PASTORAL −136
ベッドの上におる、魅惑的なエバカイン。
今すぐ抱いてくださいと言わんばかりの状態のエバカインを前に、余は大暴走したくて仕方のない下半身を制御する。
待ってくれぬかエバカインよ。余は本気で抱いてしまえば、相手を軽く殺せる能力があるのだ! そなたは知らぬであろうが、元々は性処理用の玩具。性処理といっても多数の種類がって、対男性用と対女性用というのが存在しておった。
カウタは対男性用だが、余は対女性用の能力を持っておる。その上に、拷問用サイズを継承してしまった為、扱いを間違うと殺しかねぬのだ。
それにしても、何故わざわざ人造生物に性的拷問を加え能力を備え付けたのか。
必要な情報があるのならば、殺して脳から即座に引き出せば良かろうが。わざわざこんな個体を作らずとも、もっと効率良く情報を引き出せたであろう、当時の科学力であっても。
「全部挿れろとエバカインは言っておるが、収めて動いて死ぬような事はないか」
色々な事が制御できるので、良いと言えば良いが、エバカインの華奢で慣れぬ、むしろ回復力の強い体に故に全く慣れてこないそこに、余が最大の衝撃を加えてよいものであろうか。
「はっきりとは言い切れませぬが、陛下が早めに射精なされれば大丈夫かと」
それも制御できるから構いはせぬ、意識さえすれば、触れてなくとも最速1秒で可能だが。最長は現時点では4時間完全に制御下における。試せば24時間くらいは制御できるのではないかとも思うが、そんな事試す必要もないのでな。
初めてそなたの口を感じた時、あまりに心地よく永遠にそれを感じていたかったが為、完全に調節しそなたの顎が外れるまでやらせてしまった余を許してくれ。
エバカインが『お兄様が全部欲しい』と言っておる……少々言葉は違うが、そう言う意味であろう。
あまり早いのもどうか? 全て収めて出来る限り優しく動くか。
「お兄様に、気持ちよくしていただくと全てを収める前に私の意識が無くなってしまいます! 絶対にお兄様の全てを受け入れたいので、それを受け入れた事を実感したいので、何もせずに挿れてください。楽しくは無いかもしれませんが、この弟の愚かな願いをかなえてください」
死ぬ
本気で死にそうだ。
エバカインよ、そなた兄に対して怒ってるのか? もしかして怒りから兄を殺そうとしておるのか? いや、それならばそれでも良い。
これが萌えの海で臨死体験というものか。あまりの事に呼吸困難になっておる。まさにそなたに溺れて溺死だ。だが萌えの海で溺死しておる場合ではないぞ、レーザンファルティアーヌ・ダトゥリタオン・ナイトセイアよ! エバカインの望みを叶える為には、萌えた海を全力で越えねばならぬ。
かつて人類が地球上におった頃、新天地を求めて質素な船で大洋に漕ぎ出した。当然気象も制御されておらなかった時代、途中荒れ狂う海で船は木の葉のようにもてあそばれたと聞く。
荒れ狂うエバカイン萌えの海では皇帝という称号も、頼りなき木の葉と例えられた船と同じ。その船にしがみ付きながら何とか自分を保ち、必死にそなたに到達せねば!
「エバカイン、平気か」
「だ、大丈夫ですから……一気に」
「無理をするなと、言っておるであろうが。余の言うことが聞けぬのか?」
エバカインが自分で準備しておった故、ある程度まではそれなりにスムーズに入ったが、さすがにな。
少し進むだけで、よほど苦しいのか汗を噴出させ、力なくかすれた声を上げる。
押し広げるように侵入すると、最早声にならぬようで口をぱくぱくとさせるだけになってしまった。ちょっとそのぱくぱくとしている口に指を挟みこみたいが、此処はそんな事をしている場合ではないな。
さすがにこれ以上は危険であろう。汗ばみ、ほんのりと桜色に染まった肌の愛しいエバカインの体から離れるのは余としても残念だが……そう思ったのだが、エバカインが抱きついてきた。離さないといった素振りで、力一杯な。この程度の力ならば簡単に振りほどけるが、力ではなく精神的に振りほどくのは無理。
そこまで兄が欲しいと申すのならば、
「ならば、望み通りにしてやろう」
そなたからこのような望みが聞けるとは。兄は感激のあまり、どうにかなってしまいそうだ!
「あ……ぃ……ああ……」
軽くゆするだけで、余の下でエバカインが苦しそうな声を上げ、絡み付いてきておった手足から力が抜けてゆく。
全てそなたの中に入って心地よいが、これ以上はむりであろうな。目の部分に手を当て、体を押えて二、三ゆっくりと突き上げて終わった。行為自体はゆっくりと、短いものであったが、心のそこから余はそなたに囚われた! 今更囚われたと言った所で滑稽以外の何物でもないが! その前に引き抜いておくか。
体が圧迫から開放されたエバカインは、それでも浅い息のままだ。深呼吸が出来る程の体力が残っておらぬのであろう。
「お兄様……いかが、でした、か」
苦しい息のまま、笑顔を作り話しかけてくるエバカインの髪を撫でつつ、医師達を呼び寄せる。
「そなたの内が悪い事は一度もない。全て収まらずとも、そなたの顔を見ているだけで充分だったのだが。本日は最高であった。さあ、治療してゆっくりと休め」
本当は治療が終わるのを待ち、そこからゆっくりと話をすればよいのだろうが、何分忙しくてな。
それにしても可愛らしかった。
苦しそうに体を捻る、あの細腰(87cm)突き破ってしまうのではないかと、不安になる。
「陛下、ゼンガルセン王子の艦隊の動きについて、私は一切知らされておりません。ですがこの場にいるのは相応しくないと誰もが考えておりますので、独房にて待機を」
「気にするな、ダーヌクレーシュ。主も居心地が悪かろうが、もう暫く余に従っておれ」
あの苦しそうに喘ぐ口、そして喉、首。
息を吸おうと必死に上下する喉仏、万歳!
