PASTORAL −121
十五歳のエバカインの可愛らしいことと言ったらなかった。
即刻、むにむにして、はむはむして、ずーりずーりといきたかったのだが、皇族に迎えたので色々な儀式が待っている。
その一つに、男性機能が大丈夫か? なるものがある。正確に言えば、男性機能が女性に対して機能するかどうか? 何せこの帝国、初代が同性愛者というかエターナ好きだったので、男に走る男が多い。それを無視し結婚させ、離婚騒動なり不倫騒動が起こり、その度に調停するのに歴代皇帝も帝国も疲れ果てたので、男が好きならば男好きと確りと明言し女と結婚するなという方針を採る事にしておる。
無論女好きな女も同じだ。
ただ性向が同性であっても、異性とは一度は共にする。それで本当に駄目なのかどうかを確認しなくてはならない、偶に性向が思い込みであったりする事もあるため。
この検査をしないのは、皇帝の夫や妻となる者くらいである。これ達は、自分の嗜好など尊重してもらえぬ。皇帝も然りだが。
余は男も女も子供も老人も『おーる おっけい! どんとこい!』である。
さて、エバカインだが十五歳であるからしてその検査に臨むことが出来る。どちらの性別が好みかは、エバカインの生活からは判明しなかった。どちらにしても余の傍に置くのだが、女が好きであれば余の相手をしつつ女と関係を持つ事にしよう。
何にせよ、男も女も知らぬエバカインの初体験! 確りと立ち会おうではないか。
エバカインが女を抱いている姿は、それはそれで可愛らしい。あの一生懸命さが、もう……見ているだけで余が達せられる。手取り足取り教えてやりたくなる!
そんな事をしたら、余も混ざってしまいそうだ。ははは、初体験は乱交は不可であるから混ざるわけにはいかぬが。それにしても可愛らしい腰使いだ。
相手をいたわる気遣い、初とは思えぬ気配りと優しさ、兄は感動しておるぞ。
その精一杯さと、誠実さから相手をさせた大公と結婚させようかと思ったのだが、問題は翌日に起こった。
「覚えておらぬ、と」
医師からもたらされた報告。
「はい」
カウタはその容姿から元々疑っており、実際そうであったが、エバカインまでその体質を背負わされていたとは。
ケシュマリスタは元々が性愛玩具として作られた生き物。人間が作成した為、完全にはならなかった生きた玩具。幾種類にも作られた “生命” その中の快楽性行為用に作成された玩具こそがケシュマリスタ。
性行為玩具としての機能を重視した事、性行為自体が人間の本能とは違う位置付けにある。そのため人間の近くていながら全く違う “それ” が一個の “種族” として人間と交じり合った時、色々な破綻が現れた。
最も大きいのは寿命。奴隷などの純粋な人間であれば「250才」まで生かす事は可能だが、我々は劣化が早い人工生物の血を引いている為に、現在の科学力を用いても「121才」が限界。
その為、寿命は120年までと定められている。
そしてザデフィリアの体質も、この破綻の一つだ。玩具は妊娠する必要はなかった、クローン作成のほうが効率良く数を増やすことができた為に。
それでも妊娠できるのは、玩具に『妊婦』を求めたものがあった為だ。それは繁殖の為ではなく『妊婦』と『胎児』をもて遊ぶ為のもの……それ以上は言わぬし、その続きは我々ならば誰もが知っておる、あの新たなる原罪を。
ただ、その『妊婦』という性能が僅かばかりケシュマリスタにあったが故、宇宙はかつてと全く違う世界を形成せざるを得なくなった。
シュスターはロターヌと交わり、デセネアなる ”娘” をもうけた。
ケシュマリスタとの交わった事により我々は独特の血統を得た。
そして何よりもケシュマリスタの姉弟は「対男性性処理用体」であった為、その性質を受け継いでしまった結果 ”男性の同性愛者” を多く生み出す結果となった。
この真実を覆い隠す為に「シュスター・ベルレーはエターナを好んでいた」という事実を流布させたのだ。通常であらば、このような噂など統制するものだが、敢えてそれを流した。人々は好んでこの噂に群がっておるようだがな。
性愛玩具として『作られた』ケシュマリスタと、人間であったロヴィニア、テルロバールノル。そして人間を『やめさせられた』シュスターと、自ら人間を『やめた』エヴェドリット。
この五人が混ざった体質は、手の施しようがない。我々が血族結婚に拘るのは、純粋な人間を我々の “血の頚木” と呼ばれる特殊な血に組み入れたくはないからだ。それとこの特殊な血が薄まると我々は死ぬ。死ぬというよりは、身体を形成していられなくなる。
我々は、危うき細い糸の上を目隠しで歩いているような状態の生物である。
身体のどこかを都合が悪いので、別の性質に替えようとすれば、一挙に全てが崩壊してしまう程に。
カウタの記憶を通常の人脳に移し、それを移植すればカウタは死ぬ。カウタの脳と同じものを作り移植すれば、それは即座に前の脳と同じところまで劣化する。様々あるのだが生まれついた体質は、決して治療で変わることはない。それが現状であり、恐らく未来永劫変わる事がないであろう。
だが、悪い事ばかりではない。性質が上手く組み合わされば、通常の人間ではあり得ない、類稀なる性能を誇る身体や脳となるのだ。
余と三大公には幸い「負」に働く体質・性質はなかった。故に、エバカインに関して安心しておったのだが、若干出てしまったか。
確かめさせた所によると、エバカインは行為を行った事は覚えているのだが、誰と行ったのか全く思い出せないのだと。
「一夜の相手は記憶できないようです」
「時間をかけて相手との関係を築いてからならば、行為を記憶できる可能性もあるのだな」
「はい。ですが、行為その物を行った事実は覚えていらっしゃいますので、婿に出すには何の問題もないでしょう」
婿に出すのではない! 余の傍に置いておくのだ! だが待て……少し調べさせるか。
行為自体が脳に負担をかけるのか、それとも相手の認識に手間をかければ良いのか。前者であれば、伽どころの話ではない。これになる人間は先ず稀だ、カウタには若干この性質もあるが、それでも夫婦生活を何とか送っておる。
この性質は「商品サイクルを早くする」為に開発されたものだ。性処理用に販売されている ”ソレ” が長持ちしては困る。買い換えてもらわねば利益があがらぬ。
買い換えさせるにはどうしたらよいか? 答えは簡単だ、壊れてしまえばよい。
だが、目に見えるところに欠陥を設置しておいてはクレームをつけられる。ならば最も目に付かぬ場所である『脳』を『神経』を破壊するように細工したらと考え、性行為を行う都度、脳を破壊する酵素が分泌されるようにした。
購入者が何故気付かなかったか?
