際メニューが何故か……卵だったんだ。なんだったか、凄い逸品モノの卵が届いたので、それを軽く食べるという事になったらしい。
あの帝星の皇帝陛下が「逸品だ」だと言う程の卵で、それを好きな調理法で食べるのだそうで。陛下は元々決まってらしたらしくて手を動かされただけで、給仕が九十度の礼をする。俺の元にはルライデ大公が嬉しそうに、
「兄上様、何になさいますか?」
メニューなんか持ってきてくれてしまう。凄い嬉しそうに……。何を頼んで良いのか全く解からなかったんだが、向かい側に座っていたクロトハウセ大公が、
「私はゆで卵を」
へぇ……と思った。そういうので良いんだ! 渡りに船とばかりに、
「じゃ、お……私もゆで卵で」
そう言った所、ルライデ大公の大攻勢。
「兄上様、ゆで卵ですか! では! ゆで卵は半熟ですか? 固茹でですか? 何をおかけになりますか? 塩でしたらサーミアベウテン星の岩塩、カシュム星の海塩、セイサルト星の……」
何言われてるんだか解からない……というか、つくられる惑星によって塩の味が違うなんて知らない。当時も知らないが、現在も知らない。永遠に覚える事はないと思うけど。
「半熟で。塩は大公殿下が選んでくださると嬉しいです」
そうルライデ大公に依頼した。
「畏まりました! 半熟でしたら……」
全く聞こえなかった、いや一生懸命聞いていたが理解できなかった。それでゆで卵が運ばれて来たんだがエッグスタンドに立ってて……実家じゃあ殻剥いて一口か二口で食べていたゆで卵を、小さなスプーンで掬うこの辛さ。
ルライデ大公はオムレツで、当然ナイフとフォークを使用。それでも、全くカチャカチャ音がしない、礼儀作法の魔物のような人だった。当時まだ十一歳だってのに、マナーは一流。
カルミラーゼン大公は少し胃が痛いのでと、ミルクセーキ……かなり怖かったけど、でも大丈夫陛下に比べれば! その……陛下と家臣を比べてはいけないのですが、その……こう逆三角形のグラスって解かる? そうそう、そのグラス! 大体20cmくらいあったと思うんだが、それに卵が十三個投入されて、それをつかまれた陛下が、
「我が弟の帰還に幸あれ」
仰られて、瞬時それを飲み干された。初めて行った宮殿で、兄上とは言われるが銀河帝国皇帝陛下が目の前で、祝辞を述べてくださった後に生卵十三個そのまま飲み干す姿!
軽くトラウマです、陛下!
陛下(当時十八歳)と俺と生卵のトラウマは良いとして(一生忘れる事はないけれども)それで軍人なんだけど、クロトハウセ大公はあの当時、十四歳で既に尉官だったんだ(実際は将官だったらしいが)。今はオールバックにしている前髪が、その頃は額の真ん中で切り揃えられてて……なんていうのかなあ、オールバックの方がいいよ! でまあ、俺の弟にあたるクロトハウセ大公なんだけど凄く大きかった。
十五歳の俺は175cm前後くらいだったんだけど、十四歳のクロトハウセ大公は190cm越えてた。「弟です」と言われた時の俺の気持ち……そして……。
何故かクロトハウセ大公の前には皿に置かれたゆで卵。俺はエッグスタンドで、クロトハウセ大公は皿に横置き。『何でだろう?』と思った瞬間、卵を殻のまま掴んだクロトハウセ大公、そのまま口に入れた。
目の前で「バーリボーリバリボリバーリボリガツッ」と。平気な顔して二個目も口に運んで「ガリゴーリガリゴリガーリゴリギリッ」……で、また手を伸ばしてた。
生卵一気飲みの皇帝陛下を前に宇宙の脅威を感じて、目の前の殻つき卵を食べる軍人皇子を前に硬直。気持ち解かるだろ! あまりにも凝視していて、気付かれちゃって、
「私、無骨な軍人ですので。食事作法が不快に感じられたのでしたら申し訳ございません」
詫びられてしまった。
「そ、そんな事ないです。軍人さんって側にいなかったから解からなくて……平気ですよ……」
無骨な軍人というより華麗なエリート将校だと思うのだが……と言うわけで、俺はラウデの卵の殻を剥いている手を掴んで言った。
「無骨じゃないさ、お前は」
無骨な軍人ってのは、卵の殻を剥かないで飲み物も必要なく平気で10個くらい食べれる人の事を言うんだよ、銀河帝国では。
翌日俺は、単身……ではなくラウデとサンティリアス、そしてトコヤマさん(村人代表の羊)と共にサダルカン達の所へと向かった。
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