「よろしいのですか?」
「構わぬ。主一人、ゼンガルセンに通じておった所で余が遅れをとると思うか」
「いいえ」
「ならば気にせずにそのまま職務についておれ」
涙が浮かんだ琥珀色の瞳と、微かに微笑むはどこか儚さを感じさせる。
「御意」
どれもが余にとって完璧なる好みだ。
全く、内面が全て好みだというのに外見まで好みとは、宇宙には奇跡というものがあるのだな。シュスターとエターナ、両者共々容姿も性格も好みであったように。
そう言えば、エバカインにとって余の顔はどうなのであろうか?
余の顔自体は整っておるのだが、全部が適当に寄り集まった顔ゆえ、好みではないかも知れぬな。
寝言で正直に答えるエバカインだ、後で聞いてみるか。起きておるエバカインに聞いたところで、正直に答えぬであろうからな。余としては正直に答えてくれても良いのだが、家臣だと言う事を気にしておるようだ。
余に休息を取らせる為、医師達に依頼され、治療を拒み熱を出して眠っておるエバカインの髪を撫でながら、問いかける。
「エバカイン。余の顔は好みか?」
「…………大丈夫です」(寝言)
微妙であるな。我々は整形した所で時間が経てば完全に元の顔に戻ってしまう、顔の遺伝に手を加えた結果なのだが、とにかく頑固に絶対元通りになる。よってこの顔を変えるとなると、整形を繰り返すしかない。こまめに整形を繰り返すか?
だが、臣民に顔を晒しておる余が、今更整形というのもな。そんな事をすれば、裏を探られるのは明らか。エバカイン好みに顔を変えたとなれば、エバカインがとやかく言われるであろう。
エバカインよ、兄の顔は好みではなくとも我慢してくれ。それ以外の事は努力する。
熱の出ておるエバカインを隣に、カルミラーゼンに連絡を入れる。公的な会話が終わった後、離宮で過ごした日々はどうだったかと尋ねられた。その際、
「全部一度に使った」
カルミラーゼンが準備した薬などを一度に使った事を報告すると、表情が変わった。
カルミラーゼンが怒る時の表情は、リーネッシュボウワに似ておる。普通の顔から怒りに変わるまでの表情が、とても似ておる。血が繋がっておるから当然なのだが。
『陛下! あれ程! あれ程一つ一つで使ってくださいと!』
ああ、クロトロリアを責める時のリーネッシュボウワの表情にとてもよく似ておるな。
「そう怒るなカルミラーゼン」
と言う事は、今余はクロトロリアのような表情をしておるのであろうか?
顔は全く違うが、あれと余は親子。そう考えれば、複雑な心境になるな。
『エバカインの事がお気に召しているのは良く解りますが! もう少し優しく扱ってください。エバカインは可愛らしく儚げな私の自慢の息子なのですよ』
「待てカルミラーゼン。何時からそなたエバカインの父となった」
『王になりましたら、早急に家名を与えて後見人となりますから父なのです。正妃……ではなく正配偶者になる、それも後ろ盾もないのに陛下のご寵愛を一身に集めているとなれば、私が父として守ってやらねば虐め殺されてしまいます! ですからぁ!』
「そう声を荒げるな。此処で寝ておるエバカインが目を覚ましてしまうであろうが」
『大声上げさせてるのは陛下です! そしてエバカインが熱を出して寝ているのも陛下が! 陛下が! ひどいですぅぅ! 陛下ぁぁ!』
「落ち着けカルミラーゼン」
『いやぁぁ! 兄上の鬼畜!!』
帝国一の拷問上手にそう言われてしまうとは……悪かったな、エバカインよ。
やっとの思いでカルミラーゼンを宥め、通信を切り少しだけ空いた時間でエバカインの体のパジャマを取り替える。確かにこういった事をしたいと願ってはおったが、苦しそうなエバカインの世話というのは、全く楽しいものではない。想像しておる時はそれなりに楽しかったのだが、やはりエバカインは元気に笑っておるのが良い。
治しても傍におると言いたい所だが、このままの状態にしエリザベラの処刑に立ち合わせない事に決めた。
この状態のままであれば、処刑に立ち会わせる事はできぬ。帰還中からの不調であれば、処刑から逃れたとも言われまい。本当は治療させ、皇君として立ち会わせようと思ったのだが、カルミラーゼンが画面の向こうで暴れ出したので。
カルミラーゼンを宥めるためにも、そして何よりも[首が切り離されてもしゃべる事が出来る生命力]を見せ付けるのはな。
そなたに全てを語らぬといった以上、我々の異様なまでの生命力の一端を見せることは出来ぬ。だが、この先も処刑する以上、やはりそなたには告げた方が良いのであろうか? それとも……兄にもう少しだけ時間をくれ、もう少しだけ悩ませてくれ。
「済まぬな、エバカイン」
「おにいたん……しゅき」(おにいちゃん……好き)
「…………」
そなたは寝言で、夢の中で必死にあの言語を反芻しておるのだな? 喃語を! 喃語を!
余は今幸せを噛み締めた! 言葉に出来ぬ幸せというものだ!
医師達よ、余はエバカインの隣におると全く休憩にならぬ。それに早く気付け。最も、これも教えてはやらぬが、何せ幸せだから。
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