それもまた答えは簡単だ。クレームをつけると奴等はこう返した『お客さん、乱暴にあつかったでしょ。それ人間と同じ造りだから、激しく暴行加えるとおかしくなるんですよ。そこら辺が人間ぽくって、いいでしょ?』
暴行を繰り返せば気が触れてゆくそれは、宇宙規模のヒット商品になったそうだ。
カウタはこの性質をも継いでおる故、早くに後継者を儲け行為そのものを止めさせねば、脳にかかる負担が……カウタの事、今日はエバカインの後に考えよう。
後者の相手を認識は、恋愛結婚であれば事は簡単に済むのだが、皇族ではそうもいかぬ所。
前者であればエバカインを壊してまで抱くことになる。
あれ程子供の頃、見えない余に向かって『お兄様』と話しかけていた記憶なども失われていく訳だ、そんな切ない事できるものか! 後者であれば手の施しようもあるが。
その後条件をかえて二人の大公を抱かせてみたが、どれも見事に忘れ去る。片方を抱かせる際は確りと記憶しておくように命じ、一ヶ月間毎日会わせた後の行為であったが駄目であった。
「複合的、としか申し上げられません。下級貴族の血が入った為のイレギュラーかと。サンプルがありませんので、対処方法はございません」
過去に四大公爵、皇族ではない者を正配偶者にしたのは三名。だが彼らの子は “こちら側” の兆候は一切現れなかった為にサンプルがない。
そして過去に何名かいた下級貴族や平民、奴隷の妾妃や側人とその子供達は殺害されている事の方が多い。感情的な事が無いとは言わぬが、この特殊な血である以上、別階級を組み込みたくはない。だが、妾妃や側人の血縁が、貴族に繋がろうとする。それを黙認していては裾野が広がる一方。
庶子の殺害が下火になったのは暗黒時代以降、我々の数が減った為の緊急措置。ある一定の数に達すれば、再び処分が開始される筈である。
アレステレーゼのように、全く親族がおらず今も他人と殆ど交流しないような者であれば良いが、そうでなければ血縁の拡大を食い止めねばならぬ。
皇帝として、この血が銀河にばら撒かれぬように、拡大せぬように見張る。それが皇帝としての目の一つ。よって歴代の皇帝は ”上級貴族や皇族などの血を引いていない” 妾妃や側人の子を殺す。
その結果、エバカインの治療に必要なデータは皆無というわけだ。
一回の行為で一ヶ月間の記憶が失われた。カウタと違うのはぼんやりと覚えている事と、全てを忘れるのではなく相手の事だけを思い出せなくなっている事。
そして一ヶ月毎日会おうが、一夜限りであろうが、忘れ方は同じである事。
体質であり、それ以上は調べられぬ医師を遠ざけ、実際に肌を重ねた大公達から話を聞く。全員、口裏を合わせた訳ではないだろうが、
『宮中公爵は愛している方と肌を重ねられば、決して忘れないと思います』
そのように言ってきた。
何たる恋愛体質! 夢のようなロマンティッ――クな体質! 都合よく性的玩具作ろうとしていた奴等め、ありがとう!! 確証はないが、多分それが成功したのだろう! ざまあみろレペリアンロ(ロターヌ・エターナの製作者)貴様の傲慢が時を経て、今此処で成功したのだ!
だが、あまりにも残酷である。
余の相手をさせてエバカインの記憶が曖昧になったら、余はショックで立ち直れぬ。そのまま精神的勃起障害になる自信を自身が訴えておる。
まだ皇太子一人しかいない余が、衝撃の傷心勃起障害になっておってはいかん。ただでさえ弟が四人しかおらぬ皇族、尚且つクロトハウセは同性愛者なのだから、余が確りと増やさねばならぬ!
せめて二十人くらいは子供を作ってから、ドキドキしつつエバカインを抱きしめたい。
『子供多数産ませよ』と命じている余が、それを達成できねば示しがつかぬ。
「宮殿に住まわせたら、我慢できなくなるな」
よって余は、帝星防衛主任の座を降りた後、エバカインを宮殿ではなく貴族街の実家に住まわせる事にした。ふーゆっくりと愛を育もうではないか。
余のそなたに対する愛は成熟しきってるがな。
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